22話「学園の仕組みと悪霊について」

 最初に篠本先生から座学についての説明を受ける事となり、一組の全員は姿勢を正して話を聞く体制に入った。無論だが優司もちゃんとノートを開いて何時でもメモが取れるようにしてあるぐらいには準備万端である。


「まず最初にこれは誰でも知っていると思うが敢えて言うぞ。それはこの学園に通う者の多くは霊媒師や陰陽師の家系であったり巫女も多くいる。だがしかし、極稀に例外として霊障を受けて能力に覚醒した者もいるという事を覚えておけ」


 篠本先生は全員に顔を向けながら、この第一名古屋学園に在籍している生徒達の事を話した。

 確かに周りを見ればクラスメイト達の雰囲気は何処となく幽香が発するものに似ていて、一般の人からは見られない独特な空気感があるように優司は感じられた。


「だがここで言う霊障とは主に悪霊から直接攻撃的な被害を受けて、無理やり覚醒させられてしまった力の事だ。恐らくこのクラスにも何人かはいるだろう。だが心配は無用だ。後天的で得た能力であっても先天的に持っていたとしても大した差はない。私は平等にお前達を鍛え上げるからな」


 優司は篠本先生を食い入るように聞いていると、悪霊によって直接人体に被害を受けると霊感が呼び起こされ能力に目覚めてしまうものだと知った。


 だがそこで彼は考えた。その説明が本当なら自分や、あの日共に悪霊にやられた親友達は能力に目覚めてしまったのではないだろうかと。

 しかし当の本人達は専門機関に搬送されて昏睡状態のままで確認のしようがない。


「そして警察や自衛隊にも対悪霊の専門的な組織があり、この学園の卒業生の多くは会社員、神主、といった感じに普通に働きながら日々悪霊を祓っている」


 優司が親友達の身を案じていると次に篠本先生が放ってきたのは公務員の多くにも悪霊に対する専門家がいるという事だった。つまり悪霊とはそれほどまでに人々に害をなす存在で、悪霊祓いとは生半可なものではないと言う事なのだろう。


「……とまあ、ここまで大雑把に色々と教えたが霊感を持っているお前達の中にはこんな経験があるんじゃないか? 例えば鏡や人形から異様なほどの禍々しいオーラを放っているのが見えるとかな」


 篠本先生のその言葉に優司は背中を思いっきり殴られたかの衝撃を受けた。

 なんせそれは彼があの悪霊と出会った最初の出来事であるからだ。

 あの日、あの時、異様な雰囲気を放っていた手鏡に関わらなければ――――


「それは物であり、建物であったり、はたまた人であったりと色々とあるが、そんな異様なオーラを纏っているのが確認できたらまずは悪霊の存在を疑え。決してそれは正常ではないからな」


 親友達を守れなかった後悔の記憶が優司の中で入り乱れていると篠本先生は強めの口調でそう言い切って、彼は俯いていた顔を咄嗟に上げると今度こそは失敗しないと拳を握り締めながら誓った。

 

 仮にもし知らない誰かがあの日の自分達と同じ事をしそうになっていたら次こそは絶対に守ろうと。二度と自分達と同じ目に合わないように必ず悪霊を祓うと。


「あー、あとそのオーラが感じ取れるヤツは潜在的素質を持っている者が多い印象だな」


 急に思い出したかのように付け足してくる篠本先生。その潜在的素質とは霊感の事なのか、または別の事なのか優司には分からなかったが取り敢えずメモは取った。


「そしてここからは結構大事な話となる。ゆえに良く耳を澄ませて聞いておけ」


 先程の軽い声色から一変して篠本先生の声は覇気の篭ったものへと変わった。

 そのただならぬ様子に優司の隣の席に座っている幽香も何処か緊張しているように見える。


「お前達は今から悪霊に対しての基礎知識と戦いを学んだ後に任務というのが始まる。それは簡単に言ってしまえば民間の方々から悪霊を祓ってほしいと言う依頼をこなすことだ。請け負う任務は上級、中級、下級、となっている。ちなみに悪霊にもランクがあってS、A、B、C、とSが一番高い部類となっている。だが変に身構えることはない。ちゃんとその生徒の実力に見合った任務を用意するからな」


 篠本先生が真剣な表情で語ってきたのは優司達新入生が一通り基礎的な事を学び終えてからの事についてだった。

 どうやら今後、任務というのが始まるらしく依頼をこなさないといけないらしい。

 流石は実践主義の第一名古屋学園だけの事はあると優司は思う。 


「次に任務を受けた場合だが、当然校外へと出て現地に足を運ぶ必要がある。その場合は欠席扱いにならないから大丈夫だ。さらに必要であれば他の者を誘って人数を増やして受けても構わないとしている」


