第5話 パラキ村


 村を出た俺達は剣の鞘を作って貰うためにディメールの街にいると言う鍛冶屋に会いに行く事にした。

 ディメールまで行く途中にパラキの村にも寄る予定だ。


「なあ翔、そろそろ休まないか?」

「村を出てから歩きっぱなしだったからな。 少し休憩するか」

 エルザの提案で脇道の岩場に腰を下ろして少し休む事にした。


「さーて、お待ちかねの酒だー!」

 エルザのテンションが上がっている。

 さては酒が飲みたいがために休憩しようとか言ったな。


「まだ酒飲むには早いだろ?」

「翔の荷物を少しでも軽くしてあげようと思ってな」

 そう言いながら既に袋から酒を取り始めている。

 まったく……。


「それで翔様、このままパラキ村に向かうのですか?」

「ああ、パラキ村は服作りの産地と言ってたから、エルザやシルクの服も買えるかも知れないぞ」

「まぁ!わたくし達の服も買って頂けるのですか!?」

「もちろん」


 2人にはお世話になりっぱなしだから服位はね。

 それに2人共今着てるの服じゃなくて、魔力を変化させて服に見せてるだけだから殆ど裸なんだよね……。


「さてそろそろ行こうか」

「翔〜ちょっと待ってくれ……」

 エルザの周りには空になった酒のビンが大量に転がっている。


「まさかこれ全部飲んだのか?」

「これで軽くなっただろ? じゃ」

 エルザは魔法陣の中へと消えていった。


「全く仕方ない精霊ですわ」

「荷物も軽くなったし、まぁいいよ」


 パラキ村に向かいながらシルクは俺の魔力についての質問に答えてくれていた。


「エルザとシルクを召喚したままだと魔力は減っていくんだよな?」

「そうですわね。 召喚する精霊が多ければそれだけ魔力の消費も多くなりますわ」


「初めて召喚した時、こんなに2人同時に召喚したままに出来たり、立て続けに召喚出来なかったはずなんだけど?」

「それは翔様の魔力残量が全く無かったせいですわ」

「なら今はどうなんだ?」

「そうですわね。 翔様の魔力量はわたくし達を全員召喚しても余りますわね」


 俺そんなに魔力量あるの?


「ならこれからは2人共召喚したままでも大丈夫と言う事か?」

「そうですわ」

 それなら少し一安心だな。


 それに俺にそんなに魔力があるなら俺が使う魔法ってもしかして凄い威力があったり、全ての属性が使えたりするいわゆるチートってやつでは……。

 ウヘヘ……。

『気持ち悪いぞー』

 エルザに言われた。


「少しやってみますか?」

 もちろん!

「お願いします!」


「まず、目を瞑って体の中にあるマナを感じて下さい」

「マナ?」

「はい、翔様の場合はわたくし達 精霊を召喚する召喚士ですから普通の魔法使いとは魔力の使い方が少し違うのです」


 マナを感じろと言われても……。

 あれか? 考えるな、感じろ!的な?


「説明だけでは難しいですわよね」

 シルクは俺の服の中に手を入れてきた。

「ちょちょっ!」

「ここで感じてくださいませ」

 シルクの白くひんやりする手が俺のお腹を触る。

「ここからこうですわ」

 シルクの手がお腹から胸部に上がっていく。


 シルクが密着しながら教えてくれるので、シルクの2つの山も俺に密着して山の形を崩している。


「……翔様?」

「え?」

「わかりましたか?」


 ……わかるかあ!!

 と叫びたいが、もう少しこのままでも良いような……。


『スケベ』

 は!

