17. 壁の向こう側

灰色の空の下、ミオは前を行くロロンを追いかけて走っていた。


途中、たくさんの妖精達とすれ違った。

みんな、「怖い」「庭園がめちゃくちゃにされちゃう」と怯えていた。



悪魔の像がある草木が生えない灰色の地を踏む。

「え、コンクリの壁?」

荒い息を整えようとするミオは目の前の景色を見て戸惑う。

昼まではこの場所は悪魔の像以外、何もなかった。

なのに、今ではコンクリートの壁が何かを阻むようにそびえ立っていた。


ミオとロロンが壁の向こうに行く方法を探していると、声が聞こえた。


「暴れないでよぅ!!」


壁の向こう側から聞こえる悲痛な叫び声。


「この声!ヒナタちゃんっ……!」

ミオは壁を叩くがびくともしない。

壁の高さは5メートル程ある。よじ登るにも、足をかけられるような場所もないので難しい。

そんな時だ。

「音木さん!」

ミオが後ろを振り返ると、ハルキがパルと共に走って来た。

「先輩!大変です、この壁の向こうにヒナタちゃんがいるんです!」

「金森さんが?やばいっすね。急いでいかないと」

「で、でも、この壁の向こうにどうやって?よじ登るのは無理そうですし」

「だったら飛ぶしかないっすね」

「飛ぶ……」

ミオは不安そうな顔になる。

まだまだ魔法の使い方に慣れていない。

上手く飛べる自信がなかった。


「ミオちゃん、大丈夫!私がちゃんとサポートするから!」

ロロンがミオを元気づける。

隣のハルキも頷く。

「今回はオレ達も音木さんをサポートするんで」

「ロロン、藤居先輩にパル……ありがとうございます」


「よし、それじゃあ……パル、音木さん、ロロン、準備OK?」

ハルキの合図にみんな力いっぱい頷いた。


「ミオちゃん、想像して!どうしたら飛べそうか。どんなふうに飛んでみたいか!」

「う、うん!」

ミオはぎゅっと目をつむる。

そして、想像する。

脳裏に浮かぶのは、ロロンの姿だ。

飛ぶなら、ロロンみたいに飛んでみたいとミオは思った。

ミオのはめている指輪がふわっと光る。

ロロンは杖を取り出してくるりと回す。

黄色の光の粒がミオを包みこんだ。


背中に、ロロンと同じ妖精の羽が生える。


隣のハルキも背中にカラスのような漆黒の翼が生えていた。


「いやぁ~烏天狗みたいでカッコよくないっすか?」

「ハルキ、中二病〜」

「パル、うるさいっす。これはロマン!!」


2人のやり取りを見てミオとロロンはクスクス笑う。


気を取り直して、ハルキが合図をしてくれる。

「せーのーでっ!!」

ダンッとミオとハルキはジャンプする。


ひらひらと羽が動き、ミオ達は飛んでいた。

ちらちらと紫色と黄色の光の粒が羽の周りに飛んでいる。パルとロロンが魔法でサポートしてくれているようだ。


壁の上、ようやく壁の向こう側が見えた。

ミオはひゅっと空気を飲んだ。

壁の向こう側、ヒナタとフェルが身を縮めて寄り添っていた。

2人は半透明のドームの中にいる。

そして……

ガン、ガンと2人がいるドームを叩く者がいる。

「本当に動いてる」

ミオの口からそんな言葉がこぼれた。

昼までは固く動かなかった悪魔の像が今は動いている。

片腕を振り落として半透明の壁を叩く。


ビシッとひび割れる音が壁の上に立つミオとハルキの耳にも聞こえた。


「早くあの2人を助けないとヤバイっすね……!」

ハルキとミオは急いで2人の元へと飛んでいく。


「ヒナタちゃん!」

ミオが2人がいるドームのそばに降り立つと羽はすうっと消える。

「ミオちゃん!ハルキ先輩!」

ヒナタは涙目でミオ達の方を振り返った。

「うわ〜ん!みんなぁ助けて!!ヒナタちゃんと一緒に悪魔の被害を食い止めるためにコンクリートの壁を魔法で作ってほとんど魔力を使い切っちゃった!この半透明の壁も、もう保たないよ〜!!」

フェルが泣き叫びながらそう言う。

そんな時、悪魔の像が動きを止めた。

ミオ達を視界に捉える。


「お前達もか……この俺を消そうとしてるのは」

ズリ、と悪魔が近づこうとした。

ハルキとパルが一歩前に出た。

「頼むから大人しくしてくださいっす!!」

ハルキの指輪とパルの杖が鮮やかな紫色の光を生む。


気がつくと、悪魔は鎖でがんじがらめになっていた。

「小癪な」

悪魔は鎖を引き千切ろうとする。

すると、鎖が紫色の光りを帯びる。

「絶対に、引き千切らせないっす!!」

ハルキがそう言うと、さらに数本の鎖が現れて悪魔の動きを封じる。

悪魔は舌打ちをする。

「もう一度、この庭園をめちゃくちゃにして、妖精は一匹残らず喰らい尽くしてやる。そして、ここを悪魔達の楽園にするんだッ!!」

ギギギッと鎖が軋む音がする。


「音木さんっ!悪魔を、悪魔を浄化してくださいっす!オレとパルが止めている間に!」

ハルキが少し後ろで立ち尽くすミオに向けてそう叫ぶ。

「浄化……でも、どうやったら……!」

ミオは恐怖で動けなくなっていた。

「ミオちゃん、落ち着いて。大丈夫だよ」

ふと、隣にいるロロンにそう言われる。とても、落ち着いた声音で。

「ロロン……」

「ミオちゃん、想像してみて。どうしたら、あの悪魔を確実に浄化できるか」

「どうしたら、確実に浄化できるか……」

ミオは目を閉じて、考える。

どんな物を使えば、あの悪魔を浄化できるだろうか。

浄化の瞬間はどんな風だろうか。

いっぱい、いっぱい考える。

そして、目を開けた。

目の前には、頼もしい相棒がいる。


「ロロン、思いついた。アレを使えば、私、怖がらずにあの悪魔と対峙できる。浄化することが……できる!」

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