 確かに依頼ともなれば学園の外に出なければならないだろう。それも休日であれば何も問題ないが平日ともなればそうはいかないのではと、少しばかり優司は心配していたのだが杞憂だったようだ。それに任務には他の人も誘って良いという事から彼は絶対的に幽香を誘おうと決めた。


「あとは……そうだな。お前達生徒全員には徽章という物があり、金一級、銀二級、銅三級、といった個々のランクも存在するな。無論だが金一級が一番トップであって任務の成績によって昇格する。お前達はまず一番下の銅三級から始まるが、まあ直ぐに銀二級ぐらいは取ってくれるだろう?」


 そう言って何故か威圧的な視線を全員に向けてくる篠本先生。

 その瞬間だけ優司を含めて全員が顔を背けたに違いない。

 恐らく自分が教えるのだから銀二級ぐらい容易く取れないと困ると言った感じなのだろう。


 しかしそこで優司はふと手荷物検査の時を思い出していた。

 あの時は焦っていてよく分からなかったが、冷静になって思い起こせば生徒会の人達は皆一様に銀色に輝く徽章を襟元に付けていた気がしたのだ。


「あとこれは余談だが一学年の頃で金一級を手にした者は現生徒会長と三年の一部だけだ。そして現在金一級を持っているのはこの学園では片手で数えられるぐらいしか居ない。つまり学年が上であろうと下であろうとそれに見合った色になるわけではない。まあ、お前達も頑張れば金一級を手にする事ができるかも知れんがな」


 篠本先生の話によれば一学年の内に金一級という徽章を得たのは入学式で挨拶をしていた生徒会長の天草夕香里と一部の三年だけらしい。しかもその総数は片手で数えられるぐらいという事。

 それは即ち、かなりのレベルでないと金一級の徽章を得る事は叶わないという事だろう。


「はい質問です! その金一級とかになると何かメリットはあるんですか!!」


 と、そこへ一人の男子がその言葉と共に篠本先生に訊ねていた。

 優司はその聴き覚えのある声につい視線を向けると、やはりと言うべきかそこには同士裕馬の姿があった。


「良い質問だ。もちろんメリットもあるぞ。それは色によって毎月学園から貰える金額が違う事と何でも一つだけ願いを叶えて貰えることだ。無論だが常識の範疇での事になるがな」


 それに対して篠本先生は指を鳴らして彼の質問に反応すると、徽章の色が変わると起こるメリットについて話しだした。


 しかしながら彼女が最後に放った”何でも願いを叶えてくれる”という言葉だけはクラスの全員に深く響いたのか、優司は周りからは皆一様に闘士のようなものを湧き起こさせているように感じていた。主に男子からの圧が凄まじく、一体何を願う気なのだろうかと優司は気になるほどだ。


「……と言ってもほんの一握りでしか、金一級にはなれなさそうだよな」


 周りの皆がやる気をみなぎらせているのを優司は見ながら隣の幽香に話しかけた。

 だがそこから間が空くと彼の方から一向に返事が戻ってくる様子がなく、何かあったのかと優司は幽香へと視線を向けた。


「あ、ああ。なるほどな……。お前もなのか幽香よ……」


 すると視界に映ったのは何やら深く考え込んでいるような幽香の姿であった。

 しかし優司のなんとも言えない気持ちの篭った声が幽香には届いたのか顔が彼の方へと向くと、 


「へっ!? い、いやち、違うぞ! 僕はただ単に先生の話に集中していただけであって、決して願い事なんかに興味を惹かれていたわけではっ!!」


 急に慌てた様子で身振り手振りを使って必死に否定の言葉を繰り返していた。

 だが優司的には否定されるとより一層、なにを願おうとしていたのか気になるばかりである。

 ――がしかし、ここでHRの終わりを告げるチャイムが校内に鳴り響く。


「では全員、今から除霊具を持って第一グラウンドに集合せよ。そこで悪霊と戦う為の実践基礎を行うッ!」

「「「「はいっ!」」」」


 チャイムを引き金として篠本先生が教卓に両手を乗せて若干身を乗り出しながら次の指示を出すと、一組の全員は返事をしてから各自が持ってきた除霊具を携えて一斉にグラウンドへと向かうのだった。

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