第3話 会合

 「ほれ」


 軽く渡されたのは、果たし状。場所は…市民ホール?なんだこれ?


 「そう不思議そうな顔をするな…その名前見覚えないのか?」


 三浦義明…?そもそも、果たし状が匿名じゃないことが多い中で名前付きで送ってくるのが異常だからおんなじ様なケースがあったら覚えてる筈なんだけど。


 「まっさか、知らんのか?それ会長さんだよ、会長さん」


会長さん?


 「そっか…お前、今まで全部お師匠さんに丸投げしてたか…そりゃ知らんわな」


 「どういうことだ?」


 時刻は16時。奏さんといつも通りちょっと勝負した後、一休みした後、2駅離れたデニーズに来るようにこの男から携帯にメッセージが送られてきた。名前はタケ。眼鏡をかけた同い年ぐらいのすらっとした男。


 「まぁ、とにかく、さっきも言った通り果たし状が会長から直々に届いたってことよ」


 「会長が俺に…?」


 「まぁ、勘違いすんなよ、これはどう見ても勝負のお誘いじゃねぇ、会合への招待状だよ」


 「あぁ、会合…ってなんで?」


 「そんなん俺に聞くなよ、知ってるわけねぇだろ」


 会合というものが存在しているのは分かっていた。奏さんは定期的に、それに行ってくるといって、仕事の手伝いを無しにしてきたからだ。今まで一回も行ったことないし、何を話してるのか、奏さんは語らないからよくわからない。


 で…なんで俺が…?


 「まぁ、お前…組織の事全然しらねぇし、心当たりが無くても無理ねぇわな…俺はなんとなく分かるけどな…」


 「はぁ?なんだよ、はっきり言ってくれ」


 「いんやぁ…でも、俺自体お前のそれのおかげで今、こうして首と胴体が繋がってるわけだからな、まぁいきゃぁ分かること」


「はぁ…?」


 会長って修羅之会の会長さんか?いやぁ…そもそも、会の色々は全部奏さんに任せっぱなしだったからな。それが俺になんの用だ…?


 ていうか、会合ってことは奏さんも行くってことか。行く?行くのかな?う~む…そうなると、奏さんと一緒に行くってことか。


 まぁ、帰って聞いてみれば良いか。


 「あんがと、じゃあ、この飯食ったらすぐ帰るわ」


 ~それからハンバーグとライスを平らげ、会計を済まし自転車で奏さんのもとへ向かう。


 「奏さん?果たし状が来てるんだけ…ど」


 ?奏さんは何か、真剣な面持ちで紙のようなものを見ている。郵便物か?


 「あの奏さん?」

 

 「ふぅ…なるほど…君に招待状が届いてる」


 「招待状って…会合ですか?」


 「ん?会合?いや、その件は知らないな、立会人、立会人のことよ、で、会合が何?」


 「会長さんらしい人から果たし状が届いてるんですけど…これって」


 果たし状を奏さんに手渡すと、彼女はふむふむと暫くの間見つめた。…顔が少し険しくなる…。


 「…はぁ…なるほどね…余計なお世話だっつうの…」


 改まった感じでこちらの目を見て、ピッと紙を手渡してくる。


 「立会人の依頼状、期日は会合の前日、はぁ…ごめん、多分私のせい」


 「どういうことですか?」


 「その立会人の依頼状も会長からの会合への招待も、多分会長の意思、つまり会長直々のご指名、その意図は…まぁ…本人から聞かないと分からないけど多分独り立ちさせたいんだね」


 「独り立ちですか…?でも、ちゃんと一人暮らししてるし…えっと…」


 「うん…組織内の話だね…まぁ、私の口から聞くより本人が説明したほうが分かりやすいだろうから…会合で直接言われるのを待って…」


 独り立ち…?一体、何からの独り立ちって…?奏さん…?良くわからないけど…もう一人立ちしてるんじゃ…?


 「まぁ、会合は私も行くし、そんな不安に思わなくていいよ」


 「はぁ…分かりました………うん…?そうえば、どうしてこの立会人の依頼状が会長の意思なんですか…?」


 「う~ん…ちょっと説明があれなんだけど…まぁ、取り敢えず分かりやすい所から言うと…その相手、茨木…絶対に相手を殺すことで有名なんだよ、でそれが何で見ず知らずの許に依頼状を送って来るか…ってこと」


 絶対に相手を殺す…。


 少しだけ額に力が入る。


 「なるほど……いや、有名なのかも…」


 「確かに生かすってことで有名かもね…で、それがどうして依頼状を送るか…理由があんまり無い、そしてその会合の招待状…まぁあのお節介が考えそうなことよ」


はぁ…なるほど…?


