ヴィンデ
にゃんな
SA-0121
第1話
私たちは普通の女の子だったんだ。
「梨々香、早く遊ぼ! 」
友達と遊んで、寝て。
「梨々香、私たちずっっと一緒だからね 」
2人で
ふたりで……
ふたり‥……………………で……………………………?
◆◆◆
「あと1人、あと1人なんだよぉ゛! 僕はそれで満足なんだっ! それでいい…はやぐっ! あと1人! はやくはやくはやくはやく゛! 」
不気味な男が瓦礫の上に座りながら手を天に振り上げて喋っていた。その男は…
…………。
きっとここで2人とも逃げる事は不可能だと思う。というか無理だ。
「…………」
私は黙って琴都の方に視線を落とした。
私たちは2人、瓦礫近くの岩…いいや、外壁の影に隠れている
琴都は顔を青ざめ、震えながら口に手を当てて必死に息音を殺していた。
その顔を見ていると、今がどんな状況なのかを忘れそうになる。
私は静かに目を閉じた。
(…………よし! うん! 大丈夫! )
頑張って、テンション上げて、笑顔作って、必死に涙を堪えた。
(琴都、ごめんね)
もう、決めたことなのだ。
「ねえおじさん。その1人って、私で足りるかな? 」
足に力を入れて声を張った。
琴都は泣きそうな顔でこちらを見上げて、必死にこっちに来いと手を振っている。
男は少し意表を突かれた様子だった。しばらく沈黙が流れて、男は立ち上がらないまま口を開いた。
「お嬢さん、いいのかなぁ? 僕、1人って嘘かもよ? 」
(っ! …………気持ち悪い…………)
心の底から吐き気がした。そんな事、とうに分かってるのだ。でも、それでもやるのが私がやらなければならない事。私がこういう感情を抱いた時点で決めていた事。たとえ自分を犠牲にしたとしてもするって決めてたんだから。
「琴都、早く逃げて」
振り向かずに告げた。最後の別れを。きっと振り向いてしまったら、私も逃げ出してしまう。
「で、でもそしたら梨々香が」
「いいから早く!!!!!!!!! 」
私は叫んだ。喉がスリ潰れるくらい。泣きそうだったけど我慢した。
琴都は一瞬だけ青ざめた顔で体を揺らすと、泣きながら向こうへと駆け出した。
ごめんねと叫びながら。…………いや、これは思い出したくないから言わなくてよかったね。
「お友達…よかったのかい? 」
「お前1人には私だけで十分だって言ってんだよ」
もう限界だった。今日1日で全てを奪われた。お父さん、お母さん、隣のおじさん、家も思い出も全部。それだけでもこんなに神経がすり減っているのだ。きっと琴都にはもっと辛い思いをさせてしまうけど。でも命はもっと大切だって。わかってほしい。
私は満面の笑みでそこに落ちていた鉄パイプをとった。色あせた煉瓦の街にはふさわしくないその鉄パイプは、私の最後にはふさわしい。
男は腰を上げ、ナイフを取る。
そして手をこちらへ振り、いつでもこいと言っているようだった。
(言ってやるよ今すぐに!! )
「うわああああああああああああああ!!!!!!!! 」
私は男…………いや、化け物の腹に向かって突っ込んだ。
でも…………
勝負は一瞬だった。
男の持っているナイフは私の首を刺し、そのあともう一本のナイフが頭に突き刺さった。
「がっ…………あ゛…………」
もう声すら出ない。意識も飛んでいない方がおかしい。手も動かないし足も。
でも何故か意識はある。
(あ…そうか…)
きっとこれは神様がくれた時間なのだ。私が愛したあの子のことを思い出せる、時間。
(琴都、約束、守れなかったね…)
「…香! 梨…香! 」
(琴都…私は、こんな私でも、あなたの隣にいられて…)
あなたに触れられて。
あなたの隣で生きれて。
あなたの親友でいられて。
あなたの声に囲まれて。
幸せだった、よ?
◆◆◆
『獣人病、発症前患者を1人抹殺しました。子ども…でしたがよかったのですか? 』
「問題ない。獣人は我々の敵だ。全員殺せ。それは、我々の未来にもつながる」
『はい…………了解しました』
手に握っていた無線機を切り、先程あの少女に渡した亡骸を思い出す。
「我々の未来にもつながる? ふざけるなただの虐殺だろうが……! 」
私の名前はSA-0121。獣人を抹殺されるために生成された、人造人間である。
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