第6-20話 リンといっしょに③
《前回までのあらすじ》
夏休みに幼馴染であるリンの指導をすることになったイツキ。
リンは植物状態になってしまった父親の代わりに家計を支えるという使命に燃えており、そのために今まで遠ざかっていた祓魔師としての界隈に足を踏み入れることに。
まずは魔祓いの基礎を叩き込むべくイツキの家で『
夜までつきっきりで教えたイツキがリンを家まで送る途中、神在月から仕事の依頼が舞い込んだ。
――――――――――――――
リンちゃんと2人で、駅前の通りを歩いていく。
歩きながら先ほど届いたばかりの
メールに記載されていた現場は、普通のマンションの一室。
どうやら、その部屋が違法カジノの店舗に利用されていたらしく警察官が足を踏み入れたところ、その警察官たちと連絡が取れなくなったのだという。
そういうわけで、今回の仕事は連絡が取れなくなった警察官の安否を確かめること。
そして、可能であれば彼らを連れ戻すこと。
そんな話をリンちゃんにしたら、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「マンションで違法カジノって、どういうことですか?」
「僕も1度しか見たことないんだけど……そもそも日本でギャンブルが禁止されてるのって知ってる?」
「え? 禁止なんですか? 競馬ってギャンブルじゃないんですか?」
「ああいうのは大丈夫なんだけど……」
リンちゃんに言われて、俺は少し唸った。
そう返されると説明が難しいな。
「国が許可してないギャンブルは全部違法なんだよ。でも、儲かるからってやってる人がいる。昔だと暴力団って言われた人たちや、半グレって言われてるような、いわゆる集団で犯罪をやってるような人たちだね。そういう人たちは、目立たないように普通のマンションを借りて、そこをカジノにしてたりするんだよ」
「へぇ〜。物知りですね」
「ちょっと前にニュースにもなってたよ」
俺がそういうと、リンちゃんは「イツキ先輩って記憶力良いんですね!」と褒めてくれた。褒められて悪い気はしないので、俺はそのまま続ける。
「で、話を戻すんだけど――そういう違法カジノを摘発するのは警察の仕事で、
「そうなんですか? 普通に揉めてるだけとかって可能性もあると思いますけど」
「だったら、警察が動くよ。
「それは……確かに……?」
「僕たちのところに来たってことは、絶対に理由があるはずなんだ」
そんな話をしながら、俺たちは夜の交差点を渡っていく。
渡った先にある白い外観のマンションだと地図情報に載っている。
けれど、その地図情報を参照する必要はなかった。
何故なら、そのマンションの周りには既にパトカーが2台ほど
その警察官たちは、ちらりと俺たちを見ると、その中でも一番若く見える男性が走ってやってきた。
「お疲れ様です。
俺たちが神在月から連絡が入るように、彼らも彼らでそういう連絡を取っているのだろう。
それに頷いてから、スマホを見せると1つ気になったように続けられた。
「話だと中学生の男の子が1人って話だったんですけど、そっちの子は……?」
「ああ、この子は見学で」
「OJTってやつですね」
若い警察官の人はそれだけ言って、納得したようにマンションに通してくれた。
まぁ、OJTと言われればOJTなんだろうか……?
訂正する言葉も、時間もなく、俺は通されるがままにマンションに足を踏み入れた。
マンションは4階建てで、エレベーターはなし。
外階段を使って
「お疲れ様です! 祓魔師の人っすかね?」
4階にたどり着いたら、すでに警察官2名がそこに待機していた。
黄色いテープで階段の先が封じられており、一般人が入らないように見張っているのだろう。
俺は彼らに「お疲れ様です」と挨拶してから、頷いた。
「もしかしたら、もう話を聞いてるかもですが……今日の昼頃っすね。うちの先輩2人が、ここの角部屋に入ってったんすけど、それっきり連絡取れなくなっちゃって。で、それをおかしいと思った
神在月の資料に書いてあったことと言われた内容に齟齬が無いことを頭の中で確認する。
そうしてから、俺は話しかけてくれた警察官に尋ねた。
「部屋の中の情報はありますか?」
「無いっす。祓魔師の人が来るまで開けるなって言われてます」
「……ありがとうございます」
それは、よくあることだ。
俺はお礼を言ってから、リンちゃんを連れて外廊下の奥に進んだ。
そうして、たどり着いた角部屋は、見たところは普通の扉に見えた。
少なくとも扉やドアノブなどに『
「リンちゃん、下がってて」
扉に『
そのため、彼女を一度扉から離してから俺がゆっくりとドアノブを開くと――。
「……うっ」
部屋の内側からギラギラに輝く
「い、イツキ先輩! 大丈夫ですか!?」
「ちょっと眩しかっただけだよ……。僕は大丈夫なんだけど……」
隣から話しかけられる彼女の声を聞きながら、俺は静かに返す。
返してから、視線を前に向けた。
何らトラップの仕掛けられているように見えなかった普通の扉。
そこを開けた先には、
騒々しい声が聞こえる。
歓声と嬌声の混じったような甲高い声が、通りのさらに奥から聞こえた。
向かい側も夜なのだろう。こちら側と同じように暗いが、それを気にしないほどの輝きが通りを支配している。
地面は石畳で出来ていて、雨でも降ったのか湿っていた。
通りを挟んだ向かい側にはガラス窓が一面に広がる何かしらの店が見える。そのガラス窓の内側では、露出度の高い格好をした女の人がこちらに向かって手を振っている。
その手の動きに合わせるように、何か甘い臭いが鼻をついた。
何の臭いだろうか。甘ったるいが、お菓子とは別の、
視線を上へと持ち上げる。向かい側の建物の2階部分に視線を向ける。
ギラギラとしたネオンが輝く。さっき扉をあけた途端に光として入ってきたものだ。
そのネオンには明らかに日本語ではない文字が踊っていて、何が書かれているのかは読み取れなかったものの――おそらく、何かしらの看板なのだろうと思った。
その謎言語の看板は通りいっぱいに広がっている。
1階部分は、どれも同じようにガラス窓になっていて、ほとんど裸みたいな格好をした男女が客引きのために、こちらに目を向けてくる。
それを無視して、視線を持ち上げる。
当然のように空が見えた。だが、曇っている。
当然、通りだから人が歩いている。
男も、女も、年齢も、人種も関係なく、様々な人間が歩いている。
俺は一歩身体を引いて、扉を閉めた。
さっきまでの喧騒が嘘のように消える。
映画が終わって、急に現実に戻されたかのような静寂。
「分かったよ、リンちゃん。この仕事が、
「……さっきの通り、ですよね?」
きっと俺の後ろから見ていたのだろう。
彼女の言葉に頷いてから、俺は続けた。
「《異界》だよ。これは、モンスターの仕業だ」
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