私の事、あなたの一番にしてくれませんか?

清水悠生

本編

丘野結華は何の価値も無い人間である。

 人間と言うのは一番でなければ無価値だ。別に分野は問わない。ただ、頂点に位置していなければ中途半端な有象無象でしかない。

 私の学校では、上位十名に限り中間及び期末テストの点数と順位が掲示板に貼り出される。今回の中間テストでも一番上に書かれている名前はいつもと同じ、柳原やなぎはら真理まり。私にとって数年来の友人であり、ライバルだった女子の名前だ。

 確認したのはそれだけだった。探すまでもなく、そこに私の名前が無いのは知っている。


「ねえ、なんで本気出さなかったの?」


 自分の席に座ってぼうっとしていると、真理が話しかけてきた。彼女の言う様に本気を出していない、いいや、本気を出す以前の問題なのだが、彼女は私の点数など知らないから、私の名前が載っていない事をその様に解釈したらしい。そもそも本気がどうのこうのと言うのは負け犬が考えた言い訳にしか過ぎないので、私からすれば実にどうでもいい質問だった。


「何言ってんの。私が馬鹿なの知ってんじゃん。」

「知ってるよ。馬鹿なだけじゃないのもね。ねえ、悔しくないの?」

「別に。てかどうでも良くない? 二位もビリも変わんないっしょ。成績でも陸上でもさ。」


 真理が優秀である事は私が一番良く知っている。私は彼女のライバルだなんて自称していたわけで、それは勉学に限った話ではなかった。スポーツであれば何でも競い合ったし、わざわざ同じ部活に入ってまで競おうとした。全ては真理に挑戦し、勝つ為の行動だった。


「……結華ゆいか、変わったよね。前はそんな事絶対言わなかった。」

「そうかな。言わなかっただけで、そう思ってたよ。」


 しかし彼女との勝負全てにおいて、私は負け続けた。挑む度に私は前よりも強く賢くなったはずなのに、彼女は常に私の上に居た。それが悔しくて、次こそはと毎度の様に思っていた。

 けれど、私は気付いてしまった。真理が居る限り、学校の場において私が一番になる事は決して無いのだと。

 だから私は学校の中で頂点を目指す事を諦めた。でも他に一番を目指せる物なんて無くて、私は日々が過ぎ去っていくのをぼうっと眺めている。


「ごめんね。私にはアンタのライバルなんて荷が重かったみたい。」

「……もう良いよ。ずっとそうしてれば。」


 真理は静かにそう言って、私から離れていった。その目には失望の色が浮かんでいた。

 その日の放課後、教室に彼氏が来た。何でも、ちゃんと話したい事があるとか。二人で歩いて、帰り道の公園に立ち寄った。


「ごめん。何て言うか、他に好きな人が出来た。その、別れて欲しいんだ。」

「……そっかぁ。うん、分かった。別れよっか。」

「本当にごめん。」


 彼氏から別れを告げられた事は、悲しくなかった。心は波立たず、感情は揺れ動かなかった。また二週間も持たなかったな、とか思った。

 今年に入ってから、私は三人の男子と付き合った。三人共が向こうから告白してきたけれど、誰も彼もが別の人を好きになったと言って、私はフラれる事となった。


「ねえ、その好きな人ってさ。真理の事?」

「気付いてたのか……。」

「見てたら分かるよ。」


 このやり取りも三度目。今までの彼氏達に恋愛感情なんて抱いていなかったが、誰かと付き合ってみれば何かが変わるのか知りたかった。

 でも、こんな所でも真理が出て来る。真理は私よりも綺麗で背が高く、胸もずっと大きい。それでいて私よりも愛想が良くて、女としての魅力でも負けている事は明らかだった。しかも私と付き合えば嫌でも彼女が目に入る。結果、私が彼等を好きになる前に別れ話が始まる。

 彼は何度も謝りながら去っていった。後日告白するのだろうが、きっと断られるだろう。真理に恋人が出来たなんて、聞いた事が無いから。きっと今回もそうなるのだろうと思った。

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