異世界に転移したけど、どうやら俺には才能がないようです ~非才と見切られた少年は、努力を頼りに生きていく。そして努力はいつだって、彼を裏切らない~
しんこせい
プロローグ
俺――神崎かんざき肇はじめは生まれつき要領の悪い人間だった。
小学校の頃、みんなと同じゲームをやっても、俺がそれをクリアできるのは決まって最後だった。
夏休みの宿題をやるのも、人よりずっと時間がかかっていた。
「なんでそんなこともできないんだよ」
クラスメイトからそう言われるのが嫌だったから、ゲームはすぐにやらなくなってしまった。
けれどやめたいと思っても、この日本で義務教育を受けているからには、勉強の二文字から逃れることはできない。
この俺の、生まれつき情報処理速度が高くはない頭。
こいつと付き合っていく方法を、中学生の頃から真剣に考えるようになった。
みんなは俺よりも簡単に計算問題が解けて、俺よりも早く歴史の年号を暗記する。
そんな奴らに追いつくにはどうすればいいか。
答えは簡単だった。
――人よりも、努力をすればいいのだ。
俺はみんなが遊んでいる時間も、勉強をするようになった。
みんなが流行のゲームをやっている間に、応用問題の入った問題集を終わらせる。
みんなが人気のバズっている動画を見ている数分の間に、年号の語呂合わせを一つ覚える。
結果として、俺は気付けばみんなよりもテストの点数や偏差値が高くなっていた。
クラスメイトは俺のことを、天才だと言うようになった。
だから俺は、彼らに対してこう答えるようにしていた。
「人よりも量をやっているだけだから。みんなももっと勉強すれば、俺なんか簡単に追い越せるって」
高校進学にあたり、都内でも有数の進学校に無事に合格することに成功した。
そこで俺は、更に壁にぶち当たることになる。
――世の中には、俺よりも地頭がよく、俺と同じくらいの努力をする人間というのが存在していたのだ。
そんなやつらを相手に、俺は必死になって戦い続けた。
置いていかれてしまわないように。
もちろん全体で見れば上澄みだが、それでも成績は上の下止まりだった。
結果大学受験をして受かったのは、滑り止めの私立だけだった。
「浪人か、進学か……」
俺は初めて、人生の岐路に立たされた。
うちは決して裕福な家庭じゃないから、浪人するのならせめて生活費くらいは自分で出しておきたいところだ。
となると週に3日くらいバイトをして、予備校代を稼がなくてはならない。
週に7日みっちり勉強をして受からなかったのに、バイトをしながら合格することなんてできるのか。
もちろん不安はあった。
けれど俺は、浪人することにした。
俺には、人生のモットーというか、座右の銘というやつがある。
『二つの選択肢があるのなら、キツい方を選べ』
これは怠けたがりでサボりたがりな俺が、ちゃんとした結果を出せる唯一の方法論だ。
人より要領の悪い俺は、他の人が選ばないようなキツい方を選ばない限り、人より結果を出すことはできないのだ。
「行ってきます」
卒業式を終え、俺の肩書きは現役高校生ではなく一浪生になった。
今日は初めての予備校の日。
気合いを入れて臨まねば。
背中には大量の参考書を、そして手には歩きながら読める英単語帳を持って、出発の準備は万端だ。
俺の声に応える人はいない。
うちは父さんが単身赴任をしていて、母さんもOLとして働いている。
一人っ子の俺は、小さい頃から今の今まで、ずっと鍵っ子だ。
さて、今日から心機一転頑張るぞ。
心持ちを新たにし、少しキツくなったスニーカーを強引に履いてから、ドアを開いて歩き出す。
そして俺は、光に包まれた――。
「お待ちしておりましたぞ、勇者殿!」
「……え?」
ドアを開いた先にあったのは、いつもの廊下……ではなく。
見たこともない真っ赤な絨毯と、両脇に並ぶ大量の甲冑。
そして両腕を広げてこちらを見つめている、冠を被った小柄な男だった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます