夏歌 沙流
第0話 プロローグ
俺の進むべき道は、どちらなのだろうか?
『妖怪』として生まれ、『妖怪』として生き、『妖怪』として死ぬ。そのサイクルに、人間と違いなんて何も無いのではないかと俺は思う。
この世界には長らく妖怪と人間が共存していた。人間が妖怪を必要とし、妖怪という存在が生まれた日からずっと……
しかし、科学技術が発展した今。妖怪という不確かな存在を作らなくても人間が不可思議な現象を科学的に証明できるようになった今。俺たち妖怪が辿るべき道はどちらなのだろうか?
どれだけ抗っても、どれだけ叫ぼうとも、人間が妖怪を必要としない限り妖怪は消えて無くなる。文字通り消えて無くなってしまう。
初めからいなかったかのように、初めから……妄想の一種であったと架空に追いやられていくように。
それでも
それとも
俺は……俺は、どちらを選べばいい?
だってそうだろ?生まれた瞬間から、誰からの記憶にも残らずに消えていく運命が決定づけられ、たった十数年で大きな選択を迫られている。
燃えさかる周囲の大地と、その中央で激しく戦う二人の妖怪。自身の中に持っている『霊力』を全て使い切ってしまうかのように、その戦いは激化していく。
「何故だ!何故分からぬ
「やったら死んでも止めへんかったらあかんやろ、
「それで何が残る!?この世界に我々は何を残せるというのだ!子を残せぬ、想いを残せぬ、存在も残せぬ
「せやかて残った子に、まだ存在できる妖怪に!想いを押しつけることだけは、絶対にやったらあかんねん!」
やめてくれ、やめてくれよ……火車のおっさん、鞍馬のおっさん……!俺、こんな、こんなのやだよ。こんなんで消えていく二人を見たくないよ……!
でも、でも俺はどうすればいいんだよ。顔に吹き付ける熱風で目が開けられないのを煩わしく感じる。悲しみで溢れる涙が先から先から蒸発していくのを肌で感じ、あまりの熱量に火車のおっさんの本気度が嫌でも分かってしまう。
人間と敵対し、消えてしまうまでの猶予を削って妖怪の力を使い世界にその存在を知らしめるか。人間と共存し、ゆっくりと消えていく諦観の平和を享受するか。
なんでだよ……どうしてだよ……俺の頭の中では、平和だった日常が流れていく。火車のおっさんと鞍馬のおっさんが酒飲んで笑い合っててさ、奥さん達が『ホント男っていつまで経ってもバカよねぇ』って冗談めかして言い合ってて……俺がその光景を見て今日も平和だなーなんて思っててさ!
それがどうしてこうなったんだよ……
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