 違うぞ、魔力についてだな、まだ良くかわからないんで……。


『あたしを召喚しろ』

 わ、わかったよ。


「赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿を見せよ!」


 魔法陣から出てきたエルザの顔が怖い。


「よし、じゃあ、あたしも魔力について教えてやるよ」

 エルザの手がズボンにかかる。

「待て待てまてー!」


 俺は勢いよく2人から離れ、乱れた服を直し、と、とりあえず魔力の事はまた今度と言う事にした。


「お、見えてきたじゃねーか」

 パラキ村まであと少し。

 村は染めた服が道を挟んで沢山干してありとても綺麗と聞いていたが……。


 村の前まで来ても人が殆どいなく、服も干してある姿は見当たらない。


「静かですわ?」

「何かあったのか?」


 聞いていた村の様子とはだいぶ違う。 染め上げた服が太陽の光で綺麗に輝き、そよ風になびいている風景はとても綺麗だと聞いていた。

 今は服が干してあるどころか、人の姿すら見えない。


「酒場にでも行って聞いてみるか?」

「そうだな。 そうしよう!」

「まったく……」

 エルザは酒が飲めると思って歩く速度が速い。


 初めて来た村で酒場が何処にあるかもわからないのに、エルザは酒場まで迷う事なくたどり着いていた。

 凄いな……、火の精霊じゃなくて酒の精霊なんじゃ無いかと少し思ってしまう……。


「……いらっしゃい」

 酒場に入ると白髪で髭も綺麗に整えているダンディーでガタイの良いマスターがコップを拭いている。

 他に客らしき姿は見えない。


 エルザはいち早くカウンターに座ると「ヴィスキ」と注文していた。

エルザの前にヴィスキのボトルとグラスが置かれると豪快に飲みはじめた。

 飲み方が様になってて、ちょっと格好いいなおい。


「お前さん方何しにこのパラキ村に来た?」

「服を買いに来たんだけど」

「それなら諦めて帰った方がいい」

「何か理由でもありますの?」

「…………」


 俺とシルクの問いかけにマスターはダンマリしている。

 チラッとエルザの方を見るとマスターはゆっくりと口を開いた。


「部外者のお前さん方に言う事じゃねぇが、そこのネェちゃんの飲みっぷりが気に入ったからな……、少し話してやろう。 服の材料の魔物、【ザイデーガ】の数が最近めっきり少なくなっちまってな。 あの魔物が作り出す糸じゃ無いと良い服は作れねぇ」


「何故急に減ったのです?」

「ザイデーガが住処にしている場所に行ったらザイデーガを捕食する魔物【キャタピラス】を大量に見たと言う話しは聞いている」

 ザイデーガ……強そうな名前だが、それを捕食する魔物【キャタピラス】は更に強いのでは……?


「翔がなんとかしてくれるから任せときな!」

 おい! エルザ! 何を勝手に!


 マスターは俺達3人をジロジロと見ると首を振った。

「やめときな……冒険者でも無い子供にゃ荷が重い。C級の冒険者でもいないとキャタピラスは倒せねぇよ」

「まぁまぁ、あたし達に任せておけって!」

 エルザはマスターの肩をバシバシ叩くと、グラスに入っていた酒を飲み干した。


「さぁ! いざキャタピラ……うっ……、後よろしく……」

 そのままエルザは魔法陣へ消えていった……。


「……あんた……召喚士か?」

 しまった! マスターに見られた!!

