第5話 俺の癒しは妹とのスキンシップだ



「じゃあ、また」


「う、うん。また…ね」


 屋上での出来事の後、俺たちは、一応“恋人”として一緒に帰宅くしていた。といっても、手を繋いだりするわけでもなく、沈黙の多い時間が続いた。

 春川の家はどうやら俺の家と同じ方向にあるらしい。俺は美久を迎えに行くため、家に続く道のかなり手前にある分かれ道で春川と別れた。

 ここから美久の中学までは徒歩で十分ほどだ。

 俺としては、別に、春川を美久に紹介するのも良いかと一瞬考えたが、美久に余計な詮索をされない様にするためにも止めた方がいいという結論に至った。

 美久についてだが、流石に日中まで俺が美久を守れるわけではないため、そこは遥輝に頼んで、遥輝の弟の勇斗に見てもらうよう頼んである。美久は知らないが。

 言っとくが、勇斗は中一にして彼女持ちだ。美久とそういう関係になることはない。

 そして、遥輝の弟も勇斗も、イケメンだ。兄弟揃ってイケメンとは全くもってうらやましい限りだ。

 俺と美久とでは、圧倒的に顔面偏差値が違く、美久と見比べると、当たり前だが俺が見劣りする。

 しかし、どういうわけか美久や遥輝、勇斗、もう一人の幼馴染みは昔から俺の顔は十分カッコいいと言ってくる。

 そりゃ、遥輝と勇斗に比べれば、俺がどんなにカッコよかろうと、せいぜい『“十分”カッコいい』がイイトコだろう。

 空を見れば、美しい夕焼けが広がっている。中学生の頃、同じような夕焼けを見て、それを写真に撮って、当時小学生だった美久と二人で絵を描いて両親に見せて褒められた記憶がある。

 美久は美術部に入っているが、その思い出のせいか、コンクールに出す作品の多くが夕日などをテーマとしたものになっている。

 そろそろ校門が見えてきた。

 俺は校門前で美久のことを待つ。最初こそジロジロと下校し始める生徒の

視線を浴びたものだが、もう「あ、いつもの人だ」みたいな視線を向けられるようになっていた。

 少しして、美久ではないが、知っている人影を見つける。


「美久さん、今日も何もありませんでしたよ」


「ありがとう」


「いえ」


 遥輝の弟の勇斗だ。毎回、すれ違う瞬間に美久の一日について簡単に教えてくれる。

 会話文だけ見れば真面目そうだが、実のところは兄の遥輝よりも天然で、わんぱくである。

 ふつう、兄が天然とか落ち着きのない奴だったら、その弟は物静かなタイプになるんじゃないか?

 と、


「拓人さん!」


「おかえり、美久」


「はい!ただいま帰りました!」


可愛い。

 まだ生徒がいる前では、俺と美久は『恋人』という関係で会話している。男子からの嫉妬と羨望の眼が集まるがどうでもいい。

 美久にこの設定を持ちかけた時は、


「何でお兄ちゃんと兄妹じゃない設定なの!」


と、少し怒られたが、


「でも俺と恋人になれるんだぞ。嬉しくないのか?俺はそう言われて少し悲しいぞ」


と返すと、


「あ、ごめんお兄ちゃん……お兄ちゃんと恋人になるのは嫌じゃないけど、お兄ちゃんとの関係が変わっちゃう気がしてヤだったの」


と、泣きそうな感じで承諾してもらえた。少し卑怯な手で、美久を泣かせてしまったが、全て、美久を守るためである。

 俺たちは男子生徒のいる目の前で堂々と手を恋人繋ぎの形にして、帰路につく。

 最初は、美久のような可愛い女の子と恋人繋ぎなんて流石に恥ずかしかったが、美久が上目遣いで訴えてくるので、仕方なくそれを続けていくうちに、慣れてきた。

 男子生徒が周りに居なくなったことを確認して、美久に話しかける。


「なあ美久、ん?」


口を手で塞がれた。


「まだダ~メ。家の外にいる時は『恋人』、なんだから」


「そうか」


家に着き、扉を開けて中に入る。


「ただいまー!」


「ああ、ただいま。おかえり美久」


「ん」


「ん?あ、“いつもの”か。はい、良いぞ」


そう言うなり、美久が俺に飛び付いてくる。


「は~。恋人のお兄ちゃんもいいけど、やっぱり普段のお兄ちゃんが良い!」


 中学三年生にしては女性らしさに富んだ身体が俺の体に密着してくるが、妹に抱きつかれて変に動揺する兄はほとんどいないだろう。

 美久によれば『お兄ちゃん成分』なるものを俺とのスキンシップで補充しているらしい。

 俺は抱きつかれた場合どうするかというと、腕を広げ、美久の背中に軽く手を回し、力を入れすぎない程度で抱き締め返す。

 そうすることで、俺は『美久成分』を補充している。 


「そろそろ夕飯作るか」


「そうだね」


 基本的に食事は美久と二人で作っている。俺は美久の手伝いをしているだけだが。

 何故“二人で”なのかというと、俺たちの両親は俺が中学三年の最後に、交通事故で亡くなってしまったからだ。

 俺が入る予定だった私立の進学校は学費が高く、両親を失い、その先が全く見通せなかった俺は、両親のかけていた保険金では三年間通う事が出来ないと悟り、遥輝と同じ公立高校に通うことを決めた。

 両親の話が出てきたから言うが、俺と美久は実の兄妹ではない。父親の方が美久の実親だった。美久が美久の実の母親からネグレクトや虐待を受けていたようで、それで父親の方に親権が移ったらしい。

 この事は当然、美久も知っている。

 本人はあまり気にしてないようだった。


「お兄ちゃんと会えたから良いの!」


なんて言ってる。兄として、冥利に尽きるってものだ。


「お兄ちゃん、こっちも切ってちょうだい」


「分かった」


 美久の女子力はずば抜けているため、本当に俺がしていることはほぼ無い。









 夕食を終えた俺たちは、リビングで美久の好きなテレビ番組を見ていた。

 美久の体を俺の足の間に挟んで、という形である。俺の両手を美久の胸の前で美久の手と重ねている。


 テレビ番組を見て笑顔の自慢の妹の横顔を見て思う。



ああ、やっぱり、美久は俺の癒しだな


と。

 

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 おかげさまで、pvが300まで伸びました❗️応援、ありがとうございます!

 ランキングも、僅か一週間足らずで、12月6日の時点で219位まで上がりました。通知を朝に見たときは、開いた口が塞がらなかったです!

 この話の内容でしたが、本編を進めすぎると、他のキャラの話が薄くなりそうだったので、大事かな?と思う美久との日常を書いてみました。

 どうでしょうか?自分的には、二人の微笑ましい兄妹の関係を上手く表せたんじゃないかなと思います。


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できればよろしくお願いします!

 引き続き、楽しんでもらえるようなストーリーを書いていきます!!

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