王子たちとの顔合わせ②
せっかくクラウドが用意してくれたドレスは結局染み抜きが間に合わず。
パトリシアはミアに急遽渡された少し古臭いがシンプルなダークブラウンのドレスを着せられ馬車に放り込まれた。
「やだ~、なにその格好。あなたにしか着こなせないわね」
「えへへ、ありがとうございます」
せっかくクラウドが選んでくれたドレスを着られないのは残念だったが、大人っぽいドレスを着こなしていると言われ、パトリシアは少し照れたのだけれどなぜかリオノーラにまた睨まれた。
「褒めてませんから! そんな悪い魔女みたいなドレスでサロンに出るなんて、わたくしなら恥ずかしくて耐えられないわ」
「そうですか?」
別に穴が開いているわけでもツギハギだらけのわけでもないのに、なにが恥ずかしいのかよく分からない。
だが、きょとんとしているパトリシアをリオノーラは憎たらしそうに睨みつけてくるので、これ以上刺激しないように大人しく馬車の窓から外へ視線を移したのだった。
城に着いたパトリシアとリオノーラは、そのまま受付に通された。
リオノーラが招待状を誇らしげに受付へ渡す。
「お待ちしておりました」
招待状を受付の渡すと会場入りを許可されるようだ。
受付の男性がパトリシアへと視線を移す。早く招待状を出すようにと。
「あらやだ、招待状を持っていないの? それじゃあ、中には入れませんわね」
リオノーラがクスクスと笑いながら、お先にと会場へ向かい歩き出した。
自分が紅茶をかけ破いたことは素知らぬふりだ。
「じゃあ、これで」
パトリシアはあまり悪目立ちをしないうちにと徽章を取り出した。
「っ! これは失礼いたしました。聖女様」
男性は少しの動揺を見せた後、あっさりとパトリシアを会場へ通してくれたのだった。
「ちょ、ちょっと! 招待状がないのに、なんでこの子を参加させるの!!」
会場に通されたパトリシアに驚いたリオノーラが戻って来たけれど。
パトリシアが手に持っていた金のバッチを見て眉を顰めた。
クラウドから城で困ったことがあれば取り敢えず徽章を見せろと言われていた。
お茶会の時は胸に付けておくように言われていたのを思い出し、パトリシアは歩きながら胸元にそれを付けようとしたのだけれど。
「っ!」
伸びてきた手に徽章を奪われた。
「リオノーラ様? なにを」
「ふふ、ちょっと借りますわ。あなたは先に会場に入っていなさい」
「え!」
それは困る、と慌ててリオノーラを追い掛けようとしたパトリシアだったが入口まで行くと先程受付にいた男性に止められてしまう。
「聖女様、そろそろ時間です。中でお待ちいただかないと、私が怒られてしまいます」
「で、でも」
「本日のお茶会が上流階級のご子息ご令嬢を集めた交流会というのは上辺のもの。本当は貴女様と殿下たちの初顔合わせの場なのですよ」
「……分かりました」
さすがにリオノーラも徽章を捨てたり無くしたりはしないだろう。彼女は突拍子もないことをしでかすけれど、クラウドの顔色だけは敏感に読む子だから。
あの徽章を無くせば確実にクラウドの大目玉を食らうはずだ。
そう思い、パトリシアは仕方なく会場に戻ったのだった。
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