第11話 告白


 観月はカーディガンを脱いで、キャミソール一枚の姿になった。肩は大きく露出しているし、胸の谷間もちらりと見える。


 そして、一緒の風呂に入るのだという。キャミソールの肩紐に観月が手をかける。

 和樹は慌てた。さすがに洒落にならない。


「み、観月。それは……まずいよ」


「兄と妹なのに、なにか問題がありますか?」


「普通の兄妹は一緒にお風呂に入らないよ」


「でも、わたしの友達の女子は、お兄さんと一緒に入っていたって……」


「幼稚園の頃とかだよね。俺たちはもう高校生と中学生だよ。もう大人だ」


「まだ子供ですよ。わたしも兄さんも」


 そう言うと、観月はそっとその白い繊細な指先で、和樹の裸の胸板に触れた。

 和樹は内心で冷や汗をかく。


(こ、これは……どういう状況なんだろう?)


 和樹は平静を装い、言葉を考える。


「観月はさ。兄妹だから、一緒のお風呂に入りたいのか、それとも婚約者だから一緒の風呂に入りたいのか、どっちなのかな」


 観月は和樹を見上げる。


「両方です」


「観月は……」


 俺のことをどう思っているのか、と和樹は聞こうとして聞けなかった。

 

 観月はそのままそっと和樹に身を寄せ、そしてささやく。


「兄さんはわたしと婚約者のフリをするの、そんなに嫌ですか?」


「嫌じゃないよ」


 嫌ではないからこそ困るのだ。このままだと観月とあいだに取り返しのつかないことが起きそうな気がして。


 現実に、観月は和樹と一緒の風呂に入るなんて言っている。


 和樹は肩をすくめた。でも、この場を切り抜ける方法は一つしかない。


「わかったよ。婚約者のフリをしよう」


「本当ですか!?」


 ぱっと観月が顔を輝かせる。そんな顔をされると断ることなんてできない。

 和樹は観月から一歩後ろに離れる。観月は一歩近づいた。


「逃げないでください」


「婚約者のフリをするから、一緒に風呂に入るのはやめよう」


「どうしてですか?」


「俺が冷静でいられるかわからないからね」


 和樹の言葉に、観月はきょとんとして、それからいたずらっぽく瞳を輝かせる。


「わたしに欲情しちゃうんですね」


 からかうように観月は言う。きっと和樹が否定すると思っているんだろう。

 でも、やられっぱなしというのは、良くないかもしれない。


「そうだと言ったら?」


 和樹は尋ね返してみた。その言葉に、観月は露骨にうろたえる。


「そ、それは……」


「もし二人で裸に風呂に入ったりすれば、元通りの関係でいられる自信はないよ」


「わたしを……襲っちゃうかもしれないってことですか?」


「そ、そうかもしれない。というか今でも、男の前でそんな格好でいたら、襲われかねないよ」


 和樹は半裸で、観月も大胆に露出した格好だ。キャミソールも肩紐がずれて、今にも落ちそうな状態だった。

 しかも場所は風呂場。誘惑されていると言われてもおかしくない。


「それなら、それでもいいです。わたし、兄さんになら……何をされてもいいですから」


 観月は小さな声でそう言った。

 和樹が驚いていると、観月は和樹の首に腕を回し、ぎゅっと抱きついた。

 

 ふわりと甘い香りがする。キャミソール越しに観月の胸の柔らかい感触が、和樹の裸の胸板に押し当てられる。


「婚約者と二人きりで、こんな格好で抱きつかれて、何をしてもいいって言われたら……襲っちゃいますよね? たとえ妹相手でも……」


 観月はいたずらっぽく言うが、その顔は真っ赤で明らかに無理をしていた。


「み、観月! そんなことを言ったら……」


「兄さんってば照れちゃって可愛い」


 観月はそう言って、和樹に甘えるように頬ずりをした。


(まずい……。理性が保てそうにない……!)


 和樹は観月を説得することにした。

 

「ど、どいてほしいな……このままだと……」 


「本当に襲っちゃいますか? でも、兄さんがそうしたいなら、わたしは受け入れます」


「……どうして?」


「それは……わたしが婚約者のフリを……するからです」


「本当に?」


 聞かないわけにはいかなかった。

 透子との問題が発端になったのは確かだけど、それだけが理由ではないことぐらい、和樹にもわかった。


 観月は、和樹を見上げた。そして、じっと澄んだ瞳で見つめる。

 

「わたし、兄さんのことが好きです。一人の女の子として」







<あとがき>

ついに告白……!


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