【ー記憶ー】83

  未だ話を先に進めようとしない雄介。


 だが、兎に角、今は雄介の気持ちの整理が着くまで和也は雄介の言葉を待つしかない。


 そして雄介は一回生唾を飲み込むと、もう一度和也の腕を握り、


「あんな……望の奴……記憶喪失になったしもうたみたいなんやぁ」

「……はぁ!?」


 確かに望は救急車で病院へと運ばれて来たのだから最低でも大怪我をしているとは思っていたのだが、まさか記憶喪失という事なんて誰が想像した事だろうか。


 そんなに雄介が言葉を詰まらせていた意味がやっと分かったような気がする。 その言葉に和也の方もワンテンポ遅れて返事するのだ。


「それ……マジなのか?」

「ああ……」


 和也にそう言われて雄介は返事と一緒に頭を頷かせる。 和也は今一瞬思考回路停止状態になりそうだったのだが、そこは直ぐに冷静になったのか、


「あぁ、うん、分かった。 そういう事なら、ずっと病院では俺が望の様子見て、それで、随時お前に連絡するようにするからさ、手離してくんねぇか? 俺も行かないとだからな」


 和也はそう言いながら雄介が掴んでいる腕を離し、


「なぁ、お前……ちょ……え? へ? お前って……望の事好きやったんと違うの? 何で、俺にそんな優しくしてくれるん?」

「まったく、お前こそ何言ってんだよ。 この前の話はあくまで脅し、そうでも言わねぇと、お前動いてくれるとは思わなかったからさ」


 その和也の言葉に雄介の方は何が言いたいのかが分かったのか、和也に向かって頭を下げる。


 そしてもう次の瞬間には和也の姿はなかった。 きっと和也は直ぐに望の元に向かったのであろう。


 そして和也は雄介との話を終えると処置室の方に向かった望の元へと向かうのだ。

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