第4-32話 エクソシスト

 ぱちん、と目の前で指が鳴った気がしたから目を開けた。


「あれ……?」


 さっきまで目の前にいたヌイグルミがいなくなっている。まるで変な夢でも見てたみたいに、跡形もなく消えている。変わったのはそれだけじゃなくて、さっきと比べて何だか背が低くなった気もする。


 手も足も、自分で見てみればびっくりするくらいちっちゃくなっている。


 なんだか、3年前に戻ったみたいな……。


「じゃーん!」


 ベンチの上で瞬きをしていると、パパが大きなポップコーンを目の前に出した。


「どうだい、ニーナ。驚いて眠気は飛んでいったかい?」

「もう、パパ!」


 ぱっ、とベンチから降りる。

 パパがそういうが好きなのは知ってるから久しぶりのそれに、少しだけおこってポップコーンを貰った。


 さっきまで隣にいたのにいつの間に買ってきたんだろう、なんて考えているとパパの買ってきたポップコーンが1つしかないことが気になった。


 だって、パパだったら、


「ねぇ、パパ。イツキにも……」

「イツキ?」


 私だけに買ってくるなんてことは絶対にしないと思ってそう聞いたのに、パパは首をかしげる。その名前が誰か、分からないみたいに。私も言ってから後ろを振り向いたけど、ベンチのところには誰もいない。


 ……あれ?


 ベンチには、誰もいなかった。


 何かが、おかしい。


「さぁ、ニーナ。まだまだ乗ってないアトラクションばかりだし。イレーナが来る前に全部制覇だ!」

「パパ、本気だったの……?」

「俺はいつだって本気だよ」


 パパはそういってウィンクすると、私の手を取った。


「さぁ、お姫様。次はどこに行きたい?」

「……ちょっと、歩く」

「良いとも。エスコートしよう」


 ポップコーンもあるし、この遊園地に何があるかも全然わかんないし。

 だから、歩いてみたくてそう言うとパパは私の手を取って歩き出した。


 そうやって歩いていると何だかゆっくりと思い出してきた。


 先週の水曜日、パパが急に『遊園地に行こう!』って言い出した。

 ママもそれに賛成してたけど、その週は二人とも仕事が入っちゃってダメになった。

 だから今週遊ぶことになったけど、ママはまた仕事が入ったから後から来る。


 ママもすごく苦しそうな顔をしてたし二人に急に仕事が入るのはいつものことだから、別に私はがまんできた。


 がまんすれば、褒めてもらえるから。


 けど、みんなで来るって言ったのにママが来れなくなったのはやっぱり嫌で、


祓魔師えくそすとってなんでそんなにいそがしいの?」

「そうだね、人を守る仕事だからかな」

「……」


 パパはいつも決まってそう言う。

 人を守る仕事だから。困っている人がいるから。


 その人たちを守れるのは、自分だけだから。


 それが私にはよくわからない。

 だって困っている人がいても、他の人が助けてくれるかもしれないし。

 別にそれがパパじゃなくてもいいのに、と思っちゃう。


「お姫様もいずれ分かるさ」

「……わたし、第六階位くいーんじゃない。第四階位びしょっぷ


 パパがごまかそうとするから、私もちょっといじわるする。

 けど、そう答えたらパパは私の頭をわしゃわしゃと撫でて、


「パパにとってはいつだってお姫様なんだよ」


 なんてことを言った。

 髪の毛がくしゃくしゃになるから、いつも「やめて」っていうのに全然やめてくれない。


 そういうパパは、きらい。




 私でも乗れるアトラクションは数えるほどしか無いから、パパと2人で回れるのもちょっとしかない。けど、同じアトラクションでもパパと一緒に遊べるなら、なんでも良かった。


 だって、パパはいつも一緒にいてくれないから。

 仕事、仕事って言っていつも家にいてくれないから。


 メリーゴランドの馬にパパと二人で乗って、回っているときにそう聞いてみる。


「ねぇ、パパ。今日は仕事入らない?」


 一緒に乗っているときなら、急に仕事が入ってもパパがいなくならないと思ったから。

 そう聞いてみたら、パパはにこっと笑った。


「もちろん。今日のパパは騎士ナイトだからね」

「ううん。パパも『第四階位びしょっぷ』」

「パパの言いたいことは分かっているのにいじわるをしたな? 悪い子だ。でも、頭が良くてパパは嬉しいよ」


 パパは私の後ろでそう言った。

 

