【ー記憶ー】21

 望はちょっと和也に話をしただけあるのかもしれない。 午前中とは違い少しだけではあるのだが、望の表情が少し明るくなったようにも思えるからだ。


 和也もその姿に安堵すると望の後に付いて、また午後の診察の準備を始める。


 午後の診察が始まる直前に望は和也はもう一度、相談を持ち掛け、


「あのさ……やっぱ、伝えるのはメールじゃダメだよな? やっぱり、電話の方がいいかな?」

「ダメに決まってんだろ! 確かに今の時代っていうのはメールで伝えるのは楽なことかもしんねぇけど、やっぱ、本当に自分の気持ちを伝えたいなら、最低でも電話で伝えることをお勧めするよ。 じゃなきゃ、相手に本当の自分の気持ちなんて伝わらないからな」


 和也は望に伝わるように少し大きな声で言うと、望はその和也の気迫に負けたようで、


「分かったよ」


 とボソリと口にする。


 和也の言葉に納得をする望は午後の診察を始めるのだ。


 午前中の時とは違い、いつものように普通に診察をする望の様子を見て和也はホッと胸を撫で下ろす。


 午後の診察までも終わらせると二人の部屋へと戻る。 そしてまた書類を片付け掃除を始めるのだ。


「昼間言っていたこと、絶対に実行しろよ! じゃなかったら、望のことを俺が奪いに行くからな!」

「え? まだ、お前……俺のことを?」

「ああ、当たり前じゃねぇかぁ。 俺には望しか見えてねぇんだしよ!」



和也からしたら今の言葉は本気では言ってない。 そうもう望に手を出そうなんてこと全くもって考えてもいないからだ。 今は二人が幸せになって欲しいと願うキューピット的な存在で見守っていたいと思っているからであろう。


 和也はもう十分過ぎるほど望の性格を知っている。 だから後は望の背中を押して上げれば行動してくれるのは分かっている事だ。

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