第9話 大罪人は決闘で勝利を確信する

 俺はアレスの落ちた穴へと急いで移動し、吸魔を使用して魔力を取り込みながら穴の中を確認する。


「おい! 落とし穴なんて卑怯だぞ!! 早く出せ!」


 アレスが俺にキレ散らかしているが、勿論助けない。

 当たりどころが悪くて気絶していないかなと一縷の望みに賭けてみたが、思った以上に元気そうなので、新たに魔法を発動させる。


「【ファイア】」

「なっ!? ば、馬鹿な!? あのゴミは魔法が使えないんじゃなかったのか!?」


 俺の掌に拳大の青い炎が出現すると同時に、驚愕の声を上げる父親。

 だが決闘中だし魔法を維持するのも大変なので無視して続ける。


 この1週間は殆ど基礎ばかりやっていたお陰で詠唱がなくとも発動できるようになった。

 まぁコツは分かっているのに1週間も出来なかったのは単純にこの体に才能がなかっただけだが。


 俺はその炎を落とし穴にゆっくり投げ込むと共に再び魔法を発動。


「【アクア】――さあ喰らえ。結構痛いぞ?」


 手から生成された水が落とし穴の中に吸い込まれていき、炎に当たると同時に、 「ドカンッッ!!」と言う爆発音が運動場に鳴り響き、土が吹き飛ぶ。

 これは水蒸気爆発と言って、高温な物に水を与えることによって起きる爆発のことだ。

 爆発自体は魔法ではないので、火魔法の中級、【ファイヤボム】よりも威力は低いが、これは子供のお遊び。

 

 お遊びにそんな危険な魔法を使えば一瞬にしてアレスが死んでしまう。

 それにまだ俺にはその魔法は扱えない。

 詠唱に時間がかかりすぎて戦闘では全く使えないのだ。

 

 しかし今の俺が使える攻撃魔法ではアレスに傷一つ付けられない。

 単純にアイツの防具がいいのと、基礎魔法しか使えない俺の火力不足だ。

 おまけに剣なんて振っても、全盛期の俺ならまだしも今の俺だと、あまりの質の違いで木剣が折れてしまってダメージにならない。


 そんな中、考えに考え抜いて選んだのがこの方法だった。

 しかし落とし穴など1度しか通用しない事など明白。

 この間に出来るだけダメージを与えておきたい。


 そう思い俺が再び魔法を使おうとすると、両親の怒声が聞こえてきた。


「レイン! そんな卑怯な戦いはやめろ! 俺はそれで勝ったとしても当主として認めんぞ!」

「そ、そうですわ! こんなの無効ですわ! 正々堂々戦いなさい!」


 そんな甘ったれたことを抜かす両親にはつくづく辟易する。

 それに正々堂々戦えと言うくらいなら、せめて剣くらいは同等のものにしろよ。


 俺は戦いを分かっておらず、自身の言っている矛盾に気付かない残念な親に丁寧に、それこそ子供に教えるように説明してあげる。


「何が卑怯だって? こういったことが起こるかもしれないと警戒していなかった愚弟が悪い。戦闘では何が起こるか分からないんだ。そんなの常識だろ? 様々な可能性を考慮して戦うのが戦闘だ。感情に任せて馬鹿みたいに突っ込んで来るなんて論外だ」

「これは決闘であって戦闘では――」

「戦闘だ! これは立派な戦闘である! お互いに剣を持って相手を傷つけようとしている時点で戦闘だ! ……まぁ俺は木剣で愚弟は真剣と言う武器の質の差はあるけどな?」


 俺はそれだけ言い捨てると、再び穴の中のレインに向けて攻撃を食らわす。


「【ファイア】【アクア】【ファイア】【アクア】【ファイア】【アクア】【ファイア】【アクア】【ファイア】【アクア】」


 炎が生成されて水に触れて爆発の繰り返し。

 しかし奴の防具は奴が付けていい物ではないと思ってしまうほど上等な防具だ。

 なのでこれだけ食らっても死にはしていないだろう。


 と言うかまだ戦闘不能になっているのか不安なので最後のダメ押しとして詠唱ありの魔法を発動させる。


「《炎よ激しく灯れ――【ファイア】》!! そして――《水よ激流のごとく流れろ――【アクア】》!!」

 

 一際大きな爆発音がしたかと思うと、穴の周りの土が弾けるようにして吹き飛ぶ。

 そしてその威力によってアレスが穴から飛び出てくる。

 見れば鎧はベコベコになっており、甲の取れた頭は火傷だらけだ。

 誰から見ても戦闘不能だろう。


「審判、判定は?」


 俺は素早く審判に判定を言ってもらおうと聞くが……


「ま、まだだ……」

「……チッ、やっぱりやりやがったか……」


 声のした方へ顔を向けると、そこには火傷の殆ど治ったアレスが立っていた。

 因みにアレスは回復系の魔道具を装備しているわけではない。

 では何故回復しているのか。


 アレスが回復スキル持ち?

 いや違う。

 レインの記憶にアイツが回復スキルを持っていたという記憶はない。

 そして魔道具の力でもないとなると……。


 答えは1つしかない。


「やはり回復魔法士を雇ったか……」

「何のことだか分からないなッ! これは魔道具の効果だ!」


 俺の呟きに反論するアレスの言葉にきっと嘘はないのだろう。

 多分アレスには回復効果のある魔道具とでも説明しているはずだ。

 しかしその実回復魔法士を何人も雇って、必要魔力の少ない低級の回復魔法でも使って短時間で回復させたのだろう。


 本当に諦めの悪い親たちだな。

 ここまで来たら逆に感心するぞ。

 

 ただ――その御蔭で俺の勝ちが決まった。


「アレス、本当に決闘は終わっている」

「……どう言う事だ? 僕はまだ立っているぞ!」

「いや、お前が悪いわけじゃない。まぁ見ておけ。――【レコード】【スクリーンリフレクト】」


 俺は予め掛けていた魔法を発動する。

 此方も俺が1週間寝る間も惜しんで習得した魔法だ。


 突然俺とアレスの頭上に半透明のスクリーンが出現する。

 そしてそこにとある場面が映し出された。


「な、何なんだこれは……」


 それは一体誰の声だったのだろうか。

 観客の物かもしれないし、アレスの声だったのかもしれない。

 はたまた父親の声だったのかも――


 ただ1つ分かるのは、そのスクリーンにこの運動場が映っており、アレスに向かって回復魔法を掛けている回復魔法士たちもバッチリと映っているということだった。



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