 そう、パパもママも『第四階位びしょっぷ』だから忙しい。


 数年に1人しか生まれない「てんさい」だからって。

 他の人にはらえないモンスターを祓えるのは、パパとママだけだからって。


「それに、ニーナも今日だけは魔法の練習を休んでも良いんだぞ?」

「ううん。やだ」

「じゃあ帰ったら練習する?」

「うん。パパと、ママと、練習するの」


 パパからの提案を、私は首を横に振って断った。

 だって、私も「てんさい」だから……きっと、いつかきっとパパとママみたいな祓魔師えくそしすとになる。


 そうすれば、みんなで一緒にいられるから。


 音楽が終わって、回転が止まる。

 私と、パパは2人で別のアトラクションに向かう。


「そろそろご飯でも食べないかい? お姫様プリンセス

「さっきのポップコーンで、お腹いっぱい」

「おっと、それは仕方ないね。それなら、飲み物でも……」


 ちょっとおどけたパパがそう言った瞬間、ぱっ! と、上を見た。

 私もそれに釣られるようにして、上を見た。


 すごくきれいな青空。

 空気もびっくりするくらい透明で、きっと空にお月さまが浮かんでいたら見えるくらいきれいなお昼の空。


 そこに、操り人形マリオネットみたいながいた。

 半透明の糸みたいなものが全身を縛っていて、糸は空に向かってまっすぐ伸びている。


 不思議なのは、その身体だった。

 全身に仮面がついていて、その仮面たちが自由気ままに叫んでいた。


『やァやァ!』『今日はお日柄も良く』『天気が良いね』『良いのは天気だけさ』『子どもたちの笑顔も素敵だよ!』


 その仮面たちが、一斉に叫んだ。

 声が聞こえたのは、きっと私とパパだけだった。


 だって、モンスターの姿が見えるのは……祓魔師えくそしすとだけだから。


 その声を聞いた瞬間、パパが踵を鳴らした。

 それは妖精魔法を使うためのルーティン。


「『消してくれ』」


 パパの呼んだ『ピクシー』たちが、すごい勢いで空に向かって飛んでいって――パン、という音とともに全部が


『いるよ、いるよ!』『祓魔師エクソシストだ!』『関係ないよ』『だって子どもたちに笑顔を届けに来たんだから』『幸せをプレゼントだ』

「……飲み込め」


 モンスターのきんきんとした声が聞こえるのと、パパが踵を鳴らしたのは一緒だった。


 びっくりするくらい大きなクジラが出てきて、それがモンスターを飲み込む。

 だけど、飲み込んだクジラのお腹がきゅうにふくらむと、また同じようにはじけた。


「……っ!」


 パパが息を飲む。

 クジラのお腹から飛び出したモンスターが身体を震わせる。


『さァさァ!』『お立会い、お立会い!』『みんな、準備は良いかい?』


 パパの魔法なんて関係ないみたいに、仮面のモンスターが楽しそうに笑う。

 

『『『『ショーを始めよう』』』』


 そういった瞬間、モンスターの身体を縛っていた糸がほどけた。

 ふわ、とモンスターの身体が布みたいに広がる。


 広がった中から落ちてきたのは


『さぁ、劇団員たちアクターズ』『思う存分』『楽しもうじゃないか!』『アハハ!』


 その声を聞いたパパが苦い顔をする。

 私も、あっけにとられて息もできなかった。


 だって、モンスターを生み出すモンスターは『第五階位るーく』以上……!


