第42話 白川家の姉妹
エミリアはとうとう制服のブラウスまで脱がされてしまい、下着とソックスのみになっている。
いやいや、と首を横に振るが、男の一人が下卑た顔で笑い、エミリアにキスをしようとした。
抵抗しようとするエミリアは両腕も両足も押さえつけられてしまっている。
「は、初めてのキスは好きな人とするんです! それだけはやめてください……い、いやあああっ」
もし和樹が飛び込まなければ、そのままエミリアは無理やりキスされ、そして犯されていただろう。
ところが、そうはならなかった。
「そこまでだ」
和樹が教室の扉を開けて声をかけると、男子生徒たちは一斉に振り向いた。
「なんだおまえは?」
「一応、正義の味方気取りなんだよ」
和樹は男の一人の顔面を思い切り殴り飛ばした。男は倒れて壁にぶつかる。
別の男子が顔色を変え、殴りかかってくる。和樹はかわすと足払いをした。男が倒れ、和樹は足蹴にする。
最後の一人の男は、和樹を見て怯えた様子で逃げ出そうとしたが、腕をつかんで投げ飛ばした。
三人が無抵抗になったところで、和樹は一瞬、男子たちを観察する。やはり魔術を使われ操られている。
かなり高度な術式だが、今の和樹の霊力は膨大なので、量で押して解除できる。和樹が男たちにかけられた魔術を解くと、男子たちはぐったりと気を失ったようだった。
ほっと和樹はため息をつく。実は和樹はそれなりに喧嘩が得意とはいえ、絶対に勝てる自信はなかった。
和樹がエミリアを振り返る。机の上に押し倒されていたエミリアはすでに起き上がっていたが、ぐすぐすと泣いていて、青い瞳から涙をこぼしていた。
思わず、和樹はエミリアに駆け寄る。
「大丈夫?」
「はい……おかげさまで。あの、ありがとうございます、祝園寺先輩。本当に助かりました。なんとお礼を言ったらいいか……」
「俺のこと、知っているの?」
「観月さんのお兄さんですから」
エミリアは小声で言う。観月は「五大美少女」と呼ばれるぐらい学校の有名人だが、和樹は目立つところのない男子だ。
ただ、観月の兄ということで、少しは知られているかもしれない。
観月の話を聞く限り、エミリアと観月はそれほど親しくはなさそうだったが、それでもエミリアは「観月の兄」のことを知っているらしい。
和樹が考えながら、ちらりとエミリアを見る。エミリアは相変わらずブラジャーとショーツ、それにソックスのみの姿で、白い肌が目に眩しかった。
外国の血を引いているからか、エミリアはスタイルも抜群で、胸もお尻も大きい。
たしかに五大美少女ランク2位というのもうなずける。
和樹はつい目を奪われてしまったが、すぐに気づいてじろじろ見るのは避けることができた。
エミリアの好意を得る必要があるのに、最初から性的な目でエミリアを見ていたことに気づかれたら困る。
、ただ、そもそもエミリアは半裸姿なわけで、和樹に見られて顔を赤くしていた。
「あ、あの……私、服を着ますね」
「ごめん。後ろを向いているよ」
慌てて和樹が壁側を向くと、後ろで衣擦れの音がした。初めて話す美少女が、自分のすぐそばで制服を着ているのは不思議な感じだった。
「すみません。もう大丈夫です」
振り向くと、制服姿のエミリアが立っていた。少し服にしわがついてしまっているけれど、これで元通りだ。
ただ、顔には平手打ちされた跡が残っていて、痛々しい。
和樹の視線に気づいたのか、エミリアはふわりと笑う。
「心配しないでください。平気ですから」
「無事で良かったよ。あのさ、聞きづらいことを聞くけどいいかな?」
「襲ってきた男子のことですよね?」
「そうだね。心当たりある?」
エミリアは可愛らしく小首をかしげた。
「いえ、まったくありません。ただ、この人たち、魔術を使われていますよね」
エミリアも魔術師の白川家の人間だから、気づいていたらしい。
やはり、男子たちは操られてエミリアを襲っただけのようだった。
「つまり、白川さんを襲おうとした黒幕がいるわけだ」
「それなら……たぶん……」
エミリアは犯人に思い当たる節があるらしい。ただ、言いづらそうだった。
和樹はしばらく何も言わなかった。催促して無理に話させるのは気が進まなかったからだ。
けれど、エミリアは話すつもりになったらしい。意を決したように、青い瞳で和樹を見つめる。
「私を襲わせたのは、私の姉の葵だと思います」
エミリアははっきりとした声でそう言った。
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