【ー記憶ー】107

 雄介は望の唇から離れると立ち上がる。


 一方、望の方は今の雄介のキスだけでやられてしまったのか肩で荒い呼吸を繰り返していた。


「今のお前とのことはここまでや。 スマンなぁ、俺は別にお前の事嫌いになったって訳やないからな」


 雄介は絶対に望の事を嫌いになった訳ではない。 記憶のない望に対して、これ以上の事はシたくはなかったからだ。 これ以上の事をすれば、記憶のある望を傷付ける事になるかもしれないと思ったからなのかもしれない。


 本当に雄介は望の事が好きだから望とイチャイチャしたいっていう気持ちは十分にある。


 だが今の望は望であって望ではないような気がしているからだ。


 これでは記憶のある望に悪いような気もするとでも思っているのであろう。 雄介という人間はそういう性格の人間なのだから。


 そして雄介がわざと自分の事を望の従兄弟だっていう関係にも理由がある。


 確かに望の側に居たいという理由もあるのだが、親戚という関係にしていれば雄介自身にも記憶の無い望に対して歯止めみたいなのが効くかもしれないと思ったからだ。


 やはり望を抱くのは望の記憶がちゃんと戻ってからにしよう。


 雄介は望にそう言うと逃げるようにして望の部屋を出て行く。


 もう記憶の無い望と一緒にいるのは色々な意味で辛いからと思ったからなのかもしれない。


 暫くは従兄弟のふりでもして望の様子を見ていたかったのだが、もう既に嘘が望にバレてしまい雄介はもう暫くの間は望と一緒に暮らすのを諦めたようだ。


 もうこうなってしまったら後の事は和也に任せるしかないとでも思ったのであろう。

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