「ニーナ。逃げろ! パパが後はどうにか……」


 そこまで言ったパパの上で、空がゆっくりと灰色になっていくのがみえた。

 まるで、世界からここだけ切り取られているみたいに……。


「……結界」


 パパの顔がゆがむ。


「パパ。これって……」

「出入りを禁じられた。外から結界を壊さないと、出られない」


 そんなことを『第五階位るーく』のモンスターができるのだろうか。

 結界を張って、モンスターを呼び出して、そんなことを一緒にできるのは、もっと強いモンスター……。


 そう思った瞬間、メリーゴランドから悲鳴が聞こえた。

 見れば、ぬいぐるみたちが血に濡れた男の人の首を持ってサッカーをしていた。


『そこのキミ、一緒に遊ぼうよ!』

『楽しいよ!』


 呼びかけられた男の子は、何が起きたのか分からない様子で呆然としていて、


『大丈夫! キミは死なない!』

『死ぬのはね、大人だけさ!』

『だから一緒に楽しもう!』

『笑おうよ!』


 いろんな色をした動物のぬいぐるみたちが、キンキンと耳にさわる声で叫ぶ。


『さぁ、キミも!』

「……沈み込め」


 かん、と踵が鳴らされる。

 その瞬間、男の人の首と一緒にぬいぐるみたちが影の中に飲み込まれていく。


『うわ! わわわ!』

『影送りだ!』

『魔法使いだ!』

『死んじゃう〜!』


 危機感のない声と一緒に、ぬいぐるみたちが消えていく。

 パパがそれを見て息を吐いた瞬間、私の隣にいた女の人が二つに割れた。


「ママっ!? ママっ!!」


 真っ二つに裂けた女の人の血を浴びながら、女の子が叫ぶ。


『お見事!』

『アハハ!』

『もっと綺麗に割ろうよ!』


 そんな女の子の横をぬいぐるみが駆け抜ける。


 それだけじゃない。

 女の人だけじゃなくて、周りにいる大人の人たちがモンスターに殺されていく。


 悲鳴が聞こえる。悲鳴がつらなっていく。

 血がでる。人が、かんたんに死んでいく。


「……ッ! 逃げろッ! とにかくぬいぐるみから逃げるんだッ!」


 パパがそう叫ぶ。

 だけど、それが届かないくらい遊園地の中は悲鳴であふれていて、ぬいぐるみたちの笑い声だけが響いていて、


「ニーナ! パパから離れるな……っ!」

「う、うん」


 ぎゅ、とパパの服を握る。

 握った瞬間、二つに裂けた女の人の身体がびくっ! と動いて、「ひっ……」と、声が漏れた。


 2つになった女の人を見れば、ゆっくりと右と左の身体がうごいていて……なんだか、虫みたいだった。


『人の完成は子供だと思うンだよね』『綺麗なものだと思うンだよね』『でもさ、でもさ?』

『子供の成長には、大人が必要だと思うンだよね』


 仮面をつけたモンスターがうごめく。

 動きだした女の人の口がゆっくりとうごく。


「あ……そ、ぼ」

「まま……?」


 女の子が涙を流しながら、それを見ている。

 死んだ人が動いている、そのおかしさを、じっと見ている。


「『焼き尽くせ』ッ!」


 そんな様子から目が放せなかった私の代わりに、パパが叫んだ。

 その瞬間、パパの足元から生まれたのは大きなドラゴン


 一度だけ見たことがある。

 パパが使える最大の妖精、『イフリート』。


 ごう、と吐き出された青い炎が動き出した女の人を燃やし尽くす。

 骨も残らず、血も残らないほどに。


「……え? ママ…………?」


 目の前からすっかり消えたことに、女の子がかすれた声を出す。

 その声を消すように、パパが叫んだ。


「ぬいぐるみと、死んだ人を燃やせ。イフリート! ここが百鬼夜行カーニバルになる前にッ!」


 百鬼夜行カーニバル

 モンスターが殺した人が魔にあてられて、モンスターになる。

 そして、モンスターは溢れかえって手のつけられなく……大災害。


 そうならないように、パパたち祓魔師エクソシストは戦うんだって。


『おっとおっと』『邪魔は困るよ! 邪魔は』『ここは楽しい』『パーティー会場!』


 その瞬間、パパの真正面に操り人形みたいなモンスターが浮かんでいて、


