【ー天災ー】35

 今はこうなんとなく望に異動になったという事を言えない気がして仕方がない。


 だって今やっと二人で一緒に住み始めたというばかりなのに、と思ってしまうからだ。 異動なんか本当はしたくはないのだが、こういう仕事をしているのだから少なくともそういう異動というものは付き物なのだから仕方がない。 それだったら異動が無い仕事に就けばいいのだから。 いや、まさかこのタイミングで異動になるとは考えてなかったという方が正しいという事だ。 とりあえず、この仕事をしているのだから遅かれ早かれ異動はあったという事なのであろう。


 雄介からしてみたら今の選択肢というのは、仕事か? 恋人か? という事なのだから。




 あれこれと考えているうちに時は過ぎ。 雄介は望にその異動の事について何も伝えられないまま春坂から離れる事になってしまった。


 まず雄介に異動がかかってからそんなに時がなかったというのもある。


 雄介の引越し当日。 家の主人である望の姿は家になかった。


 そうだ雄介の優しさ故に本当に雄介は望には今の今まで引越しの事を伝えられてなかった。


 雄介はせめて望には手紙でも置いていこうと望宛に手紙だけは書く事にしたようだ。 流石に黙って行く訳には行かないだろう。 と思ったからなのかもしれない。 いや寧ろ黙って行く方が失礼だろう。 そう今まで望の家にお世話になっていたのだから。 メールとでも考えたのだが、やはりそこは手紙の方がより気持ちが届くだろうと思いそこは手紙にしたという事だ。


 雄介が望への想いとともに雄介は『異動』の事についても書いてテーブルの上においておく。


 望とは本当にほんの少ししか一緒に住む事が出来なかったのだが、色々な思い出を残したこの家を離れるのはやはし寂しくて切ない。


 しかも二人は恋人同士なのだからより寂しさが増しているようだ。


 雄介は外に出ると望の家を見上げる。

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