ちょっと幸せになれるかもしれないひととき🔔アドベントカレンダー

蜜柑桜

第1話 朝

 天空へそびえる時計台の鐘が、朝の訪れを告げる。


 冴え渡ったそらの下、混じり気なく澄んだ鐘のは、その振動を妨げる抵抗は粒子ほどもないかのように、空気を抜けて響き渡る。

 組み鐘が最初に振れたのを合図として、城の高い塔から伝書鳩がいっせいに羽ばたきたつ。小屋から放たれる一時の自由を待ち侘びたように、青い空を突き抜けんばかりの勢いで上昇していく。

 鐘の音は海からの風に乗って街のすみずみにまで伝わり、花々を、木々を、野の動物や家畜、そして人々の目を覚ましてゆく。


 一日が動き出す。


 国にただ一つしかない時を告げる塔は、城の上階の窓からもよく見える。朝の清涼な風がガラスを優しく鳴らし、部屋の主を呼び起こす。

 うぅん、という少女の吐息に気がつき、寝台に腰掛けていた者が書から目を離す。

 茶に近い柔らかな髪を撫でられて、少女は寝返りを打った。

「おはようアウロラ」

「おはようございます、お兄様」

 眩しさにゆっくりと瞼を開き、出会った笑顔につられて頬を緩ませる。

「眠いなら遠駆けは明日にするか?」

「いいえ」

 せっかく仕事の少ない日。大好きな兄との朝の散歩を逃すなんて勿体無い。

「行きたい。でももう少し、このまま」

 王族たるもの、甘えていられるのはいまのうち。せめて城がすっかり目覚めてしまうまでは。



 ***

 シレア城主、ひとときの和み。

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