そこまで聞いて、受け取った依頼状を見る。


立会人願い

~長い儀礼的挨拶~


是非とも許様にこの度の真剣勝負において立会人をしていただきたく思います。真剣勝負の日時及び場所は以下の通りです


日時、2023/10/05/22:00  場所、船橋市立南小学校体育館


茨木


対戦相手が分からない。それに小学校…?珍しい対戦場所だ。戦いの場所として選ぶのは大体、観光地とかそういう特別な思い出の場所が多い…死ぬかもしれないからな。まぁ、人目が無い事が大前提なんだけど。そういえば、こないだの勝負はちっちゃな公園だったな…。


 「奏さん、立会人って会が車出してくれるんでしたっけ?」


 「あぁ、遺体処理にいるからね、ある程度以上離れてたら勝負行くときみたいに乗っけてくれるよ」

  

 立会人ものっけてってくれるんだ。じゃあ、この船橋市立南小学校の場所も行き方も調べなくていいんだな。


 今日が9/25だから…えっと、1...2... あぁ、10日後だ!まだまだ、余裕があるなぁ。


 「分かりました奏さん、立会人ですね!行ってきます!」


 「うん、行ってあげてね…」


 会話を終え、2階に行き奏さんの仕事を手伝う。今日もいつもと変わらない日常だ。2階の窓の外に見える木には時々鳥が止まって歌う。それを見ていると、なんていうか奇跡を感じる。


 茨木…。絶対に相手を殺す剣士。なぜ、絶対に殺すのか。殺すこと自体は否定しないが、「絶対に」殺すという必要性があるのか。


 命を感じる瞬間は極端に少ない。みんな、それぞれ生命活動をしてて、それは等しく同じだ。で、命とは価値を持たないようにみえる。だけど、あの鳥も、そして俺も、等しく何代にも渡って命をつないできたからこそ存在している。生き物が誕生してから一度も断絶せずに俺につながった。だからこそ、それは奇跡だ。何年も前、人が猿だった時代より前、まだ生き物が脳みそを持ってなかったころからの奇跡の連続。それが俺であり、あの鳥なんだろ。


 …あの鳥、変な歌い方だな。シジュウカラか?昔奏さんが公園に連れてってくれた時に初めて名前を知った鳥だ。


 命を奪うことは…だから、なんていうか、抵抗がある。殺す必要が無ければ殺すことは無い。そして、殺す必要のある命なんて…あるだろうか…。殺すよりも話すほうが好きだ。


 「…許、立会人だからね、勝負…止めるんじゃないよ」


 止める…。止める…。そんなこと、できない。


 「分かってます」


 なんで、こんなことを考える?まだ殺人を見るのに少しためらいがあるのか?今までさんざん見て来て…今更苦手も何もないだろ。ただ、俺は…自分の手で命を奪うのは…。


 奇跡…。なんで、そもそもそれを奇跡だなんて思うようになったんだっけ?奏さん…?そんなこという様な人…ではあるな。でも、言われた記憶なんて無い。奇跡…。奇跡ねぇ。


 …

 

 「あ!よし、まぁこんなでしょ!今日はもう終わり、そっちも終わった?」


 丁度、領収書の整理が終わった。こういうのは定期的にやらないといけないらしい。知らないけど。


 「はい、終わりました!」


 デスクトップの右下を見る。今は、18:57分。


 あ…もう、外が暗い。鳥なんてもう止まってない。


 「よぉし、じゃあ今日はもう遅いし、夕飯食べていきな、今日は…確かたまねぎと…鶏肉とかあるから…よっし、オムレツつくってあげる」


 「おぉ!!」


 「あ、ちょっと待ってそうえば…」


 奏さんが懐に置いてある手掛けから封筒を出し、それをこちらに手渡す。


 「ん、これ会の支給費」


 「わぁ!」


 すぐに封筒を斜めにして、手の上に札束を滑らせる。


 …1,2,3,…40枚


 「今月もちゃんとあります!」


 「うんうん、それなら良しだ、さて、それしまって下行くよ、米炊いて」


 ~


 10月5日


 「奏さん、車っていつ来るんですか?」


 「んー?さぁね、時間的にそろそろじゃない」


 今日も今日とて夕ご飯を作ってもらい、それを食べた。帰るのもあれなので、奏さんの仕事場で迎えを待つ。


 今は20時だ。


 「ん」


 奏さんが小さく動く。その少し後に、車のタイヤの音が近づいてきた。


 「来たね…」


 その音は玄関の前まで近づき止まった。


 呼び鈴が鳴らされる。


 「おし、じゃあ行ってきます!」


 刀袋をつかみ、玄関に歩いていく。


 玄関のすりガラスには中の光に照らされて少しぼぉっとした黒い人影が2つ並んでいる。


 …


 「会の者です、お迎えに上がりに来ました」


 黒いネクタイ黒スーツで白手袋の男と、白シャツの上にジャンパーを羽織った男。敵意は無い。間違いない。会だろう。


 後ろには黒い大型バンが見える。


 「さぁ、どうぞ、お乗りください」


 そういって、バンの後ろ側が開かれる。


 そこには既に一人座っていた。


 膝に刀袋を挟み、紺のパーカーのフードを目深に被って、シートに深くもたれかかっている。


 あいつが…茨木か。直感的にそう感じる。もう一人のほうだとしても、対戦相手は殆ど殺してきてるだろう。殺しにこだわりがある人間は独特な雰囲気を放つ。遠くから見てもなんだか分かるぐらいに独特な。


 あんまり気が合わなそうだな。


 少し肌寒い。フリースを羽織ってバンに乗り込んだ。


 


 

 


 

 

 


 

 

 


 


 


 


 


 


 

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