『『『キミは呼ばれてないんだ』』』

「連れて行けッ!」


 パパがもう一度呼び出したピクシーがモンスターの身体を掴む。

 掴んだ瞬間、ぶくっ、と膨れ上がると身体が裏返って、全部がぬいぐるみになった。


 ぬいぐるみになて、走り出した。


『アハハ!』『脆弱な魔力だ!』『第四階位ビショップかな?』『第三階位ナイトかもね!』

「……ッ! 『食い」


 叫ぼうとしたパパの声が、途中で止まった。


「……パパ?」


 顔をあげる。

 そこには、なにも無かった。


 パパの身体が左だけ、無かった。

 半分なくなっていた。


「パパっ!?」

『ふーむむ』『今の祓魔師エクソシストってこの程度?』『避けられないんだ……』


 モンスターが、好きなことを言う。

 好き勝手なことを言う。


『『『話にならないよ』』』


 パパが倒れる。

 それが嫌で、服をいっしょうけんめい後ろに引っ張るのにパパの身体が前に倒れていく。


「やだ……っ! パパ! やだ……っ!」

『あーらら』『そういえば』『まだ』『名乗ってなかったね』


 名乗り上げ。


『いざ、名乗ろう!』『第六階位クイーンが一人』


 それは『第六階位くいーん』のモンスター。


『『『パペット・ラペット・マリオネット』』』

「……ッ!」

『いい名前だろう?』『可愛い名前だ』『子供にも大人気!』


 仮面たちが唱うみたいに言う。

 それが嫌で、耳を塞ぎたいのに塞いだらパパが倒れちゃうから塞げない。


 どうしたら良いか分からなくなった時、パパがゆっくりと腕を伸ばした。


「……お前、なんかが」


 血が流れる。

 パパが、流れていく。


「パパ……?」

クイーンなんかで、あるわけがない……」


 その血がゆっくりと熱くなっていく。


「俺のクイーンは、一人だけなんだ……ッ!」

『アハハ!』『威勢だけは』『第七階位キングみたいだ!』

「イフリート……ッ!」


 瞬間、遊園地を燃やしていたイフリートがパパのところに戻ってくる。


ッ!」


 戻ってきて、パパの血を舐めた。


 そして、モンスターに向かって炎を吐き出す。

 青い炎の色がさらに眩しくなる。目を開けてられなくらいに。


 思わず目を瞑ってしまうけど、ひっしにパパの服を握る。


 そうすれば、パパがどこにも行かないと思ったから。

 そうすれば、パパが死なないと思ったから。


「ニーナ。今から言うことをよく聞くんだ」

「……パパ?」

「パパはずっとお前のそばにいる」


 そう言った瞬間、パパの残った右腕をイフリートが食べた。


「……えっ」

『身体を対価にする』『魔力の底上げ?』『随分と古典的だね』


 イフリートが吠える。炎がさらに強くなる。

 炎がパパに燃え移る。青く、パパが燃えていく。


 服を掴んでいるのに、全然熱くないはずなのに、


「やだ……! パパ、やだよ……!」

「大丈夫。パパはニーナとずっと一緒にいるから」


 パパが、燃えていく。

 すぱ、と音を立ててパパの耳が無くなった。


 無くなった瞬間、炎の色が紫になった。

 遊園地にばらまかれた炎がより強くなって、ばちばちと音を立ててメリーゴランドが熔けていくのが見えた。


 でも、私は全然熱くない。

 パパは人を燃さないから。


「違うの! そうじゃないわ!」


 何をしようとしているのか、分かる。

 パパは死んで、あのモンスターを祓うつもりで、


「パパが死ぬのは、嫌なの!」

「ありがとう。でも、パパは祓魔師エクソシストだから――」


 とん、と音がした。


『はい、終わり』『覚悟がないとね』『命を犠牲にするなら』『死ぬ覚悟が!』


 パパの頭が落ちる。

 ごと、と音を立てて地面に落ちる。


「……う、そ」

『ところが嘘じゃありません!』『これが現実』『さぁ邪魔も消えたし』『パーティーを続けようか』


 さっきまで喋っていたのに、さっきまで笑っていたのに、パパの頭は落ちたまま……何も言わない。顔の半分が血に塗れて、イフリートの炎に照らされて、何も言わないまま地面に落ちる。


