34. わくわくいっぱいの文化祭
「もうすぐ始まっちゃうよー!」
「宣伝看板ってどれー!?」
「ねぇ、ここの暗幕外れかかってるよ!」
ガヤガヤと騒がしい1年B組の教室……いや、学校全体が賑やかだ。それもそのはず、今日は文化祭である。
「はい、宣伝看板」
頬や手に血のりを着けたミオが小道具に埋もれていた手づくり宣伝看板を見つけ、宣伝担当のクラスメイトに渡した。
「ありがと〜音木さん!」
クラスメイトを見送ったミオは、いったん廊下へと出た。
ミオたち1年B組の出しものは、お化け屋敷である。見慣れた教室がおどろおどろしい装飾によってお化け屋敷へと変わっている。
「あ、ミオちゃん!ねぇ、大丈夫?さっきから教室で騒がしい声が聞こえてくるけど」
廊下には受付け担当の猫耳カチューシャを着けたヒナタが心配そうな表情で、ミオと教室を交互に見た。
「あ〜ちょっと暗幕が外れかかってたけど、すぐにガムテープで補強してたし大丈夫」
「大丈夫ならいいんだけどね〜」
そうして二人が話していると、ピンポンパンポーンと校内に響き渡る。
『作業中の生徒さんは、いったん手を止めてください』
スピーカーから生徒会長であるツバキの声が聞こえてきた。
ザワザワと騒々しかった校内が静かになる。
『ただいまより、文化祭の開始となります。生徒のみなさん、文化祭を楽しみましょう!』
パチパチと生徒たちが拍手。
ガラッと教室の扉が開き、お化け役のクラスメイトが顔を出した。
「あ、音木さん!そろそろ準備しよ!金森さん、受付けと呼び込みよろしくね〜」
「うん。いま行くね。それじゃあヒナタちゃん、またあとで」
ミオは真っ暗な教室の中へ、ヒナタは廊下へと残った。
ミオとヒナタたちの鶯高校で初めての文化祭、開幕である。
ミオの仕事は仕掛け担当だ。懐中電灯をカチカチ点滅させたり、霧吹きで水かけたりする。
真っ暗な教室の中、物陰に隠れるミオ。すると、ふわりとミオがはめている指輪が光ったのだ。慌てミオは指輪を手でおおう。まだお客さんがいないとは言え、光が漏れてはいけないと思った。
「わ!真っ暗!」
ミオのすぐそばに現れたロロンが驚いた声をあげる。妖精の声は普通の生徒に聞こえないのが幸いだ。
「あれ?もしかして私、ジャマだった?」
表情はよく見えないが、申し訳なさそうな声色でロロンはそっと言った。
「まだ大丈夫。お客さん来てないから」
「それなら良かった〜。ミオちゃんとヒナタちゃんたちはお化け屋敷だったね。それにしても、本当に真っ暗〜」
ロロンはきょろきょろとあたりを見回す。そして、黒板の方を見て「うわぁ」と思わず言った。
教卓にぽつんと置かれた懐中電灯が黒板を照らしている。照らし出された黒板には、荒々しい筆跡の文字で埋め尽くされていた。
「地獄に引きずり込んでやる……苦しい、怖い、辛い、誰か助けて、呪ってやる……」
ロロンが黒板に書かれた文字を読んでくる。
「ま、待って、ロロン。私の耳元で言わないで……!すごく怖いから……!」
ミオはぶるりと震えた。
そんなこんなで、教室の扉がガラッと開き、ヒナタの「それでは、いってらっしゃーい」という声が聞こえてきた。ついにお客さんが来た!
ミオは気を取り直し、小道具を握り締める。そして、お客さんの様子を伺いつつ、ミオは小道具を使うタイミングを見計らっていた……。
「は〜……やっと自由時間だぁ」
ぐーんと伸びをするミオ。
「ぎゃーっ!って騒ぎまくるお客さん見るの面白かったねぇ」
ミオの肩に乗っているロロンがニコニコ笑顔でそういった。
ロロンはずっとミオと一緒にいて、真っ暗な教室の中をさまようお客さんたちの様子を見て笑っていた。
「お疲れ様〜ミオちゃん!ね、早く体育館行こう!」
受付け業務が終わったヒナタとミオは合流し、体育館へと向かった。
「あ、お〜い!ミオちゃん!ヒナタちゃん!」
体育館に入り、開いている席を探していると、ツバキがミオとヒナタを見つけて呼んだ。
「ツバキ先輩!来てたんですね〜」
ミオとヒナタはツバキのそばの席に座りつつ、ミオがそう言うとツバキは「そりゃあね〜」と言う。
「だってハルキ先輩のクラスの出しものですもんね。楽しみだな〜『ガネーシャの首探し』」
ヒナタがチラシを見ながらそう言った。
ハルキたちのクラスの出しものは演劇。タイトルは『ガネーシャの首探し』だ。
「ガネーシャってインドの神様だよね」
ミオはチラシに書かれたあらすじを見ながらそう呟いた。
「そう。ヒンドゥー教のね。シヴァとパールヴァティーの息子だって」
ツバキが頷きつつそう言った。
「へぇ~。たしか、ガネーシャって象の頭の神様でしたよね〜?」
ヒナタがそう言うと、ツバキが詳しく説明してくれた。
「そうそう。パールヴァティーが入浴時の見張りとしてガネーシャを生み出したんだけど、帰ってきたシヴァのことをパールヴァティーの夫だと認識できなくてもめちゃって、シヴァがガネーシャの首を切ってしまう……で、後でガネーシャが自分の息子だと知ったシヴァが、首を探した結果、象の首になった……簡単に説明するとこんな感じね〜」
