第12話 パトカーがいっぱい
パトカーのサイレン。それをパトカーと決めつけるにはまだ早い。
救急車かもしれないし、消防車の可能性だってある。その目で白と黒の車体を捉えるまでは、この鳴り響いている音がパトカーから発せられているものだと、断定はできない。
「音鳴り止んだか?」
「完全にうちのアパートの前に止まっているな」
「………」
「………」
「なあ海斗。もしかして俺が暫定容疑者か?」
「瀬那のメッセージからはそう読み解くこともできるな」
「くそチビに下僕呼びされた次は、強盗犯か?」
「それを俺が今から違うと証明するしかない。修哉はここで待っててくれ」
「警官相手に一人で大丈夫か……?」
「今の状況を生み出したのは俺の責任だ。だから落とし前は自分でつけるさ」
心配だ、とでも言うように修哉は俺についてこようとしたけど、それを断る。特にカッコつけたいとかそういうのではない。
「悪いな海斗。お前を助けに来たつもりが逆に助けられることになるなんて」
「気にするなよ。俺が時間を稼いでいるから、その間に村雨を叩き起して、一緒に靴を持ってベランダにでも隠れておいてくれ」
「……………………は?」
***
かくして勝利の方程式が完成した――
いや、そんな訳あるか。無茶なお願いをしたことは百も承知。
修哉がそれを成し遂げることは、俺が実際に占星術を使うことと同じぐらいの難易度だろう。
ただそれ以上に、瀬那の行動が予測できない。最早勘違いとかそういうレベルの問題じゃないし、そもそもいつからアパートの前にいたのか。村雨みたいに実は尾けられていたのか……?
カフェでは瀬那の後ろ姿をきちんと見送ったはずなんだけどな……。
実はこっそりGPSでもつけられていたり……なんて考えが一瞬よぎったが、ないないとかぶりを振り、億劫な気持ちで玄関の扉を開けた。
階段を降りると案の定――最悪のケースになっていた。
二人の警察官と、一人の女性――というより、どう見ても瀬那だった。
「あっ、海斗くん!」
笑顔を浮かべた瀬那が、スタスタとこちらに走り寄ってくる。
だがそれよりも、俺の視界を覆い尽くすのは大量のパンダ――ではなくパトカー。五台ぐらいある気がするんだけど……。
何人かの警察官は無線機か何かでやり取りをしている。
瀬那と一緒に二人の警察官が近づいてきた。
「彼が君の話していた……?」
「はい、私の婚約者です」
「こん……はい?」
「無事で何よりだ。ところで強盗犯は――」
何か今瀬那が、サラッととんでもない発言をしなかったか?
警察官二人が何やら俺に質問しているようだが、全く頭に入ってこない。
「――先輩大変です!」
すると、後方から小走りで新たに警察官がやって来た。けっこう若いけど新人かな? あんな重い格好で走って大変だなあ。
そんな呑気な感想を抱いていると、新人警察官から耳を塞ぎたくなるような爆弾が投下される。
「今犯人と思わしき男がベランダに出てきたのですが、どうやら幼い子を人質にとっているようで――」
「何だと!?」
「人質は薬か何かで眠らされているみたいです。今の所凶器のようなものを手にしている様子は見られませんが――」
「いいか、絶対に犯人を刺激するなよ。まずは人質の救出が優先だ! 俺もすぐにそっちへ向かう――」
まるでドラマや映画の撮影を間近で見ているようだった。緊迫感がダイレクトに伝わってくる。傍から見れば、きっと俺も演者の一人なのだろう。
けどここには、カメラもマイクもない。監督もADもいない。
今目の前で起きている出来事は、現実なんだ。
もう俺に打つ手はなかった。というか、俺何のために外に出てきたんだっけ……。
ふらふらとアパートの中に戻ろうとする俺の腕を瀬那の手が掴む。
「海斗くんどこ行くの! そっちは危ないから私と一緒にここで待っとこうよ!」
「えーと、うん……とりあえず、あの二人連れてくる」
――数分後。
――結論からいえば、人生で初めて土下座した。
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