第11話 大罪人は両親を断罪する

 俺は突き出された回復魔道士たちの前に移動して命令する。


「取り敢えずアレスを治せ」


 俺は地面で伸びているアレスを指差す。

 しかし誰も動き出す素振りを見せず、頑なに地面ばかり見ている。


 ふむ……流石にここで動き出すほど馬鹿な奴は居ないか。

 俺的には馬鹿な奴の方がありがたかったんだがな。

 

「しかし吐かせる方法など幾らでもある」


 尋問には身体的苦痛や精神的苦痛を与えなくても簡単に聞き出す方法がある。

 それは、絶対に助からないと分からせた上で救いの手を差し伸べることだ。


 俺は観客たちに聞こえない様に小声で話す。


「お前たちが幾ら黙っていようが既に映像がある時点で有罪だ」

「しかしそれが本物かなど分からないではないか」

 

 1人の回復魔道士が口を開いた。

 確かにそう思うのは当たり前なことだ……が、今回はその手は全く通じない。

 皆俺の正体を忘れてもらっては困る。


「俺にそんな高度な事ができると思うのか? お前たちも知っているだろう? アークボルト家の無能者。それが俺だ」

「ぐッ……だ、誰か雇ったんだろ! 俺たちの様に! ―――あっ」

「はい、アウト。新たな証拠ふぁ出来たな。これでお前達が誰に雇われているのか調べれば終わりだ」


 コイツらは俺が思った以上に馬鹿なのかもしれない。

 黙っていればいいのに余計な口を叩くからこうなるのだ。


 これで証拠が揃ったとは言え、これから捜査となると時間がかかりすぎる。

 きっとあの馬鹿両親なら俺を殺そうとするだろう。

 そうなれば俺には太刀打ちできない。

 この体はまだひ弱なままだし、スキルと言う不確定要素があるからあっさり死んでしまうかもしれないからな。


 だからこの場であの両親を断罪する。

 その為には……


「い、嫌だ……! 牢屋には入りたくない……! 俺には小さな子どもが居るんだ」

「わ、私だってついこの前婚約したばかりなのに……」

「…………終わりだ。俺たちはここでお終い。これからの人生牢屋で死んだような日々を過ごすだけ……」

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ……私がこんな所で死んでいいはずがない……!」


 このお馬鹿な奴らに素直に吐いてもらわないとな。

 ここからが元尋問係の腕の見せ所だ。


「これでよく分かっただろ? お前達がどうやっても助からないことが。もしこれが貴族の当主を決める決闘でなければこれ程大事な事にはならなかっただろうが、お前達は決闘で犯罪に加担した」

「わ、悪かった! 俺たちが悪かった! どうか許してください!」

「本当にごめんなさい……全て話しますからどうかお慈悲を……」


 そう言って懺悔する回復魔道士たち。

 さて……案外根性のないコイツらに救いの手を差し伸べてやるか。


「ふむ……なら2つ俺の言う条件を呑むのなら許してやらないこともない」

「な、何なりとお申し付け下さい!」

「どんな条件も呑みます!」

「わ、私も!」

「俺もです!」


 よしよし、全員快諾してくれたな。

 なら早速1つ目の条件を果たしてもらおう。


「なら今からお前達が誰に雇われたのか、どの様な事を依頼されたのかを詳しくこの観客たちに言え。勿論録音も取っておくから嘘はつくな」

「「「「わ、分かりました……」」」」

「よし、なら少し待ってろ」


 俺は回復魔道士たちにそう言った後、声を張り上げて観客へと話しかける。


「観客よッ!! 今回の真相は実行犯のコイツらが話してくれるそうだ! 決して嘘ではない事を先に伝えておく!」


 俺は目線で「言え」と促す。

 すると俺に1番初めに反論してきた男が立ち上がって事の顛末てんまつを話し始めた。


「俺たちは個人で活動する回復魔法士のため、基本的にどの人間も貧しい。俺も勿論その1人だ」


 ふーん……コイツら全員個人で活動中だったのか。

 いい事を聞いた。

 これならあの方法が使えるな。


 俺は話を聞きながらこれからの事を頭の中で整理していく。


「そんなある日、街の裏路地でアークボルト家の執事を名乗る男が俺の目の前に現れた。そして彼はこう言った。「貴方にぴったりのいい仕事があります」と。始めは疑ったが、屋敷に連れて行かれた時に本物だと確信し、仕事を受けることにした」


 その言葉を聞いた観客はざわざわとし出す。

 しかし観客の視線は父親と母親に向いており、本当なのかと疑心に駆られている。 

 ただ父親は兎も角母親の顔を見たら一目瞭然だがな。

 

 母親は顔を真っ青にしてプルプル震えているし、何なら目に涙浮かべて絶望した表情になっていた。

 もう少し貴族なら心の内を隠せよと思わないこともないが、ここで言っても意味ないと思い、考えを改める。


 更に執事も話次第ではクビ確定と。

 これは……思った以上にこの家の内部は腐っているかもしれんな。

 全く……公爵家の名が聞いて呆れる。


 俺は目線で続けろとアイコンタクトを促すと、こくんと頷いた男が話を続ける。


「そしてその仕事が、今回の決闘での回復だった。貴族の決闘は不正が厳禁なことは知っていたので辞退しようと思ったがもう遅かった。執事に「これは当主様からの直接の依頼です。更にこれを聞いたからにはただでは返しません」と脅されました」


 更に騒々しくなる観客に、とうとう父親までもがポーカーフェイスを崩し始めた。

 冷や汗をダラダラと流し、眉がピクピクしている。


 これは終わったな。

 後は観客の判断に任せるとしよう。


「ありがとう……「シュウです」シュウ! 貴公のお陰で我が両親の悪事を暴くことが出来た。観客達よ、今回の話を聞いてどう思う?」

「これは完全に当主様が悪いだろ」

「神聖な決闘を穢す者は誰であろうと悪だ」

「当主なんて辞めちまえ!」

「そうだそうだ!!」

「納税の義務も他の領土よりも高いから居ないほうがマシだ!」

「「「「「「「辞めちまえ!!」」」」」」」


 観客の声は皆が当主を辞めさせる様に言っている。

 この父親圧政までしていたのか。

 政治に関してはレインの記憶にも無かったから知らなかったな。

 しかしこれで完全にこの両親は終わった。


「我が民よ、本心を語ってくれてありがとう。これからはこの私、レイン・フォン・アークボルトが次期当主として、この領地を王国一住みやすい領地にする事を誓おう! まずは地域ごとを収めている小領主達が圧政を敷いているのなら、クビにしようと思っている!」

「おおおお!! これで税に悩まなくて済むぞ!」

「レイン当主様バンザイ!!」


 俺は領民達の声援をその身に受けながら両親の元へ行き、耳元で一言。


「これで終わりだ、欲に駆られた屑どもが」


 俺は兵士に命令して両親を連れて行かせる。

 後で王都に犯罪者として輸送させる予定だ。

 レインの親であっても俺の親では無いので情も湧かないが、強いと言えばアレスが少し可哀想というくらいだな。


 俺はアレスを抱っこして運動場を後にした。

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