第4話 次の街まで


 ゴブリン騒動も一件落着。

 やっと落ち着く事が出来そうだ。


 村に着いたらエルザやシルクの事を教えてくれると言っていたが、ゴブリン騒動のせいで聞けなかったからな。

 落ち着いたから聞こうとしてもエルザは俺のベッドで寝てしまっているし、シルクさんは村の女性の後片付けのお手伝いでまだ帰ってこない。


 仕方ない、明日聞く事にして今夜は椅子で寝るか。


 椅子に座って目を瞑る。

 そして夢を見る。

 地球で暮らしていた時の夢だ。

 良い匂いのするフワッフワな枕、暖かい布団の中にいる。 ちょっとお酒臭いけど……お酒臭い……?

 はっ!


 目が覚めると俺はベッドでエルザとシルクに挟まれていた。

「え! ちょっと!」

「なんだ、目覚ましたのか?」

 エルザがこちらを向いている。

 顔近い近い!

 俺は急いで反対側を向くと、そこにはシルクのフワッフワな二つの山が顔に挟まる。 いや、顔が挟まる。


「あら、翔様もお年頃ですものね」

「い、いやちがっ!」

 ぐいっと顔をひねられてエルザの方を向かされる。

「あたしだってそれなりにあるだろ?」

 ふにゅ。

 エルザは俺の顔を無理やり胸に押し付ける。

 確かにある。 そして柔らかい。


「2人共ちょっと待ってくれ!」

 これ以上は耐えられないぞ!


 俺は起き上がると自分がパンツ以外着ていない事に気がついた。

 

「ほら、そんな格好じゃ寒いだろ」

「風邪ひいてしまいますわよ」

 そう言ってまた2人に挟まれて寝かされた。


 寝れるわけ無いけないだろ!!


 俺はゴブリン討伐の前日より寝不足で起きる事になった。


 宿を出る前にやっと2人に話を聞く事が出来た。


 まず俺は転生者である。 うん、これはわかってる。

 5人の精霊は自分に適正のある人を転生させた。

 ん? 5人?

「5人って後の3人は何処にいる?」

「それは翔様が必要にならないと現れませんわ」

 俺が必要に?

 少し思い出してみる。

 

 シルクの時は水が欲しいと思った、エルザの時は……?