「いや……! やだ、いやだよぉ……! パパ! パパっ!!」

『ふーむ』『子供の泣き声は嫌いなんだよね』『好きなのは笑顔さ』

「パパ! パパっ!」


 握っていたパパの服を離す。

 身体が落ちる。パパの頭に向かって走ろうとしたら、足が止まった。

 急に動けなくなった。


 むりやり、身体が振り向く。

 モンスターを見させられる。


 目の前に、モンスターがやってくる。


『キミには笑顔が似合うよ』『子供には笑顔がいちばん』『さぁ、笑おうよ』


 何を言っているのか、ぜんぜんわからなかった。

 だってパパは死んじゃって、笑えるはずもなくて、


『『『『笑え』』』』


 なのに、その言葉を聞いた瞬間、口が勝手に動いた。

 ほっぺが無理やり引っ張られて、笑顔を作らされていく。


『そう、それ!』『スマイルスマイル!』『さぁ、キミも一緒に笑おうよ』『アハハ!!』

「……は」


 息が漏れる。

 笑いたくない。笑えるはずがない。

 でも、顔が勝手に動く。勝手に喋ってしまう。


「あは、は!」


 笑い声が漏れる。

 いっしょに、涙がこぼれる。


『そうだとも!』『それでこそ』『祝宴カーニバルにふさわしい!』

「あははは!」


 いやだ、いやだと思っていても笑ってしまう。

 パパが死んじゃったのに。悲しくて仕方なくて、涙が溢れてしかたなくて、足は震えて、息もできないくらい悲しいのに。


 笑うことが、止められない。


『楽しいね!』『楽しいね!』『みんな笑顔だ』『素敵な世界!』

「……あははは! げほっ、げほっ! は、ははは!!!!」


 イフリートの炎が遊園地を燃やしていく。

 ぬいぐるみたちを燃やしていく。


 パパの残った魔力を使って、ぬいぐるみたちを燃やしていく。


 でも、それもすぐに終わった。

 ぬいぐるみたちがイフリートに取りついて、パパと同じように首を切った。


「あは! あはははっ! げほっ!」

 何も面白くないのに笑う。笑う。笑ってしまう。

 気がついたら、私の足がもふもふしてくる。見る。ぬいぐるみになってる。


 


「あはははは!!!」


 パパがしんだ。殺された。

 なのに、笑うことしかできない。

 それが悔しいのに、悲しいのに、笑うしかできない。


 それはまるで、パパを笑ってるみたいだった。

 何もできずに死んだパパを笑ってるみたいだった。

 祓魔師えくそしすとなのに、誰も守れなかったパパを笑ってるみたいだった。


『さてさて』『準備は万端』『いざ、おいでよ』『私の世界に!』


 操り人形のモンスターがそう叫んだ瞬間――全てのぬいぐるみが同時に爆ぜた。


『あれ?』『あれれ?』『もう結界が壊れたの?』『新しい祓魔師エクソシストかな?』

「何がそんなに面白いの」


 空から声が落ちてくる。

 モンスターが空を見上げる。私も目だけで空を見る。


「人が死んでるのに、何がそんなに面白いんだ!」


 

 

 灰色の空が割れて、割れた隙間から一人の男の子が落ちてくる。


『ああ、そうか』『ここは、この娘の記憶か』


 全ての風景が壊れていく中で、空からイツキが降ってくる。


 イツキが何かを伸ばす。


 伸ばした瞬間、私の身体が自由に動くようになった。

 笑いが急に収まって、咳き込んだ。気がつけば、手足の先がぬいぐるみになっていたのも治っていた。イツキの使える治癒魔法。


 それに気がついた時には、イツキが私の前に立っていた。

 モンスターに向かって壁になってくれていた。

 

「『破魔札』を使ったんだ」


 私の中に、イツキが来てくれた。


「ごめん、ニーナちゃん。遅くなった。」

 

 ――イツキが来てくれた!


「後は僕に任せて」


 燃え盛る遊園地が消えて、空にはあの時の操り人形モンスターが浮かんでいる。


 全てを思い出した。


 どうしてパパが死んだのか。

 どうして私がここにいるのか。

 どうしてイツキが助けに来てくれたのか。


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