【ー友情ー】6
「え? あ、まぁ……普通やと思いますよ」
そうごくごく普通に返す桜井。 そして、
「ああ……ホンマやったんやなぁ。 この前の時はまだ目が覚めてなかったし、良く見えてなかったかもしれへんのやけど、でもな、今、改めて見ても、べっぴんさんっていうのは変わらへんのかもしれへんな。 男性でこんな綺麗な顔立ちしておったら、そりゃ、女性と間違われても仕方がないと思うねんけど」
「そうですかぁ? 貴方にはそういう風に俺が見えているんですね。 では、一度、目の検査も方もしてもてはいかがでしょうか? まぁ、この機会ですし、全体的に検査してみてはいかがですかね?」
ついこの間、雄介にそんな風に言われて今まで忘れていた事だったのだが、今の雄介の言葉で再び望の心に蘇ってしまったのかもしれない。 もう二度と誰にも言われたくない言葉だ。 きっと今の望は心の中で怒りに震えているのであろう。
そして今の望は内心では相当苛立っているのか注射を打つ時には少し力が入ってしまったようだ。
「ちょ! 今のはホンマに痛かったわぁ」
「まぁ、注射は痛いもんですからね!」
そう和かに言っている望なのだが痛くしたのはわざとでもある。 それほど望はその桜井という人物に対して今はムカついているのであろう。
イライラを隠したかったのかそれとも直ぐに他の仕事をしたかったのかは分からないのだが、望は気持ち的に足を踏み鳴らしてまでその後直ぐに桜井の病室を後にする。
この前、桜井に会った時はまだ朝方で患者さんの気配はなかったのだが、回診の時間には病棟の方も賑になってきている。 その中を望は歩く。 すると朝とは違い廊下には患者さんや見舞客が来る時間にもなっていた。
まだ望は桜井が言っている言葉を引きづっているのか表情を強張らせながら廊下を歩く望。
だが、ここは自分が働いている病院で流石にそんな怖い顔をして患者さんや廊下を歩く人達にはそんな表情を見せられないと思ったのか、すれ違う人達には軽く会釈しながら歩くのだ。
どうにかこうにか、さっき雄介に言われた事を気にせずに自分の部屋へと戻って来た望は体を預けるかのように自分の椅子へと腰を下ろす。 それと同時に大きなため息をし天井を見上げるのだ。
久しぶりに仕事上で疲れた様子の望。 いや体力的にではなく今さっきの雄介の事で精神的に疲れてるという感じだ。
再び大きな息を吐くと机の上には仕事が溜まっている事を思い出し色々な意味でもう一度ため息を漏らす。
今さっきの患者さんの事と仕事の事で頭いっぱいになっている望。
その時、和也が桜井の病室から戻って来たようで、
「望……」
と和也が声を掛けてきた。
「なんだよ、和也」
そう面倒くさそうに望の方は答えるのだが、望と和也は同い年という事もあってなのかそれともコンビを組んでいる医者と看護師だからなのかそこは分からないのだが、この二人の時は名前で呼び合っている仲でもある。
「なーんだ? そのだるそうな返事の仕方はさ、俺だってさ、望と同じ部屋なんだから、来たっておかしくねぇだろ?」
そうここの病院ではコンビの医者と看護師は同じ部屋で仕事等をする事になっている。
だからなのか仲良くなる感じがまたいいところなのかもしれない。 なんでも言いたい事は言える、仲良くなれば医者や看護師という壁みたいなのがなくなるのだからもっともっと仕事的にも人間関係的にも本当にいいところなのであろう。
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