自己満足な短編集
赤沢アカ
短編一 『僕だけの彼女』
タイトル「僕だけの彼女」
その男は骨董品のような人間だった。
彼の自室は、どこから手に入れてきたのか、数十年前に刊行されたアニメ誌や映画誌ばかりで溢れ、その隅に置かれた、壊れかけのレコードからは、かすかに聴覚を刺激する「キーッ」という音に滲んだ、ヒッピー調のロックが流れている。
ソイツは、この二十一世紀という半近未来的な時代に、レザージャケットなんていう、剥げかけたペンキの如く、粗末で黒々しい赤黄色に包まれた古道具を飄々とした顔つきで着こなすのが、生涯の唯一の取り柄で(実際は、あまり似合っていない。)、口を開けば、「最近の若者は、ああだらこうたら。」と偏見一色に染まった口弁を自信ありげにのたまう。
彼自身も、まだ二十代であるし、「どの口からそんなセリフが出てくるんだ。」と、私は時々、突っ込みたい気分になるのだが。
最近は、その嫌味な性格さえも、ソイツ特有の自虐癖の一面なのではないか。といった、まるで未知の生物を研究する学者が、その動物の一挙手一投足に何らかの可能性を見込むような気持ちを張って、半分ほどは同情の意で、何とか納得のいくコミュニケーションの形することに勤めている。
そこまでの器量を持っていないと、彼とコミュニケーションを取ることは無理だろう。
なにせ、今年の八月で、引きこもり歴が五年を超える男だ。
BTTFの話やら、BEATLESの話はもう聞き飽きたから、お願いだから働いてください。
それが、私の唯一の願いだった。
序盤の序盤で誤訳をしてしまったが、彼は決して骨董品などという高尚な例えで描写できるほど、できた人間ではない。
彼に最もふさわしい、称号は、骨董品に憧れるだけの中身スカスカのブリキ細工ってところで、まさしく廃人として名高い男なのだ。
昭和時代の文化に憧れた狂人。
じゃあ、なんで私が、こんなイカれた人間の説明を親身にしているかって?
そりゃあ、できることだったら私だって、「」をつけてセリフ調に説明したいよ。
「○○さんは本当にダメ人間なんだから。」とか、ありがちなセリフを国民的なアイドル声優に声を当ててもらって、そっちの方が断然、楽だもん。
でも、それは叶わぬ夢。
私はコピー品以上の存在にはなれない。
類人猿が知識人には、なりえないように、それは世の理って言ってもいいほどの絶対的なルールなの。
なぜなら、私は。
この、男の、イマジナリーガールフレンド(空想彼女)なのだから。
(了)
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