第4-11話 合いの手
無事に初仕事を終えた次の月曜日を迎えた。
なんと父親もイレーナさんも家には帰ってこないまま1週間が経ってしまったのだ。
とはいっても、1〜2週間近く帰ってこないなんて別によくあることである。
だから特に気にしてはないのだが……ただ母親からの話によれば、父親が最初に受けた仕事は終わっているらしい。
普通だったら出先のモンスターを祓って家に帰ってきていたところ、次から次へと仕事が入ってきて家に帰る暇もないのだと。
ちなみにそれはイレーナさんも同じみたいで、昨日の夜にもニーナちゃんと電話していたときにちょっとそんな話が聞こえてきた。
だから今日も今日とて一緒に登校だ。
誰かと一緒に学校に行くのは楽しい。
「それにしても、
「そうかな?」
朝、信号待ちの途中でそう言ったのはニーナちゃん。
別にその話題は唐突に出てきたわけでもなく、俺の初仕事が終わってから俺とニーナちゃんの間で定期的に出ているものだ。
「だって俳優って意味でしょう?
「控えめ? どういうこと?」
「
「そうなんだ」
「そうなんだって……イツキは2体も祓ってるじゃない」
「それはそうなんだけど……」
俺はポケットの中に入れている『雷公童子の遺宝』を握りながら、答えた。
「モンスターの名前って祓魔師が付けてるんじゃないの? モンスターが自分から名乗ってるの?」
俺の問いかけに、ニーナちゃんは少しだけ目をきょとんとさせると不思議そうに首を傾げた。
「……確かに。どっちなのかしら」
俺の疑問に、ニーナちゃんもすぐには答えが出ずに考え込む。
ひとまず『
いや、氷雪公女は自分から名乗ってたような気がするな。
うん? じゃあ、名前ってモンスターたちの自称なのか。
ということは、アクターって名前もモンスターが自分から名乗っていることになるのかな?
俺の疑問はさておいて、ニーナちゃんは首を傾げたまま続けた。
「でも、モンスターが名乗るなら
そう言いながらランドセルを肩にかけ直すニーナちゃん。
うーん。確かに、言わんとしていることは分かる。
ただ、これまでの第六階位は皆、名前が
雷を使うから雷公童子。
氷を使うから氷雪公女。
そして蟲でありながら、かつての祓魔師を名乗った化野晴永。
それは一種の『共鳴』だと、1年前に白雪先生から聞いた。
類感呪術――同じ音を持つものは、同じ性質を持つというやつだ。
だとすれば、
例えば
うん。ありそう。
他には何があるだろうか?
劇団員だけじゃなくて、俳優の方でも考えてみるか。
イケメン、不倫、スキャンダル……。
ダメだ。芸能人なんて興味のない生活を送ってきたせいか、他のまともなイメージが出てこない。
「イツキ、赤よ」
「……ありがと」
そんな考え事をしながら歩いていたら、あやうく赤信号のところにツッコみそうになって、ニーナちゃんに止められた。
止められて、全く違う話題を振られた。
「そういえば、イツキってこれからも
「うん。そのつもりだけど」
俺もアクターについて考えるのはやめて、ニーナちゃんに向き直る。
するとニーナちゃんは少しだけ言いづらそうにしながら、口を開いた。
「それ、私も一緒に行きたいんだけど……一緒に行っても良い?」
「……う、うーん」
ニーナちゃんにそう聞かれて、俺は小さく唸った。
正直なところ、ニーナちゃんからそんな話が出てくるんじゃないかとは思っていた。
何しろニーナちゃんは未だに祓魔師に憧れを抱いているし、本気で祓魔師になりたいと思っている。
ニーナちゃんは俺と一緒に放課後、2人でモンスターを探して祓ったりしていたことだってあるのだ。
だから『仕事』もそれと同じように、ニーナちゃんが付いて来たがるんじゃないかとは、うっすらと思っていた。
ただ、だからと言って俺もすぐには頷けない。
「イレーナさんには言ったの?」
「ママに? もちろん言ったわ」
「どうだった?」
「『イツキと一緒なら良い』ですって」
……イレーナさんなら止めると思ったんだけどなぁ。
俺は思わずそんなことを考えてしまった。
でも、思い返せばイレーナさんは俺とニーナちゃんが放課後にモンスター探しをしていたことを知っている。知っているからこそ、俺と一緒なら大丈夫だと言ったんだろう。
「だから、その……イツキが良いって言ってくれれば、嬉しいんだけど」
ニーナちゃんにそう言われてしまえば、俺の返答は決まっている。
「うん。良いよ。一緒に行こう」
「ほんと!?」
「でも、次の仕事が来たらね」
速る気持ちを抑えきれないニーナちゃんに、俺は一応釘を刺した。
そもそも俺への仕事は母親の意向により滅多に回ってこないことになっている。
そういう話が母親とアカネさんの間で交わされているのだ。
それに次に仕事が回ってくるのがいつになるのか俺にも分からない。
分からないし、あまりニーナちゃんを危ないところには連れていけない。
だから、俺はそう言ったのだが、
「大丈夫。イツキならすぐに仕事が回ってくるわよ」
なんて、ニーナちゃんからは分かっているのか、分かっていないのか何とも言えない答えが返ってきた。
それに俺がどう返したものかと悩んでいると、ニーナちゃんは重ねるように俺に尋ねた。
「そういえば、今日は『
「『
「何それ」
ちょっと不機嫌になるニーナちゃん。
そういえばまだ言ってなかったっけ。
「最近、ニーナちゃんのおかげで妖精魔法が使えるようになってきたでしょ?」
「そうね。
やけに『まだまだ』のところを強調しながら言ったニーナちゃんに、俺は続けた。
「だから、組み合わせてみようと思ったんだ」
「組み合わせる? 妖精同士を??」
「ううん。違うよ」
歩行者用の信号が青になったのを見て、俺はかねてから考えていた新しい魔法の話を初めて人にすることにした。
「妖精魔法と、『
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