「あたしの時も火って言っただろ」

 不思議に考えている俺を見てエルザは察したようだ。


「火って言ったか? ゴブリンに襲われてる状態で? エルザの事も知らなかったのに? ん〜……あ! ヒッって悲鳴をあげた時か!」

「そうそうそれそれ」

 あれは必要で呼んだのでは無く、ただの悲鳴だったんだけどな。


「それで、他の3人はどんな精霊なんだ?」

「それはお教え出来ないのです」

「なんで?」

「精霊と契約のためですわ。 私達は主人様となる方が必要とされた時に初めて契約出来ます。 ですから主人様でも他の精霊の名を教える訳にはまいりませんの」

「それなら仕方ないか」

 でもまだ後3人は力を貸してくれる精霊がいるって言うのは心強い


「それと、俺にも魔法は使えるのか?」

「もちろん使えるだろうぜ」

「当然ですわ」


 やった! 異世界に来たらやっぱり魔法だよね。

 後で試してみよう。


 さて、これからどうするか。

 せっかくの異世界だ。 楽しまないと損だよな。

 村長さんにでも色々聞いてみるか。

 エルザとシルクの2人は魔法陣に戻ってもらった。


 俺は村長の家に向かおうと宿を出ると入り口でアミルさんが待っていた。

「カケルさん、お父様の所に行くのでしょう? お供いたします」

「わざわざ悪いね。 ありがとう」


「おお、カケルくん良く来た。 まずはゴブリン討伐の報酬じゃな」

 村長は金貨3枚、銀貨20枚を袋に入れて渡して来た。

 この世界の貨幣価値がまだ良くわからないけど、今は少しでも入り用だ。

「でじゃ、これからどうするつもりなんじゃ? なんならこの村にずっと居てくれても構わんのじゃぞ」

「ありがたい申し出ですが、旅をしようと考えています」

「冒険者になると言う事じゃな?」


 ……冒険者……この世界にもそう言う職業があるって事か。


「そうですね、冒険者になってあちこち旅して回る予定です」

「そうか、それは少し残念じゃな……、ならどうじゃろう、アミルも連れて行ってはくれないか?」


「アミルさんを!?」

「そうじゃ。 わしはそなたが気に入ったのでな。 アミルを嫁がせるならカケルくん、君にアミルを任せたい」


「え、いや、しかし、危険な旅になるかもしれないですよ」

「それはアミルも承知の上じゃ」


「ん〜……、ではこうしましょう。 私がアミルさんを守れる位強くなってからではどうですか?」

「うむ……、すぐにハイと言わない所はますます気に入ったが、そう言う事なら仕方ないの。 では必ず強くなってくるのじゃぞ」

「はい」


 そして部屋から出た俺はアミルさんが村長に呼ばれている所を見ながら家を後にした。


『なぁ翔、本当に良かったのか?』

 エルザが語りかけてくる。

 危険な旅になるかも知れないし、簡単に連れて行ける訳ないだろ。

 冒険者になって成功するかもわからないのに。


『翔様でしたら大丈夫ですわ』

 シルクは俺の不安に反応したようだ。


 さて、とりあえず他の街でも目指すか。

 

 次の街に向かうため、もらったお金で道具や装備、食料でも買いに行くか。

 村を歩いていると、前に寄った筋骨隆々の武器屋のおやじさんが店の前で俺を呼んでいる。


「どうしました?」

「ちょっと店の中に来てくれ」

武器屋のおやじさんに店の中に連れ込まれ、入り口のドアの鍵を閉める。


「な、なんで鍵を?」

「他の奴に見られる訳にはいかないからな」

 おやじさんはカウンター奥の部屋に行き、長い木箱を運んで来た。


「開けてみてくれ」

 おやじさんに言われるままに木箱の蓋を開けてみる。


 木箱の中にはガラスのような透明感のある刃、柄の部分は特に派手な装飾は無い一本の剣が入っていた。


「これは?」

「これはな、わしがまだ冒険者をやっていた頃、ドラゴンの巣で手に入れた物だ。 持ってみてくれるか?」


 俺はその剣を手に待つ。

 特に何も起きない。


「なんとも無いか?」

 おやじさんは少し心配そうに聞いてくる。


「特には」

「そうか、ならその剣は君にやろう」

「え? 良いんですか?」

「その剣を扱えるのはごく一部の人だけだからな。 武器は使ってやらんと武器が可哀想だ」

 ごく一部?


 手に持った剣は陽の光でキラリと綺麗に輝いている。


「それにこの間の詫びもかねてだ」

「やはり何か知っていたんですか?」

「少し前にここから南西にある【パラキの村】で今回のゴブリン騒動と似た事件があったと聞いてな、今回も何かあるかとは思っていたのさ」


 あの兵士、近くの村でもそんな事をしてたのか。


「それと今回の礼だ」

 本当にこんな綺麗な剣を貰って良いのか悩んでいると、エルザとシルクがこう言う時は貰わないと失礼になると言っていたので貰っておいた。

「わかりました。 ありがたく頂きます」

「あとその剣をしまう鞘だが、うちにはその剣にあった鞘は無い。 パラキ村よりさらに南の街【ディメール】なら腕の良い鍛冶屋がいる。 そこなら作れるだろうぜ」


 次の目的地が決まったな。


 俺はおやじさんに礼を言って店を後にし、剣はシルクが魔法陣の中に収納してくれるとの事で道具屋で荷物を入れる袋と回復薬を買い、食料も買い込んで村を旅立った。

 大きい袋を買ったけど、中身は殆どエルザにねだられた酒が入っている。

 超重い。

 エルザの魔法陣にしまって欲しいけど、魔法陣の中で飲み干してしまわないか心配なので、次の街まで頑張るしか無いよな……。

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