第3-04話 田舎に行こう!①

 夏休みを目前に控えた土日。

 つまりは合宿を目前に控えた土日。


 俺はイレーナさんに呼び出されて、ニーナちゃんと3人でバスに乗っていた。


 何でバスに乗っているのかというと、イレーナさんのお仕事の手伝いである。

 いや、手伝いというのもおかしいか。


 俺が『凝術リコレクト』の練習をしにニーナちゃんの家に遊びにいったら、イレーナさんもいて、『今週末仕事に行くけど一緒に来ないか』と誘われたのである。そして、それはイレーナさんと2人きりということではない。


 モンスターが祓えるようになったニーナちゃんも一緒だ。


 ニーナちゃんと一緒なら、という気持ちもあったし何よりもまだ未熟な俺の『凝術リコレクト』を強くする良い機会だと思って一緒に行くことにしたのだ。


 その話を父親にしたら、『妖精魔法を見れる機会は数少ないから見てくると良い』とこころよく送りだしてもらった。


 嘘だ。

 めっちゃごねられた。


 せっかくの休みなのに、一緒に過ごせないうんぬん。

 それを母親が説得してくれたので俺はニーナちゃんたちと、こうして出かけているわけである。


「もうそろそろつきますよ」

「……ふぁ」


 イレーナさんの真横でニーナちゃんが可愛らしくあくびする。

 俺もそれにつられてあくびしそうになった。


 電車で移動すること3時間。

 そこからバスに揺られて1時間。


 俺たちの合計移動時間は4時間である。

 流石に長すぎるが、イレーナさんはケロリとしている。


 ちなみに周りは山も山。山の中である。

 田舎というか自然というか、東京から4時間も離れればこんなところまで来てしまうのか、という感じだ。


 最初は『自然豊かで良いな』とか思ってたけど、流石に2,3時間も見てれば飽きてきた俺は窓から視線を戻す。


「そういえば祓いに行くモンスターはどんなモンスターなんですか?」


 俺たちしか乗っていないバスの最後尾で、俺はこっそりイレーナさんにそう聞いた。

 そろそろ目的地に付くのであれば、モンスターの情報を知っておいた方が良いだろうと思ったのである。


 モンスター、という言葉に反応したニーナちゃんがビクリと震える。


「あら? そう言えば、まだ話してませんでしたね」


 イレーナさんはそう言って微笑むと、続けた。


「これから向かう町には先月から、夕方になると小学生の子供に話しかけてくる男が出てくるそうなんです。真っ黒いスーツを来て、帽子を被った男が」

「男ですか?」

「はい。しかも、変なことを聞いてくるんだそうです。『お母さんいますか』『十六歳ですか』『いま幸せですか』なんて、目撃情報は色々です。ただ一貫しているのは、男の姿が黒い帽子を被っているスーツの男だということ」


 そこだけ聞けば変質者だな、と思う。


 でも真っ黒いスーツを着た男で思い出すのは、先日出会った女の子を追いかけていた頭がカエルっぽいモンスターである。ついでに頭がナメクジもいたのだが、そいつらも着ている服は黒いスーツだった。


「それだけならただの変質者ということで良いんでしょうが、その男が現れるのと同時に3人の子供が行方不明になったそうです」

「……3人も?」


 モンスターの話に、ニーナちゃんがぎゅっと俺の手を握ってきた。

 どうやらモンスターを見て祓えるようにはなったものの、まだモンスターの話が怖いらしい。気持ちはよく分かる。


「ただごとじゃないということで、警察がパトロールを行ったのですが見つけた男が目の前で消えてしまいまして」


 流石に変質者は消えないだろう。

 間違いなくモンスターだ。


「それで、祓魔師エクソシストの出番となったわけです」


 俺はイレーナさんの情報を聞きながら、話を整理した。


 聞いている限りだと支離滅裂な話し方からして第一階位か、第二階位のモンスター。

 それくらいなら近場のいる祓魔師でどうにかできそうなもんだけど。まぁでも、『第四階位イレーナさん』が出なきゃいけない理由があるんだろう。


 あれかな。

 行方不明になってる人がいるから、急いで祓う必要があるとか……そういう感じだろうか?


 そんなことを考えていると、バスが停まった。

 座りすぎて、じんじんするお尻を頑張って動かしてバスから降りる。


 降りてすぐ見えてきたのは、とてもさびれた町だった。


 道路脇に面している建物のほとんどは古くなって変色しているか、ひび割れている。


 昔は栄えていたのだろうか。

 そうした古い建物のほとんどは何かしらのお店で、そして全て閉店してしまっていたのだ。


 あと、店先に貼られているポスターがすごい。色あせてしまってよく見えないが1970年って書いてあったぞ。いつから貼ってあるんだ。


「ちょっと早く着きすぎちゃいましたね。どこかで時間を潰しましょうか」


 そういってイレーナさんが腕時計を見る。

 俺もさっきバスの中で時間を見たが、まだ15時過ぎとかである。


「イツキさん。ニーナ。何か食べたいものはありますか?」

「……甘いもの」


 イレーナさんの問いかけに、ニーナちゃんがぽつりと呟く。


 お姫様のご要望にうために、俺たちは喫茶店を探すことにした。



 10分くらい歩いたら、小さな喫茶店があったので中に入った。

 だいぶ昔からやってる感じのお店で、店の中はそれなりにご盛況……というか、多分だけど客が固定層になっているんだろう。常連客っぽい人でいっぱいだった。


 だから、その店の中に入ったら俺たちは目立った。

 いや、その言い方は正しくない。イレーナさんと、ニーナちゃんが目立った。


 この2人は普通に歩いてても目立つくらいの金髪碧眼だ。あと美人。

 当然、目を引く。一方の俺はどこに出しても恥ずかしくないくらいの凡人なので、一緒にいると2人が余計に目立つのだ。


 初老の女性に案内されて、俺たちはテーブルに座る。

 そして、これまた年季の入ったメニュー表を手に取って、俺たちは飲み物を頼んだ。ニーナちゃんはパンケーキも一緒に注文してた。


 飲み物が先に運ばれてきて、俺たちはしばし休憩。


「ねぇ、イレーナさん」

「どうされました?」

「モンスターが小学生に話しかけてくるってことは、もしかして僕たちだけで歩かないといけないの?」


 つまり『囮にならなきゃダメ?』と聞いてみたのだが、イレーナさんは静かに首を横に振った。


「あぁ、いえ。その必要は無いんです」


 イレーナさんはいつにも増して真剣な表情で言った。


「そのモンスター、今では年齢関係なく話しかけてくるそうです」

「……うん?」

「恐らく成長したのでしょう。被害者数も増えていて、今の行方不明者は122人です」


 ちょっと凄い数字がでてきて、俺は思わず眉を潜めた。

 聞き間違いかと思った。なので、隣にいるニーナちゃんの反応をうかがったら、ニーナちゃんは運ばれてきたパンケーキを見ていてイレーナさんの話を聞いていなかった。お腹空いてたのかな。


「あと、その122人の中に第二階位の祓魔師エクソシストが2人入ってます」

「え……。じゃあ、そのモンスターって」


 俺の問いかけに、イレーナさんがうなずく。


「おそらく第三階位以上。私の想定では第四階位だと思ってます」

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