第2話 大罪人は悪役貴族に変わってメイドに謝罪する

 俺は取り敢えずベッドから起き上がり、部屋にあった等身大の鏡で自分の姿を確認する。

 

 まだ14歳のはずなのに既に大人のように身長が高い。

 パッと見ただけで170後半はあるだろう。

 しかしそんな高身長を醜く溜め込まれた脂肪が台無しにしている。

 それに脂肪ばかりで筋肉が全くついていない。

 顔もパンパンで顎が何重顎にもなっている。


「顔も整っているだろうに……勿体ない」


 前世の俺は決して顔が良かったわけではないし、顔は生まれつきの物なのでこの体の元持ち主は非常に残念なことをしていると思う。

 

「……取り敢えずこの贅肉を無くすか」


 俺は前世で取り組んでいたある事をするため、まず1番にメイドに名前を聞いてみる。

 流石にメイドと呼ぶのは可哀想だしな。


「……名前は?」

「…………えっ? あっ私ですか?」

「そうだ。で、名前は?」

 

 少々無愛想に感じるだろうが許して欲しい。

 俺はもう20年以上もまともに人と話していなかったんだ。

 だから話しかけ方がわからない。


 俺が必死に心の中で言い訳しているとメイドが酷く緊張した趣おもむきで口を開く。

 

「わ、私の名前はエマ……と申します。平民なので家名はありません」

「そうか。ではエマ、まずは――」


 俺はメイド改めエマの前に重い体を四苦八苦しながら動かして移動し、深く頭を下げる。

 これは俺が1番先にしないといけないことだ。

 

「……すまなかったな。今までの俺のお前への行動は全て謝る」

「―――……ほえ?」

「もし……ここで働きたくなければ俺が職場を探してやるが……どうする」

「えっ、えっあ、あっ、あの! ど、どういうことでしょうか……?」


 やはりいきなりの態度の変わりように驚いているようだ。

 だが俺は前世で嫌というほど人間関係の事について後悔している。

 前世では俺の味方となってくれるほど仲の深い人などおらず、精神的に病んでしまいそうになったからな。

 

 だからまずは人間関係の改善だ。

 手始めに1番俺レインの被害に遭っているであろうエマと信頼関係を得ようというわけである。

 まぁ先は長いと思うが。


「俺は……この事故は……俺の普段の行いが悪い事への罰だと思っている。だから心を入れ替えることに決めたのだ。まぁ口先だけだと言われれば何も言い返せないのだが……取り敢えず俺への不満を俺にぶつけてみろ」

「え、いや、しかし……」

「これで俺がエマにキレたら――これをやろう」


 俺は自分の机の引き出しから大量の金貨を取り出してエマの前に置く。

 この金貨は俺レオンの全財産で、これがなくなれば俺は自分のお金が0になることを意味する。

 そのことを一番知っているであろうエマは、口をパクパクさせて目を回していた。


「こ、こんな……た、大金を私が……?」

「ああ。俺がお前にキレたらこれを全部くれてやる。――だから全部話せ」


 俺はそう言ってエマに迫る。

 これくらいはしないとエマは話してくれないだろうからな。


 だって元が相当悪かったからな。

 たかが14歳児がこれ程の所業を行えるのかと目を疑ったほどだ。

 

「……分かりました。覚悟を決めます……!」

 

 エマは大きく息を吸うと……


「正直言って……私はレオン様の全部が嫌いです! いつも私を虐めるし暴力振るうしお給料を半分奪うしそれなのに仕事は無駄に増やすし何時も運動しないからデブくて醜いし臭いし性格悪いし鼻息気持ち悪いし他にも――」


 まるで溜まっていた水を全て流し出すが如く愚痴を言っていく。

 そのあまりの不満の溜まり具合に俺は自分のことながら軽く引いてしまうと同時に、関心もしていた。


 よくこれほどの不満を隠して俺のメイド続けてたな。

 俺の世界にもそこまで精神力が強い奴は殆ど居なかったぞ。

 

 それからエマは30分間以上不平不満を溢していた。

 全て終わった後には、


「はぁ……スッキリしました…………はっ! す、すいませんでした! 大変なご無礼をっ!!」

「…………いやいい。俺が言えと言ったんだからな。約束は守る」


 俺は前世でこれ以上の事を普通に言われていたからな。

 今更これくらいの事で怒ることなど絶対にない。


「それじゃあもう1度聞こう。——ここに残って働くか、俺の推薦で違う職場に行くか。勿論職場は最高の待遇の所を選ぶ事を約束しよう」

「…………」


 俺はエマの答えを待つ。

 正直言ってこの賭けはほぼ失敗すると思っている。

 ほんの少し怒らなかっただけで何年もの嫌悪感が消えるなんてあり得ない。

 消えるのは余程のチョロい奴でないと———


「わ、私……ここに残りますっ!」

「——————は?」


 俺は思わず自分の耳を疑う。


「えっ? 何かおかしかったでしょうか……?」


 そう言ってキョトンとするエマを見ると俺が聞き間違いをしていないことが分かる。

 ならコイツ…………チョロいのか……?

 まぁ平民なら大なり小なり苦しい思いはしないといけないのは、どの世界でも同じだと言うことなのか……?

 

「レイン様……?」 

「あ、い、いや何でもない。——よく決断してくれた。これからもよろしく頼む」

「はいっ!」


 こうして俺は専属メイドを繋ぎ止める事に成功した。


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