第8話 大罪人は決闘を行う

 ―――1週間後。


 辺りはまだ暗黒に包まれてる時間帯だが、俺はぱっちりと目を覚ましベッドから起き上がる。


「いよいよ今日か……」


 俺は自分で・・・で着替えをしながらエマが朝食を持ってきてくれるのを待つ。

 その間も吸魔を使用しており、絶えず体を自然の魔力が循環している。

 1週間の間、5時間の睡眠の時間以外は常に吸魔を使用していたので、始めの頃よりは大分痛みもなくなりスムーズに循環するようになった。

 その御蔭で魔法の精度も結構上達している。


 俺が着替え終わるとほぼ同時に部屋の扉が開いてエマが朝食のサンドイッチを持って入ってくる。


「レイン様、朝食をお持ち致しました。――ってまた御自分で着替えていらっしゃるのですか!? それは私の仕事ですのに……」

「そんなの俺の勝手だ。既に俺の贅肉は7割位落ちているから自分でも着替えられる」


 そう、遂に俺の醜かった体は改善され始めたのだ。

 今までは超弩級のデブだったが、今ではぽっちゃりと言われるくらいには痩せている。

 体重も当初180kgだったの対し今は113kgにまで落ちており、体格は筋肉がついたのでがっしりとし始めた。 

 しかしまだまだデブはデブなので続けていかなければならないが。


「それにしてもレイン様見違えましたね……1週間前は肥えに肥えた豚みたいだったのに今では立派な人間になっています!」

「……お前は俺をディスっているのか? もしそうなら受けて立とう。お前の給料を賭けてな」


 俺が獰猛な笑みを浮かべてそう脅してやると、途端にあわあわと訂正し出すエマ。


「い、いえこれは言葉の綾と言いますか……何というか……減給だけは勘弁してくださいレイン様っ!!」

「はぁ……ならとっととこの部屋を出ていけ。今日は俺の部屋には絶対入るなよ? 入ったら問答無用でクビだからな」

「わ、分かりました! それでは失礼します!!」


 ペコリと頭を下げて焦りながら出ていくエマ。

 俺はそれを見届けた後、1人朝食を食べる前に魔法をかける。


「【鑑定】」


 これは感知魔法の1種で、物の状態を感知してそれを文字化したものだ。

 1週間の内に必死に習得した魔法で、これのお陰で毒が入ってないかなどが分かり、安心して食べれる。


「やはり今日は毒があるな……」


 俺は家族がレインを家族と思っていないことを改めて知り、気分が悪くなる。

 一体俺が当主になる事の何がいけないのか。 

 しかしそれを考えれば考えるだけ気分が最悪になるので、後で考えるとしよう。

 

 そしてこの毒を入れた者だが、エマは絶対に違う。

 エマは所詮持ってくるだけで作っているわけではないので、粉状の毒をパンの生地に練り込むのは不可能だ。

 それにエマの料理の腕は壊滅的だしな。

 これは俺がお金をチラつかせてやらせたから分かっている。


 なので普段俺の朝食を作っているこの家の料理長が犯人だろう。

 それ以外に俺のご飯を作っている人は居ない。

 ただ料理は物凄く不味いが。


 しかしそれも当主の指示で仕方がなくだろう。

 レインの記憶には、今後料理の質や味が落ちることを必死に謝っている料理長の姿があるしな。


 俺はサンドイッチを【ファイア】で燃やし、窓を開けて灰を捨てる。

 エマを此処から追い出したのは、罪悪感を与えない為だ。

 アイツにはまだまだ俺の元にいて貰わないと困るからな。


「さて……そろそろ行くか」


 俺は指を鳴らしてとある魔法を掛けてから部屋を出た。




 

 ———部屋では窓の近くで何かが光っている事に誰も気付かない。







***







 場所は変わって運動場。

 同じ運動場と言えど、俺が修練で使っていた運動場とは比べのもにならないほど設備がいい。

 まず物凄く広いし、観客席の様な物まで付いている。

 更にはその観客席を守るかの様に結界が常時張られており、強度は俺が使っていた魔道具よりも5割増位に強力になっていた。

 

 俺は結界を触りながら感嘆する。


「これは凄いな……この世界にこれ程の結界を張れる人物が居るとは……」


 まぁ俺の全盛期の物と比べると強度は5分の1程だが、あれは世界最強の俺が貼ったからであって、前世の平均的な強度よりも10倍は強いだろう。


 是非とも会ってみたい。

 そしてどんな事をしてきたのか聞いてみたいな。

 

 俺がそんな事を思っていると、弟や両親が入ってくる。

 それと同時に観客席も大量の人が押し寄せ、あっと言う間に席がほぼ埋まった。


「どうだ愚兄! お前の為に俺が沢山観客を用意してあげたぞ! さぁ早く始めようぜっ!」


 そう言って俺を見下す事を隠しもしないレインの弟のアレス。

 アレスはゴテゴテの鎧や煌びやかな片手剣を持っており、剣の持っていない方の指には沢山の魔道具であろう魔力の篭った指輪が付けられている。

 勿論俺はただの模擬剣だし、鎧なんてそもそも無い。


 それを見るだけで完全に俺を追放しようとする魂胆が丸見えだ。

 まさか此処まで両親に嫌われていたとは。

 まぁついこの前の出来事でとうとうキレたと言う感じだろう。


 ただこのままだとさらに調子に乗りそうなので、ここいらで1発煽っておこうと思う。


「そうだな。いい加減愚弟の態度には飽き飽きしていたから丁度いい機会だ。こい、お前みたいは口だけの雑魚は俺がぶっ潰してやる」


 俺は久しぶりに人を見下しながら手をクイクイとし、全身全霊の煽りをかます。

 若い頃は何回かやっていたが、大人になるに連れてそんなことしている暇があったらさっさと逃げろって感じになってしまったからな。


 そしてどうやら俺の煽りは愚弟に効果抜群だったらしく、怒りで顔を真っ赤に染めて審判の「始めッッ!!」の合図と同時に俺の元へ一直線に突っ込んできた。


 ははっ、本当にやり易くて助かるよ。


 俺はニヤッと愚弟に笑いかけながら、眉を顰めて突撃してくる愚弟に魔法を放った。


「———【トラップ】」

「な、何だこ——ブホッ!?」


 愚弟は俺の放った落とし穴に見事引っかかり、穴の中へと落ちていった。

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