第22話 二人目の妹

 透子の母と妹が入ってきたので、和樹は慌てて立ち上がった。


 透子はかなりの美少女で日本美人という感じだけれど、それは透子の母の結子ゆうこと妹の桜子さくらこも同じだった。


 東三条結子は、西桜木家という七華族の家の娘で、その家格と霊力から、名門の東三条家に嫁いだ。

 学生結婚だったそうで、透子を生んだのも20歳そこそこのことらしい。だから、まだ30代なかばの上に、見た目はかなり若々しくて、童顔のせいもあって、20代前半ぐらいにしか見えない。


 透子を大人にしたら、こんな美人になるのだろうなという印象で、赤い和服を綺麗に着こなしている。透子よりも目つきが少し鋭くて厳しい印象はあるけれど。


 反対に、透子の妹の桜子はふんわかした感じの可愛い少女だった。透子や和樹より三つ年下の中学一年生。透子や観月と同じ学校に通っていて、今も制服のセーラー服を着ている。


 ただ、少し前まで小学生だったわけで、やっぱりかなり幼い印象だ。

 

 小柄な桜子は和樹を見ると、ぱっと顔を輝かせた。そして、こちらへと駆け寄ってくる。


「和樹お兄ちゃん!」


 そして、桜子は和樹に抱きついた。その小さな手が和樹の腰に回され、体でぎゅっと和樹を感じるかのように和樹にしがみつく。


 桜子は「えへへー」と和樹の胸に頬ずりし、和樹は苦笑して桜子の肩をポンポンと叩く。

 昔から、桜子は和樹にかなり懐いていた。透子と和樹が一緒にいると、必ず周りにあらわれて、一緒に遊ぼうとしていた。


 小学生だった頃は、微笑ましいということで済んだけれど……。

 和樹がちらりと、観月と透子を見ると、ふたりともじーっと和樹と桜子を見ている。さらに、桜子の母の結子が冷たい目で、和樹を見ていることに気づいてしまい、どきりとする。


 考えてみると、桜子も中学一年生であり、もう十分に女の子なのだった。男の和樹と抱きつくのはまずいのかもしれない。


 けれど、桜子はそんなことを全然気にしていない様子だった。


「お兄ちゃんの身体、温かい……」


 ぎゅーっと抱きしめられたとき、桜子の身体の柔らかい部分があたり、和樹はどきりとする。

 やっぱり、もう桜子も女の子なのだ。


「さ、桜子……も、もう少し離れてくれない?」


「どうして? あ……お兄ちゃん、わたしのこと嫌いになっちゃった?」


 悲しそうに桜子が言い、目をうるうるとさせる。そんな表情を見ると、和樹も強く言えない。


 結局、桜子の好きなようにしていい、と言うと、桜子は「やった!」と弾むような声で言い、ふたたび和樹に正面からしなだれかかる。


 桜子の胸の感触に和樹は動揺した。

 幼い雰囲気なのに、胸はそれなりの質感があるし、しかも、わざと押し当てているような気がする。桜子の目を見ると、いたずらっぽい光が輝いている。


 しかし、婚約者の妹を性的な目で見たなんて、この場にいる人間に知られるわけにはいかない。

 

 なのに桜子は「お兄ちゃん。頭撫でて♪」なんて甘えてくる。

 和樹は少し考え、そのぐらい良いか、と思った。むしろそうした方が和樹の動揺を隠せる。


 和樹が頭を撫でると、桜子は幸せそうに「お兄ちゃんの手、大きいー」なんてつぶやく。


 自分に懐いてくれている子は、やっぱり可愛い。桜子が和樹をお兄ちゃんと呼ぶように、和樹も桜子に妹に近い感情を抱いていた。


 ……少し異性としても見てしまうけれど、それは仕方ないと思う。

 そこに観月が乱入した。


「ちょ、ちょっと……桜子さん!」


「どうしたの? 観月お姉ちゃん」


「か、和樹兄さんは、わたしの兄なんですからね!? あまりベタベタしないでくださいっ!」


 桜子は不思議そうに首をかしげる。そして、くすっと笑う。


「観月お姉ちゃん、わたしにヤキモチ焼いているんだ?」


「や、ヤキモチなんて焼いていません!」


「わたしみたいにお兄ちゃんに抱きついて、頭を撫でてもらったら?」


「そ、そんなこと……恥ずかしくてできません」


「心配しなくても、和樹お兄ちゃんの本当の妹は、観月お姉ちゃんなんだから」


 ふふっと桜子は笑う。たしかに、桜子は透子の妹であって、和樹の妹というわけではない。

 観月が自信を取り戻したように、笑顔になる。


「そうですよね! 兄さんの本当の妹はわたしなんですから!」


 えへんと観月が胸を張る。

 一応、観月の方が二つ年上なのだけれど、年下の桜子に振り回されてしまっていて、ちょっと微笑ましくなる。

 そういうところも和樹からしてみれば、可愛いのだけれど。


 桜子は「うんうん」とうなずいたけれど、ぎゅーと俺に抱きついたままだった。桜子は頬を赤く染め、和樹を見上げる。


「だからね、わたしは和樹お兄ちゃんのお嫁さんになりたいなあって思うの」


 桜子は愛らしい雰囲気で、そんなとんでもないことをささやいた。

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