第5-28話 吹き荒れて②
『
ぴくり、と宗一郎は自らの片眉が動くのが分かった。
というのも、その名前に聞き覚えがあったからだ。
そもそもだが、名前の付いている“魔”はそう多くない。多くないからこそ、名前をつけて管理しているのだから。
当然、
ただ記録に残っている“魔”の姿は、今のように
『ついに仙境を見つけたと思ったのだけれど……閉まっちゃったじゃない。甘い香りが素敵だったわ。何度だって香りたいくらいだわ。香水とかにしてくれないかしら』
「……なぜ、ここにいる」
『無粋な問いね。これだから、
そう言いながら、
『あるんでしょう? ここに不死になれる秘宝が』
「……ふむ?」
イツキは、宗一郎に『仙境の桃』の話をしていない。
そのため彼はその存在を知らないが……それでも仙境が第七階位の作り出した世界であるというところまでは思考が届いている。だからこそ、
『さぁて、どいつが
そう言って値踏みするように一同を見渡す
宗一郎はその視線を受け止めながら、一瞬だけ思考を後ろに飛ばした。
背後の穴には子どもと、
どちらも戦力としては数えられない。
だから居合の構えを取りながら『
「もし、不死の秘宝がここにあったとして」
互いの距離は、目算で二十。
「到底、渡せるものではないな」
そう言って、地面を蹴った。
それが分かっているから『
“魔”の目前で地面を踏み締める。
腰を
それを見切ったつもりの
そこに『
ぐん、と目に見えて速度が上がる。
わずかに
加速する刃はそのまま
「……ぬんッ!」
さらにその場で右腕と右足に『
大きく刃を引いて
『あなた、
彼女はその場でコマのようにくるくると二回転し、その勢いを乗せたまま宗一郎を蹴り飛ばしたッ!
「……ッ!!」
反射的に刃で受け止めた宗一郎の身体が、落ち葉の上を大きく滑る。
風を両足に纏い、空中を蹴って、跳躍。加速。そして、体重を乗せた両蹴り。
まるでミサイルのように突っ込んできた蹴りを、宗一郎はまともに受けては行けないと判断。身体を
頭上を音の速度で駆け抜けた
ドンッッツツツツ!!!
衝撃が全て地面に呑み込まれ、耐えきれなかった土砂が噴火のように飛び散った。
舞い散る岩の塊に子どもたちが巻き込まれないよう宗一郎は子ども二人の身体を掴んで、後ろに下がる。
下がる途中に、土砂の中からよく通る声が聞こえた。
『
「…………」
『
飛び散った
目を凝らせば、風が渦巻いて支えているのが見えた。
『心外だわ。残念だわ。不本意だわ』
心の底から残念そうに言いながら、
『
ドウッ!!
その瞬間、
「……ッ!」
『
半透明の盾が生まれ音速で迫ってくる岩石を防ぐ。しかし、2発貰った時点で生み出したばかりの盾から嫌な音が響いた。
そのため、宗一郎は視線を
「君たちは逃げろッ! 早くッ!!」
『子どもは
そんな嵐の暴力が宗一郎と、そして鍛冶師だけを逃さないように囲った。
『どっちかしら?
そして、吟味するように視線を左右に揺らした。
『良いわ。どっちも祓魔師だし手が無くても魔法くらいは使えるでしょ。両手両足を削っちゃって、細かいことは後から考えましょ……。……ああ!
そう言いながら
『ひとまず、子どもたちを連れ戻しましょう!』
黒い傘を傾けながら、まるで最上の案でも思いついたかのように、ぱっと目を輝かせる。
その言葉が、皮切りだった。
宗一郎はそのまま『
「……ッ!」
『あら?』
宗一郎はその血を拭うこともなく地面を蹴り飛ばし、身体を無理やり前に持っていく。
「子どもを手にかけようとする奴を」
そして大きく振りかぶると、
「見過ごせるはずがないだろう」
そのまま、
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