ツバキの説明がわかりやすくてミオたちは思わず小さく拍手。
「それにしても、息子の首を切っちゃうなんて。うぅ……なんか見るの怖くなってきちゃった」
ヒナタがぶるりと身を震わせた直後、演劇が始まるアナウンスが聞こえてきたのだった。
劇が始まってみれば、小難しい神話の話……ではなかった。まだ劇の最初の方だが、すでにシヴァとパールヴァティーの夫婦のやり取りが面白い。
そして、パールヴァティーが見張りとしてガネーシャを生み出すシーンへ。
舞台に現れたガネーシャは……
「え、ハルキ先輩、ガネーシャ役だったの……!?」
ヒナタが思わず小さな声でそう言った。ミオとツバキも驚いた表情でハルキを見た。
ガネーシャ役の生徒はなんと、ハルキだったのだ。
頑なにハルキは何の役割か教えてくれなかったのだ。秘密の庭園に顔を出せないほど忙しくしていたのは知っていたが、まさか役者とは。
そして劇は進んでいき、より一層ドタバタコメディになっていった。
「面白かった〜!」
ツバキは満足そうな顔でそう言った。
「なんか難しい話かなーって思ったけど、コメディだったし、すごく面白かったねぇ」
ヒナタの言葉にミオも同意だ。うんうんと頷いた。
「あとで、ハルキに『劇の内容、面白かったし、ガネーシャ役似合ってたよ』って言わなきゃね〜」
ツバキたち3人は劇の感想を色々と言いつつ体育館を後にした。
「次は何を見よっかな〜」
ヒナタがウキウキと文化祭のパンフレットを開く。そこでツバキがヒナタとミオの顔を覗き込んだ。
「じゃあ、次は私たちのクラスにおいでよ〜!今ならミナトが店番してるから会えるよ」
ということで、ツバキに連れられてミオとヒナタはミナトがいる3年生の教室へ。
「なんでツバキがいるんだよ」
ミナトは怪訝そうな顔でミオとヒナタと一緒にいたツバキを見た。
「お客さんとして見るのもいいなーって」
「へぇ~でも内容知ってるし、つまんなくね?」
「まぁいいじゃん。ほらほら、中に入れてよ」
「わかったわかった。それではお客様、暗いので気をつけて中へお入りくださいー」
ミナトに案内されて3人は教室へ入る。
「わぁ……!キレイ」
「すご〜い!」
教室に入ったミオとヒナタは感嘆の声を上げた。
ダンボールで作られた大きなドームの内側の壁には星形の蓄光シールで星空が浮かび上がっていた。
ツバキとミナトのクラスの出しものはプラネタリウムだった。
「え〜では、星座の解説をします。あそこに見えるのが……」
「見えるのが……?」
「……なんだっけ」
水中生物には詳しいミナトだが、星は全くである。
ミオたちはミナトとたどたどしい解説を聞きながら蓄光シールで作られた星空を眺めたのであった。
ミナトたちのクラスのプラネタリウムを出たあと、ツバキは同級生に誘われたのでミオたちとは一旦別れた。二人であちこちのクラスを回り、そして、ミオとヒナタは中庭のベンチに座り、2年生が出店していた一口カステラを一袋買ってきて、はんぶんこして食べていた。
「さっきのクラスのフォトスポット、楽しかったね〜」
「うん。色んな顔出しパネルがあって面白かったし、お花で作ったアーチとか……黒板アート凄かったよね」
「ね!美術部の子たちを筆頭に描いたらしいよ。オシャレな黒板アートを背景に写真撮れて最高〜!」
ヒナタとミオはスマホの写真フォルダを見ながらカステラをもぐもぐ。
「いいねぇ。なんか私たちもお祭りを庭園でやりたいな〜」
そこで、大人しくミオとヒナタの肩に乗っていたロロンがぽつりと呟く。
「庭園が完全復活して、女王様がお目覚めになられたら、みんなでお祭りしたいねぇ」
フェルもうんうんと頷きながらそういった。
ロロンとフェルはずっとミオとヒナタと共にいて、文化祭の雰囲気を楽しんでいた。
「庭園の完全復活に女王様の目覚めか……」
ミオはふと、指輪を見た。
庭園にある封印された悪魔の像を浄化……時々、封印が解けた悪魔を退治したり、悪魔の影響で空き地になっていた場所を復興させたり、妖精の頼みで新たな施設を作ったり、もしくは強化したり。
庭園の復活に、女王の目覚め。もっと先の話だと思っていたが、もうすぐとなりつつある。
「女王様がびっくりして、ワクワクな気持ちでいっぱいになっちゃうような賑やかなお祭りにしようね!」
ヒナタはニコニコ笑顔でロロンとフェルを見た。
「文化祭が終わったら、すぐに最後の悪魔の像を浄化しないとね」
ミオがそう言えば、ヒナタは「そうだね」と言う。
「秘密の庭園のことも大事だけど……今日はめいいっぱい文化祭を楽しも!私、まだ行きたいところあるんだよね〜」
ヒナタはそう言ってベンチから立ち上がった。
「じゃあ、さっそく行こうよ」
ミオも立ち上がり、パンフレットを出す。
「気になる〜」
「どんなの〜?」
ロロンとフェルも興味津々だ。
ミオたちはまだまだ文化祭を楽しむつもりである。
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