【ー天災ー】29

 未だに悩んでしまっている雄介。


 この事を望に話をしたらきっと楽になるだろう。


 だけどせっかく一緒に暮らし始めたばかりなのに、こんな形で離れ離れになるなんて思ってもみなかった事だ。


 まぁ、そこは仕事上仕方がない事ではあるのだが。


 望は車が停めてある所にまで来るとリモコンでドアを開ける。


 そして望の方も今まで何か考えていたのであろう。


 一旦、雄介の方へと振り向くと、


「お前は一人で帰って来いっ! 俺、これからまだ用事があるから!」


 そう命令口調で言う望。


「……へ?」


 ここまで来といて、ここからまた一人で帰るのか? とでも思ったのであろう。


 そんな望の言葉に裏声を上げる雄介。


「聞こえなかったのか? お前は一人で電車で帰って来いって言ってんだ」


 やはり望は雄介の事で怒っているのかもしれない。 しかも二度も同じ事を言ってきているのだから。


 だが望だって医者という仕事をしているのだから、もしかしたら急に仕事が入ったって事もありえる。 流石にそれでは雄介が病院に付いて行く訳には行かないだろう。


 だけどそれにしたって望は怒っている上に命令口調なのは気になる所だ。


 だが雄介は望にそう言われてしまえば一人で帰るしかない。


 雄介の方は仕方なく望に言われるがまま駐車場を後にするのだ。


 そして雄介が行ってしまった後だろうか望は一人地下駐車場で声が響く中、


「はぁ!? なんでそうなんだよっ!」


 と言いながら車へと乗り込みドアを思いっきり閉めた後にハンドルを叩く望。


 望だって今日という日を楽しみにしていた。


 同じ家に住んでいるのに顔を合わす事の無い日々。


 だけどやっと今日時間が出来て前々から雄介と約束していた日だ。 今だって食事を終えて車で一緒に帰る予定でもあった筈なのに今は自分の隣には雄介の姿はない。


 そうだ雄介が隠し事をしているから自分はあんな事を雄介に言ってしまっていた。


 いやもしかしたら、そうやって突き放すような事をしたらその隠している事を話してくれるかもしれないと思ったのだが、雄介はそのまま望の言葉を受け取り今さっき駐車場を後にした。


「くっそっ!! そんなに俺に話したくない事なのかよっ!」

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