第18話 ミリタリーレジャー

 次の日、アルベル達三人は、帝国軍の演習場に来ていた。

 その日は、休日という事もあり、多くの人が集まっていた。

 演習場の入り口には行列ができており、三人はそこに並ぶ。

 奥の方には、宿舎のような建物もあり、物々しい雰囲気がある。

 既に始まっているのか、前の方からは発砲音が聞こえる。


「ずいぶんと賑わってるわねぇ」

「帝国は軍事国家だ、市民の多くは軍隊への信頼が厚いのさ」


 しばらくして、アルベル達の番がきた。

 兵士の一人がチケットの確認をする。


「はい、チケット拝見……三名、いや、一名と二匹ですか。すみません、ペットのご入場は許可されていませんので、お引き取り願えないでしょうか」


 その言葉を聞いて、アルベルは眉一つ動かす事なく言い返す。


「俺、傭兵事務所の所長やってるんすよ。そこそこ実力もあってね……ホワイトオーダーに言いつけちゃおうかなぁ」


 アルベルはそう言って、後ろを振り向く。


「す、すみません! 三名様ご入場です!」


 兵士は急いでアルベルを引き留める。


「ふむ……よし行こうか、イーリス、シトリー」


 三人は演習場へと入っていく。


「ねぇ、ホワイトオーダーに口利きできるってホント?」


 シトリーが小声で問いかける。


「ん? もちろん嘘だよ、ホワイトオーダーの連中なんて、顔も見た事ないよ」


 演習場には、縦長の台がずらりと並べられており、それぞれに銃と弾丸が置かれている。

 奥には的がいくつも設置されているが、距離が離れているせいか、あまり当てられた形跡がない。

 たくさんの人々が銃の射撃を体験し、暴発や盗難に備えて兵士が巡回している。

 そして、絶えることなく銃声が響いている。


「んじゃ、早速ぶっ放してみるか」


 アルベルは近くのライフル銃を手に取る。


「コレ弾入ってるのか? あ、使い方の紙が置いてある」


 使い方が書いてある紙を手に取り、目を通す。


「ふむふむ、弾倉を入れ替えて弾を込めれば良いのか。一発撃ったら横のレバーを……ほうほう、大体分かった」


 アルベルは弾倉を入れ、引き金を引く。


 バン


 コッキングをし、再び引き金を引く。

 それを数回繰り返す。


 バン バン バン バン バン



 弾丸は全て的から外れる。


「おっと、弾切れか、全然当たらんなぁ……次は誰がやる?」

「私、やってみる!」


 イーリスが名乗りを上げ、銃を手渡す。


「いいねぇ、はいよ」


 アルベルと同じ動作で弾倉を入れ替え、引き金を引く


 バン


「ひぅあ!」


 イーリスは反動に驚いて腰を抜かし、尻餅を着く。


「……大丈夫か?」

「うん、私はもういいや…………」


 しょんぼりとした顔で立ち上がり、銃を台に置いた。


「じゃあ、最後私ね」


 シトリーが銃を手に取り、慣れた手つきでコッキングをし、発砲する。


 バン


 その銃弾は正確に的の中心を貫いた。

 続けて射撃をする。


 バンバンバンバン


 全ての弾丸が、的の中心に空いた穴を通過する。


「……すごくね?」

「シトリー、かっこいい……」


 アルベルとイーリスは、思わず感嘆の声を漏らす。


「……どこかで昼飯食べて帰るか」


 イーリスとシトリーは無言で頷く。


 出口に向かう際、巡回中兵士に一人とすれ違った時、アルベルがその兵士を呼び止める。


「なぁそこの兵隊さん」

「……何でしょうか」


 アルベルはイーリスが着ているコートのフードの中に、手を突っ込んだ。


「え? アルベル?」


 そして、フードから取り出されたアルベルの手には、一発のライフル用の銃弾があった。


「この銃弾、服の中に紛れてたみたいです。返しておいて下さい」

「わ、分かりました」


 兵士は銃弾を受け取ると、そそくさと去っていく。


「気づかなかったよ、ありがとう。それにしても、いつ紛れちゃったんだろう?」

「さっきのやつに仕込まれたんだよ、気付け!」

「え? そうなの?」

「何も知らないイーリスも可愛い! ちなみに私は気付いてたわよ!」

「もー、二人とも意地悪!」


 シトリーとイーリスは無邪気に笑い合う。


「さて、身体検査があるぞ。変なとこ触られたら殴っていいからな」

「「はーい!」」


 二人は元気よく返事をする。


 その後、シトリーが兵士一人をボコボコにしたが、アルベルが嘘とハッタリで揉み消したのだった。



 食事を済まし、事務所へ戻ってきた三人。


「はー疲れた!」


 シトリーは真っ先にソファーに座る。

 それに続いてイーリスも腰掛ける。


「今日はお疲れ! 二人共、今日は楽しかったか?」

「まあまあかしらねぇ、可愛いイーリスがたくさん見れたのは良かったわね!」

「私は楽しかったよ、アルベル、今日はありがとうね」


 アルベルは嬉しそうに微笑む。


「そう言ってもらえると俺も嬉しい、また機会があったら誘うよ。さて、急で悪いが、少しだけ仕事の話をするよ」


 シトリーとイーリスは姿勢を正し、アルベルも真面目な表情に戻る。


「また王国との情勢が怪しくなっている。近々向こうの傭兵団とやり合う事になりそうだ。前は初参戦だから弱い相手が割り当てられたが、恐らく次は実力のある傭兵との戦いになるだろう。まあ、油断は禁物って事だな。んじゃ、今日はこれにて解散!」

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