第4-13話 仕事を選べ!
ニーナちゃんの言う『影の中では逆になる』というのを使って『
そもそも『朧月』は『
それを逆にするというのが、いまいち自分の中でしっくりこなかったのだ。
なので、その日は試行錯誤だけで終わり。
何も進展はなかった。
とはいっても、新しい魔法を生み出す時はいつもこんな感じだ。
簡単な『属性変化』や『形質変化』の魔法ならまだしも、複数の魔法を組み合わせる複雑な魔法は一朝一夕で生み出せるようなものじゃない。
何回も模索して、ようやく出来るのである。
その代わりと言ってはなんだが、空にぶっ飛んだ模型をキャッチするのは上手になった。
野球ボールとかならフライの練習とかになるのかも知れないが、俺が使っているのはグローブじゃなくて『
無駄なことが上手くなっちゃったなぁ、と思いながら魔法の練習をキリの良いところで止めて家に戻った。
「イツキって1人の時はいつも魔法の練習してるの?」
「うん。そうだよ」
「この時間まで?」
ニーナちゃんは空を見上げる。
既に日は沈んでいて、空は真っ暗。
綺麗な月が浮かんでいるのがよく見えた。
「そうだね。いつもこの時間までやってるかな」
「……そうなんだ」
俺の返答にちょっと引いたように答えるニーナちゃん。
なんでよ。
ニーナちゃんだって1人の時は魔法の練習してるでしょ。
ただ、ニーナちゃんがちょっと引いている気持ちも分かる。
俺は死にたくないという気持ちで強くなっているのに対してニーナちゃんは祓魔師になりたいという前向きな気持ちで練習に励んでいて、その違いはきっと大きい。
俺の努力は切羽詰まっているから出来ているというか、『死』という恐怖に後ろを追いかけられているから出来ている節はある。『魔法の練習をやらないと』という強迫観念のようなもので尻を蹴り上げられていると言っても良い。
だが、ニーナちゃんはまだ7歳。
7歳の女の子が、そこまで力を入れて魔法の練習なんてしなくても……なんて思ってしまうのだ。
いや、そんなことは俺が決めるようなことでも無いんだろうけど。
「ニーナちゃんは1人の時は何しているの?」
「そうね、魔法の練習はしてるけど……テレビみたり、漫画読んだり……」
「漫画?」
あれ、ニーナちゃんって漫画読むんだっけと思い返してみれば、読むわ。
入学式の初めて話した時も漫画で日本のことを勉強したって言ってたくらいだし。
でも、気になることが1つある。
俺は未だにニーナちゃんの家で漫画を見たことがない。
「ニーナちゃんの家に漫画ってあったっけ?」
「……タブレットとか、スマホで読んでるの」
「そうなんだ。読みやすい?」
「読みやすいわよ。イツキも試してみたら? 今度貸してあげるね」
「う、うん。今度ね」
現代っ子というかなんというか。
俺からすれば漫画を電子で買うというのは抵抗があったりするのだが、そうじゃないのだろうか。
てか、あれでしょ。
ニーナちゃんが読んでるのって少女漫画とかでしょ。
俺が読んでも面白いのかなぁ……。
そんなことを考えていると、玄関から引き戸の開く音がした。
母親とヒナが買い物から帰ってきたのだ。
帰宅した母親は部屋に入ってくるなり俺を見ながら、片手に買い物袋。もう片方の手には手紙を持っているという奇妙な格好。
なんで手紙なんて持ってるんだろうと思っていると、母親はそのまま俺に手渡してきた。
「イツキ。手紙が来てたわよ」
「僕に?」
「ほら、ここに名前が書いてあるでしょ?」
母親に言われて宛名を見てみれば、確かに俺である。
俺に手紙?
誰だろうと思って受け取ってみると、アカネさんからだった。
なんであの人スマホとかタブレットとか持ってるのにこういうところは古風なんだろう、と思いながら封を切って手紙を開く。
「なんて書いてあるの?」
広げた手紙に興味津々なニーナちゃんが、俺の手元を覗き込んだ。
俺はそんなニーナちゃんに応えるように、文頭を読んで一言。
「えーっとね。アクターについて調べてみた結果だって」
「もう来たの?」
「みたいだね」
ニーナちゃんの疑問ももっともだ。
俺がアカネさんにアクターの話をしたのは本当につい先日。
いくら『月島』家が調査に慣れているとは言え、こんな短時間でモンスターの調査を終えることができるものなんだろうか。
そんなことを思いながら手紙を読み進めていると、早速結論が書いてあった。
『結論から言うと、アクターなる魔は不明。現在、別組織に問い合わせ中である』
……まぁ、そんな気はしていた。
そもそも月島家に聞いて分かるのであれば、アカネさんに聞いた段階で少しは実のあるリアクションが返ってきたと思うのだ。
でも、俺がアクターについて話したときのアカネさんは完全に初見のリアクションだった。
だから月島家の情報に保管されていなくてもおかしくないと思うのだ。
別組織というのがどこのことを指しているのかは気になるが。
「アクターの正体は分かったの?」
「ううん。何も分からないんだって」
「そうなんだ」
俺が手紙から顔をあげて答えると、ニーナちゃんは知っていたかのように無表情で頷いた。どうやら、ニーナちゃんもそこまで期待していなかったっぽい。
ただ、
なんでだ、と思って読み進めていると、ちゃんと長い理由があった。
なんと次の仕事の誘いである。
そんな高頻度で誘わないんじゃなかったのか。
なんて思いながらも、仕事の案内を見てみると俺に勧められている仕事は3件。
そのどれか1つを選んでも良いし、2つを選んでも良いし、全部を選ぶのも、何なら1つも選ばないというのもアリだと優しい文章で書いてあった。
母親が冷蔵庫に食料品を詰めているのを横目に、俺は仕事の詳細について目を走らせた。
1つ目の仕事は第二階位のモンスター。
夜の公園のブランコで大車輪をし続ける不審者が出るというので、それを調べて見るとモンスターだったという。
でもこれは夜にならないと無理そうなのでパス。
2つ目も第二階位のモンスター。
駅のホームや、レールの上に人影が出るので駅員が見張っていたところモンスターだったのだという。既に高校生が1人、夜中に電車を待っていたところ力づくでホーム下まで引き込まれて被害にあっているらしい。
これは保留。
そして最後の3つ目は、遊園地に出てくるモンスターの話だった。
なんでも遊園地内に職員の知らない着ぐるみが出たり消えたりするのだという。
その遊園地では、既に3人の子供が行方不明になっているのだと。
階位は第三階位。
モンスターが出てくるのは昼。
それに場所も家からそう遠くない。
次に受けるなら、これが良いんじゃないかと思った。
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