守り抜け!ブラック企業から抜け出せる光

秋雨千尋

守りたいものは未来への架け橋

 新卒で入った会社が潰れて、次に入ったのはゴリゴリのブラック企業だった。

 タイムカードを切ってからの残業。休日も仕事。有給でも仕事。

 地獄と何が違うっていうんだ。

 ストロングゼロを決めないと眠れない毎日。


 ゴミ屋敷に帰りたくなくて、公園の土管タイプの遊具に引きこもってボーッとしていた夜。ザッザッと土を掘る音が聞こえた。

 遊具の隙間から覗くと、顔を隠した男がトイレ裏の茂みから現れ、人目を避けるように去っていった。


 一体なにを埋めていたんだ?


 俺は好奇心に抗えず、こっそり茂みに近づく。

 まだ柔らかい土を夢中になって手で掘り進めた。ヤバイ薬か? 死体か? 何が出ても構わなかった。

 クソみたいな今の生活が変わるのなら!


「うわ、まじかよ……」


 出てきたのはフグみたいに膨れたボストンバッグで、中には札束がギッシリ。

 人生が180度変わる大金。

 俺はバッグを上着で包んで、穴を塞いだ。人目を避けて慎重にゴミ屋敷に帰る。

 鍵を閉めて、チェーンもして、ずるずると座り込む。


「きっと探し回るよな、俺だってバレても見つからないようにしなくちゃ」


 必死に隠し場所を探す。

 クローゼットやベッド下はすぐ見つかるだろう。借家だから壁や床を剥がす訳にもいかない。


 目をつけたのは台所の床下収納。

 中のBOXを外し、タオルでくるんだ札束を隠す。BOXを戻し、醤油、めんつゆ、料理酒を詰め込み、隙間に砂糖、塩、小麦粉を敷き詰めてギュウギュウにする。

 蓋をして、フローリングと同じ模様のキッチンマットで隠したら、あとは家中のゴミをこれでもかと乗せる。

 しばらく台所は使えないけど、元々ストゼロとコンビニつまみしか食べてない。


 さあ、見つけられるもんなら見つけてみろ!


 怪しまれないように仕事にはちゃんと行く。

 ささいなミスでわめき散らす上司のハゲ頭も気にならない。今の俺はその気になれば札束でぶん殴れるんだから。


 帰ったら鍵が開いていた。

 どうやらアッサリばれたらしい。空き巣に入られた形跡がある。だがゴミ屋敷ぶりに恐れをなしたか、すぐに帰ったようだ。しめしめ。


 力づくで半休を取り、空き巣を理由に引越しの手配をする。

 その夜もまた鍵が開いていた。

 部屋の中を歩き回った形跡があるが、台所まで足跡はついていない。しめしめ。


 明日には札束を取り出して、清掃業者にキレイに片付けてもらって、オートロックのマンション暮らしだ。家具にもこだわろう。仕事も辞めちまおう。そんで夢だったレストランをOPENしよう。

 はあ、輝かしい未来が見える!


「おい、起きろ」


 中から5つ付けた鍵を全て壊され、目出し帽を被った男が中に入ってきていた。銃口が額に向けられている。

 あーあ、ジ・エンドだ。

 全ての夢も、俺のくだらない人生も。


「なんでしょうか」


 しらばっくれて許してくれる相手ではないだろうけれど、せっかく隠した宝を手渡すぐらいなら、地獄の日々に逆戻りなら、ここで死んだ方がマシだ。


「金はどこだ」


「この家にそんなもんはありません」


「お前が持ち帰ったのを見たって奴がいるんだよ!」


「無いもんは無いです」


「ふざけんな!」


 男に力づくで立たされ、殴る蹴るの暴行を受けた。

 はあ痛ってえーなー。

 アバラ折れたかな、会社行かねえで済むな。



「……マジで人違いか。クソが!」


 男は帰ろうとしたけど、何故か台所に向かった。冷蔵庫の中身を持ってこうとしたらしい。

 ゴミバリケードは崩され、隠された収納があらわになる。


 あーあ……まさに骨折り損のくだびれ儲けだ。


「あのーすみません。誰にも言わないんで少しだけ分けてくれませんか?」


 札束をバッグに放り込んでいる男にそう言うと、足を撃たれた。明日から住むのはオートロックマンションじゃなくて病院みたいだ。



 三日後。

 ブラック企業は怪我人を切り捨てる。無事に辞められて安堵した。窓から差し込む光が眩しい。

 病室に黒いスーツの男を連れた着物の男が現れた。ただものじゃないのが素人目にも分かる。


「お前さん銃にもビビらんとは、なかなか肝が座ってるじゃねえか、暴行した部下はネコババしたんで始末したったわ。ホレ、入院費用の足しにしてくれや」


 紫の風呂敷に包まれた塊を置いていった。

 中身を見て笑みがこぼれる。


 床下収納に入り切らなかった分は、鞄に入れて持ち歩いていたから無事だった。

 貰った分と合わせたらなかなかの金額だ。

 骨折り損ではあったけど、意外とおいしい儲けだった。



 終わり。

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