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三日後、既にアリシアは三属性の魔法を発動するところまでこぎ着けることに成功していた。
今では攻撃魔法を学ぶために、俺とは教わる場所が異なっており、彼女はギルドの訓練場で実際に攻撃魔法を使うための訓練をしていた。
基本的な攻撃魔法は取得できたということなので、本当なら今すぐ魔法使いとして依頼をこなしにいけるはずだ。
けれどアリシアはどうやら俺のことを待ってくれていたようで、ヴェネッティ先生から追加で魔法のイロハを教えてもらいながら、魔法の特訓を続けてくれていた。
『折角の同門ですし、一緒に卒業したいなぁと思いまして。私事情があって学園には通えなかったので……勝手ながらハジメさんのこと、同級生みたいに思っていまして……ダメだったでしょうか?』
ダメなわけがないので『そんなことない!』と俺が全力で否定すると、アリシアは笑いながらありがとうございますとお礼を言ってくれた。
最初は打算的に近付こうとしていたけれど、なんやかんや今では同門というか、同じ目的意識を持った仲間……みたいな感じに思っている。
アリシアの方も色々と事情があるらしいのはなんとなくわかるんだが、さすがに俺から聞くのは失礼だ。
いつかは俺に悩み相談をしてくれるくらい、親しくなれたらって思う。
ちなみにヴェネッティ先生の方も、当初言っていた一週間という期間をオーバーしているにもかかわらず、未だ冒険者ギルドに留まってくれていた。
『生徒達の面倒は最後まで見るのが、王立魔法協会の協会員としてのお仕事ですわぁ! おーっほっほっほっ!』
ヴェネッティ先生は相変わらずすごい縦ロールで、その高笑いは高飛車な悪役令嬢みたいだったけれど、見た目っていうのは本当にあてにならない。
ヴェネッティ先生は、やっぱりとっても優しい人だと思う。
二人ともお人好しというかなんというか……俺は二人に会って、異世界もそう捨てたもんじゃないなと思えるようになった。
捨てる神あれば拾う神あり。
だとしたらアリシアもヴェネッティ先生も、二人とも女神様ってわけだな。
――なんて、ちょっとキザすぎか?
「さて、それでは次が最終段階である魔法の創成へと入らせていただきます」
俺もとうとう、アリシアと同じくギルドに併設されている訓練場へやって来ることができた。
やっぱり才能がないと、才能持ちに追いつくのは大変だ。
アリシアと俺の開きかけては縮む差を見ているとつくづくとそう感じるが、俺はめげないぞ。
魔法の創成のプロセスは、前二つと比べれば簡単らしい。
今まではゼロから自分のイメージで組み上げなければならなかった部分を、この三つ目のプロセスにおいては見てそれを模倣すればいいからだ、とヴェネッティ先生は続ける。
要は放出と属性変換をしてから、見よう見まねでやれば使えるようになるってことらしい。
「例えばこれをごらんになってください――ウィンドショット!」
ヴェネッティ先生が打ち出したのは風の弾丸だ。
その大きさはだいたい拳大くらい。
速度は高校の頃の体育の授業で、アーチェリー部のやつが和弓で打っていた弓矢くらいだった。
速いのか遅いのかは、比較対象がないからよくわからない。
けれど少なくとも俺にこれを打ち込めたら、まともに回避できないくらいのスピードではあると思う。
ウィンドショットは俺達が立っている場所から結構遠くにまで飛んでいく。
魔法は重力とかの影響を受けないから、不自然に見えるほど真っ直ぐに進んでいき――バスン!
