09 前編06:蒼き先駆者と赤き勝利の鐘②
『どうするつもり!?』
『全員で『
『はぁ!?』
『なるほど。2手に別れ、双方の反発力によって片側を地球の重力から脱出させるつもりか』
『つもりか、ってアレクサンドリア、メチャクチャ危険じゃない!』
『そうだよ! 一つ間違えば大怪我じゃあ済まないよ!?』
『大丈夫じゃ。各自最大出力の20パーセント程度に収めれば、どちらも大したことにはならん。大体からして下手に全力で撃ち合えば、片方を宇宙にまで吹き飛ばしかねんぞ』
危険性を呈するブルガリアとボルドーに対して、アレクサンドリアが冷徹に返した。
『ゲッ! そっちの方が危ないじゃん!?』
『大丈夫だよ。20パーセントなら、ほとんど通常の出力と変わらないからね。ボクは特に何も考えずに撃てば良いかな』
『俺も。逆にアレクサンドリアやヴァージニアは、意識して抑えないと』
『そうね。気をつけるわ』
『うわ~……、もう皆ヤル気になってるし』
『誰かさんが大雑把なコトしなけりゃあ、問題無いよ』
『誰のこと言ってンの、ボルドー!? やってやろうじゃあないの!』
正に売り言葉に買い言葉の様相だが、全員の意見が一致したことに変わりはない。
『よし。では、次に誰が
『そうじゃの。となると、ワシは辞退するしかないな。高度維持には自信が無い。居残り組とさせてもらおう』
『アレクサンドリアとガナハ、そしてヴァージニアが行くべき』
アズハが強い口調で主張する。いつも物静か、というより無口な彼女にしては珍しかった。
『いいの? アズハ?』
『ん』
ヴァージニアの確認にも、アズハの返答に迷いは無い様子であった。更に、キールも即座に支持を表明する。
『アズハの案に賛成する。戦力的なバランスもとれておるからの』
『そうだね。俺も賛成だ』
『気をつけてね。無事に帰って来てよ!』
『ありがとう。アズハ、キール、ボルドー、ブルガリア』
『では妾とガナハ、ヴァージニアが突撃組。その他を居残り組とさせてもらおう。それぞれ横に並び、合図と共に『
『うむ』
『了解!』
『ん』
『やったるわよ!』
『任せて!』
『よろしくね!』
それぞれが位置に着いたところで、アレクサンドリアが号令を発する。
『よし。では行くぞ! 3、2、1、『
同時に、両者の間に眩い光が発生した。
◇ ◇ ◇
黒いヘドロの集合体のような敵の強さは、身体的な能力だけで考えるならばつい先ほどまで戦っていた魔族と同程度といったところだ。
普通に考えれば、龍族以外がマトモに張り合うのは困難極まる筈である。が、今のハークにとっては、少しも恐ろしさを感じる相手ではなかった。所謂、ものの数ではないといったところだ。
障壁内に侵入した狼型の黒い化物と相対していた虎丸も、速度から力、全てのスペックで敵の能力を大幅に上回っている。圧倒して然るべきであった。
にもかかわらず、決めきれない。
無論、虎丸は手加減しているのではない。本気の本気、とまでは言えないが、少なくとも遊びではなかった。その証拠に、先程から何度も首をひねっている。
「このっ!」
追い払う平手打ちがようやく敵にクリーンヒットして、相手を吹き飛ばした。しかし、形成が終わった次の集合体が、後ろから虎丸に襲いかかる。
とっくに気づいていた虎丸は難無く初撃を躱した、かのように視えたが、大蛇型の敵がその肉体構造を活かして白い少女に取りつき、絡みついた。
「あ、アレ……?」
胴体と両腕を絞めつけられ、身体の自由を奪われた形であった。
しかし、虎丸の表情には焦りも恐怖も表れない。
当然である。痛くも痒くもないのだから。ただ戸惑いだけがあった。
「ご、ご主人、オイラなんか変ッスか!?」
遂に我慢できなくなった虎丸が、大蛇に上半身を縛りつけられた体勢のまま、主に助言を求めた。
「ああ! 動きが変だ!」
「そーなんッスよ! 何か、思うように動けないッス!」
速度でも力でも、耐久力でも持久力でも全てにおいて勝っているのに上手く身体が動かない。そのせいで攻撃が届かないし、倒し切れない。力も乗らない。
イメージ通りに動かないのである。原因の分からない虎丸であったが、答えは簡単だった。
「当然だよ、虎丸! お主は今まで人間の姿、人間の骨格で戦ったことはないじゃあないか!」
「……あ!」
答えは、原因は実に単純明快だった。
虎丸はつい数分前まで、四ツ足の獣型でしか戦ったことが無かったのだ。二足歩行の人型とは根本的に動き方、ひいては攻撃の仕方が全く違うのは周知の事実である。
如何に能力が人知を超えたとて、致し方ないと言えよう。
「仕方が無い! 虎丸、儂らのことは気にするな! 『
「了解ッスゥ! 『
ゴッバーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!
爆裂が起こる。一瞬にして全てを吹き飛ばす爆裂が。
もはや虎丸も、ハークと同様に力と意思を籠めて叫ぶだけで巨大な破壊を引き起こせるようになっていた。
激烈な衝撃波が全てを吹き飛ばす。当然、虎丸に絡みついていた黒い大蛇型の化物も粉々になって分散していった。
ただし、『
ハークはその全てを極小に抑えた。波を分散させ、また一つ分散させ、互いにぶつけ合わせるベクトルを加えて打ち消していく。結果だけなら虎丸の方が手順少なく行えるが、さすがに全く同時にという訳にはいかない。
虎丸の『
だが、2体とも、彼女の目前でまたも同じ形状に集まっていく。
「むむ?」
「奴らは米粒よりもずっと小さい存在が寄り集まって形を成しているだけだ。物理的な破壊力だけでは、ほとんど意味を成さないぜ。だからよ……」
そう言ってヴォルレウスは拳を握る。彼の頭上から、虎丸の障壁内で新しく形成の終わった化物2体が降り注ぐように迫っていた。構えを取った彼は迎撃のため飛び上がると同時に拳を引き絞る。
次いで、その拳を光の球が包み込んでいた。
「綺麗さっぱり灼いて、焼却してやらんとなァ! 『シャーーーーーーーーーーイニング・ナァーーックル』!!」
眩い光球をまとった拳が貫くと、化物は結合を文字通り灼かれて解かれたかのように分散し、それぞれ燃え尽きていった。
「ほう!」
感心の声を上げるハークの頭上からも、結合の終わった2体の黒い化物が迫りつつあった。
それらを見上げて視界に収めると同時に、彼の中で新しい技のイメージができあがる。
後は顕現させるだけであった。
「奥義・『
螺旋の動きでくるりと一回転しながらの光を携えた『天青の太刀』での斬り上げは、上から見れば今までの大日輪と全く同じ、美しい真円を確かに描いた。
しかしながら、黄金色の光を伴った剣閃は横からであると、不動明王が右手に持つ知恵の利剣の如くに、ハークという剣を形作る俱利伽羅竜王の姿を模すかのようでもある。
そして輝く竜の軌跡は、不浄なる全てを消滅せしめるのだ。
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