「慌てなくていい……、誰にも言やしないさ。 そっちのねぇちゃんも精霊様かい?」

「精霊の事を知ってるのか?」

「当たり前だ。 精霊ってのはこの世のマナを司る者の事だ。 ……俺も初めて見たが、まさか人型とはな……」

 そうか、それならこの世界の人は知ってる筈だ。


「にいちゃん、さっきはああ言ったが、あんたならキャタピラスも倒せるかも知れねぇ。 その腕貸してくれねぇか?」

「最初からそのつもりさ」


 マスターにキャタピラスを見たと言う場所を詳しく聞くと、俺とシルクは森の中へ入って行った。


「なぁシルク」

「何でしょうか、翔様?」

「精霊って珍しいのか?」

 シルクは人差し指を顎に当て、う〜ん……と考えている。

「精霊自体は珍し過ぎる訳ではありませんわ。 わたくし達が珍しいのです。 そして翔様もですわね」

 顎に当てていた指を俺の鼻の頭に触れ、ウインクをする。


「俺も珍しいのか?」

「わたくし達を召喚出来る人間なんておりませんもの」

「じゃあ、何で俺は召喚出来るんだ?」

「それは……秘密です」

 鼻の頭に触れていた指を俺の口元まで持ってくると、唇を指で抑える。

 その行動にちょっとびっくりしてしまい、変な声が出た。

 それを見てシルクはクスクス笑っている。


 なんだかはぐらかされた気分だ。


 少し歩くとキャタピラスを見たと言う場所まで辿り着く。

 辺りを確認するが、キャタピラスの気配は感じられない。


「いないな」

『あたしが森ごと焼き尽くしてやろうか?』

 そんな事したらザイデーガもいなくなっちゃうだろうが!!


「困りましたわね」

「もう少し辺りを探してみよう」


 森の奥まで更に進むと叫び声が聞こえる!


「く、くるなぁー!!」

「あっちいってーー!!」


 見つけた!

 男性と女性の2人が大きな芋虫の魔物に襲われている。

 女性は必死に持っているナイフを振り回してしるが、キャタピラスは動じずに、ジリジリと詰め寄っている。


『翔!早くあたしを召喚しろ!』

 わかった!

「わたくしが参りますわ!」

 シルクはいち早く飛び出すと、水の刃でキャタピラスの首を斬り飛ばす。

 ふー……間に合ったか……。


 ガサッ! ガサッガサッ!!


 今のキャタピラスの断末魔によって森の中からキャタピラスが集まってきた。


「こんなにいるのか……」

 数は不明だが、シルクが倒しても倒してもゾロゾロ出てくる。


「キリが無いですわ」

「一旦引こう! 貴方達も早く!」

「す、すまない」

 男性は立ちあがろうとするが、足を怪我しているのか動けない。

「ぐっ! すまない……、君達だけでも逃げてくれ!」

「嫌よ! 置いていける訳ないじゃ無い!」

 女性の方も男性から離れない。


 こうなったら……。

「シルク! 2人を頼む!」

 俺はキャタピラスに向かって走り出す。

「翔様!!」

「俺が注意を引いてる間に回復させて村まで逃すんだ!」


『翔! 無茶するな!』

 エルザがいるなら大丈夫さ!

 キャタピラスの攻撃を何とか躱しながら間をくぐり抜け、その辺の石や枝を投げつける。

 よし、どうにか注意を引けたようだ。

 強いやつより弱いやつに来るのは当たり前か。


 何処か広い場所を探してエルザを召喚すれば森へのダメージも少なくて済むはずだ。

 しかしいくら走っても広い場所が見当たらない。

 それに森の中ならキャタピラスの方が速い。

 次第に距離を詰められていく。


『翔、早くあたしを召喚しろ』

 わかった。

「赤き紅より真紅に燃えし心なる火種 盟約に基づきその姿を見せよ!」

 魔法陣よりエルザが飛び出し、キャタピラスを火の拳で殴り倒し始めた。

「オラオラ! どんどんかかってこい!!」

 キャタピラスよりエルザの方が遥かに強い。

 キャタピラスが口から吐く糸に手足を絡め取られるが、持ち前の火で燃やしている。 が、数ではキャタピラスが勝る。

 このままじゃジリ貧だ。

 キャタピラスは俺にもどんどん近づいてくる。


「翔! あたしは大丈夫だから、とりあえず逃げろ!」

 エルザにそう言われ、くそっ! と思いながらも逃げるしか無い。

 俺よりエルザの方の近くにいると邪魔になる。


 広い場所に出た!

 けどまた崖かよ!

 キャタピラスの群れはすぐ後ろまで迫ってきている。


 崖からは突風が吹いている。

 この風の強さなら飛び降りて上手く上昇気流に乗れさえすれば最悪足の一本ですむか?!

 俺は意を決して崖に走るのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る