目測で5メートルはあるかというほどの距離にあった木板の中心部、赤い塗料で塗られているところを見事に打ち抜いた。
かなり正確なコントロールだ。
あれなら魔物や盗賊の頭部を打ち抜くことだって簡単だろう。
歩いて行って木板の厚みを確認する。
そんなに厚くはないけど、指先で叩くと結構しっかりとした感触が返ってくるくらいに硬かった。
銃とまではいかないけど、結構貫通力なんかもありそうな感じだ。
「やり方は簡単ですわ。私がウィンドショットを使ったように、やってみるだけで大丈夫です」
まずは言われた通りにやってみることにした。
今までは言われてもその日のうちに完成させることはできず、家で復習をしてなんとかマスターしてきたけど、今回は違った。
ヴェネッティ先生の言う通り、見よう見まねで使えば魔法がちゃんと出たのだ。
俺はまずウィンドショットを習得してから、追加で受講料を上乗せしていくつもの魔法を教えてもらうことにした。
俺の場合、六属性全てに適性があるので、教えてもらう魔法の数はかなり多かった。
合わせて二十以上の魔法を覚えることに成功する。
見よう見まねなだけでは成功しなかったものもいくつかあったので、習得できる魔法の数は今後更に増えていくことになるだろう。
ちなみにアリシアは、既に中級魔法のスキルを三属性分手に入ったらしい。
俺には初級魔法のスキルが、六属性分生えてきた。
同じ属性を使い続けて習熟していけば、いずれはこれが中級・上級・超級へと上がっていくとヴェネッティ先生は言う。
俺にはアリシアみたく才能の補正があるわけではないから、すぐに中級魔法が使えるようにはならないとは思う。
けど焦らず、ゆっくりじっくり努力をしていこう。
そうすればきっと、できるようになるはずだから。
「おめでとうございます、ハジメさん」
アリシア、パチパチと拍手。
その様子がひまわりの種を砕いて食べるリスや、貝殻を石で割るラッコに似ていて、俺氏ほっこり。
「ありがとう、アリシア。……ていうかアリシアはさっさと依頼をこなしに行かなくてよかったのか?」
「はい、せっかくできた同門の徒ですし、最初くらいは同じペースで歩んでいきたいなと思って」
「そっか。アリシアに追いつくまでにはまだまだ時間がかかりそうだけど、俺なりに頑張ってみるよ」
「はい、私達同じヴェネッティ流ですもんね。お互い高め合いながら、一緒に頑張っていきましょう」
アリシアは顔を上げて、ジッと俺のことを見つめている。
合ったばかりの頃はキョドリまくり、ずっと俯いていたアリシアも、今ではすっかり顔を突き合わせて話のできる仲になった。
最初の頃が嘘みたいだ。
もう友達、って言ってもいいんじゃないかな。
もし俺が誘ったら……アリシアは俺とパーティーを組んでくれるだろうか。
仲間意識もあるし、できれば今後も一緒に居れればいいな。
下手に新しい知り合いを増やしていくより、気心知れた仲間と居た方が気も楽っていうのもある。
ちなみに『ヴェネッティ流ってなんだ?』と不思議に思っていると、どうやら魔法というものが使えるようになるまでの教え方っていうのは結構人によって違いがあるらしい。
人によっては魔法を六属性ではなく系統別に分類していたり、魔力知覚をさせるために身体から無理矢理魔力を引き出させるマジックアイテムを使ったりする人もいるらしい。
そ、そう考えるとヴェネッティさんに出会えたのはすごく幸運だったな。
ヴェネッティ流……うん、そういうことなら今日から俺も、ヴェネッティ流を名乗ろうかな。
「二人とも、よく頑張りましたね。市井にいる人材でアリシアさんほどの天才を見たのは初めてですし、私はハジメさんほどしっかりと反復練習を繰り返してくれる人を見たのも初めてです。二人を私の教え子に持てたことは、私の誇りです。――あなた達はきっと、素敵な魔法使いになれます」
ヴェ、ヴェネッティ先生……!
俺も、俺も先生と出会えて良かったです!
俺達はひしっと抱き合って、別れのハグをした。
日本の風習に慣れている俺からすると少し恥ずかしいけど、この機会を逃せば先生に二度と会えなくなるかもと思うと、やらなくちゃと思ったんだ。
今回の授業で、ヴェネッティ先生の初級魔法講座入門編は終了になる。
彼女はこのまま、新たな魔法使いを育成するために別天地へと飛び出していくらしい。
相変わらず見た目や言葉遣いに反して、物凄いバイタリティを持っている人だ。
聞けばヴェネッティ先生は、本来王立魔法協会が想定しているところよりもずっと辺境のへ行くことも多いらしい。
『私が行かねば、他の誰が行くというのですか!』と豪語する先生は、基本的に給金と補助金だけをもらい、足が出しながら行脚のようなことをしているらしい。
俺にも何かできないだろうか。
少し考えた結果、さして悩みもせず、彼女に餞別とお礼として金貨1枚を渡すことにした。
「こんなもの、受け取れるはずが――ああちょっと、そこはやめてくださいまし!」
先生は頑なに受け取ろうとしなかったから、縦ロールの中に無理矢理入れたら、渋々受け取ってくれた。
これで残る金額は、金貨三枚ちょっとになってしまったけれど……後悔はない。
俺はあのお金を使って、ヴェネッティ先生の新天地での活動が上手くいってくれればと思ってやまない。
実はこの後、ヴェネッティ先生は俺からもらった金を使って辺境も辺境の王国最果ての地まで行き、物凄い天才を拾い上げることになるんだけど……それはまた、別のお話。
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