無力な少女時代②
泣き疲れいつの間にか眠っていたらしい。気が付くと夜になっていた。
「……ん?」
バチバチと炎が爆ぜる音がする。
昨日の光景を思い出し身体が震えた。
燃えているのは自分のいる小屋ではないようだけれど。
(村でなにか起きている?)
自分では確かめようがない。と思っていた所でドアが開いた。
(村長っ!)
先程とは違い一人で現れた村長は、憎しみの籠った目で睨みつけても不気味なほどの無表情だった。
「来るんだ」
「やっ」
暴れもがいたが子供の力では敵わなくて担がれ運ばれる。
「これ、は……」
外に連れ出されパトリシアは目を疑った。
村が燃えている。轟々と音を立て村中が……
「なんで、こんな……」
「ふっ……くくっ、ガハハハハハハハハ!!」
燃え盛る炎の中、村長は狂気的な笑い声をあげ走り続ける。
最初は自分の村が崩れ落ちてゆくのを目の当たりにして、おかしくなったのだと思った。
けれど彼は逃げ惑う村人たちと鉢合わせないように避けながら外へ向かい走り。
「これで、これで、大金は全部わしだけのものじゃ、わしだけの、ガハハハハハハハハ!!」
「っ!?」
「バカどもが! こんなうまい話、山分けなどするわけなかろう。邪魔者はこれで全て始末した!」
ゾッとした。こんな人間と同じ村で生活をしていたかと思うと。
人の良さそうな笑みの下に、残虐的な本心を隠し持っていたのだと思うと。
でも……
「た、助けてくれーっ!!」
「いやーっ、誰か、誰か!!」
「なんてひどいことをっ」
家を燃やされ逃げ惑ったり泣き崩れる村人たちを見ても、同情心は浮かばなかった。
(この村にいる人たちはみんな同罪だもの)
大金に目がくらんで家を燃やした村人、両親を殺した村人、それを見て見ぬふりしたその他大勢……全員許さない。
(みんな、このまま消えちゃえばいいんだ)
痛い程の熱風を浴びながらそんな思いだけがぼんやりと心に浮かんでいた。
「はぁ、はぁ、はぁ……ふはは、これで、これで大金はわしのっ」
村長はうわ言のように同じ言葉を何度も繰り返す。その様子は正気じゃない。
このまま自分は売られるのか……そう思うと絶望の感情が湧きだす。
売られる悲しみではない。こんな男の思い通りに事が進む事がどうしても許せないのだ。
だが――突如見知らぬ男が村長の目の前に現れたのは、村を出てすぐのことだった。
「金目の物を全部出せ。そしたら命だけは助けてやろう」
「何者じゃ! 誰がやるか! 誰が!! 大金は、わしだけのっ、ガハッ……」
発狂した村長は懐から取り出した刃物で男に斬りかかり、だがあっけなく返り討ちにあった。それは一瞬の出来事だった。正面からバッサリと斬りつけられた村長はそのまま血を吹き出し倒れる。
抱きかかえられていたパトリシアは、受け身も取れず地面に叩きつけられた。
頭を打ち付けてまた意識が朦朧とする。
「行くぞお前ら! 金目の物を奪いつくせ!!」
「へい、お頭!!」
ぞくぞくと厳つい男たちが村目掛けて走り出す。その見てくれを見るに山賊のようだった。
目の前には血を流し動かなくなった村長が転がっている。すでにこと切れているようだ。
視線を感じ顔を上げると、村長を斬った黒装束の男と目が合った。
お頭と呼ばれていた。この男が山賊のトップなのだろう。
こちらを見下ろす男は片目に傷があり見るからに悪人面で、メラメラと燃える村をバックに立つ姿は魔王さながらだ。
そんな男を見て、パトリシアは。
「ありがとう……」
微笑み意識を手放したのだった。
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