20 人間との戦いを終えて

「……とりあえず倒せたよな」


『流石に倒せてるじゃろ。でなければ身に纏っていた装備を解く意味が分からんわけじゃし』


「ああ、でも一応ユイはまだ元に戻るなよ。何があるか分からねえんだ」


『了解じゃ。そもそも地上にまで下りなくちゃいけないし、鉄平達が立っているアンノウンも健在じゃしな』


「じゃあもうちょっと頑張ってくれ。結構エネルギー持ってかれてると思うけどさ」


『終わったら何か食べたいのじゃ』


「そうだな。そうしよう……終わったらな」


 ユイにそう言ってから、展開していた光の矢を消しながら歩み寄ってくる赤坂に問いかける。


「それで、下の様子ってほんとに大丈夫なんですか? こっちの方が優先ってだけで、やっぱり俺達も急いで降りたりとかした方が良いとか」


「さっきも言った通り、篠原さん達だけで充分。相手の位置も確認できてるし、何より本当に逃げ遅れていた一般人を襲うような事はしなかった。戦いに集中できれば、二級とかでも数人で囲めば充分対処できる。そう思える位には、全員階級の割にはよくやるわね。本部の皆の次位にはしっかりしてるわ」


「それ褒めてるんすか? マウント取ってんすか?」


「さあどうでしょうね。とにかく、今回の相手には充分よ。それに、増援も来たみたいだし」


「増援?」


「あの準一級が勝手に非番の連中引っ張り出してたみたいなのよ。みんな割と近所に住んでるみたいだから結構到着してるみたいで。ああ、あとなんか北陸第二にも声掛けてあったらしいけど、流石にそっちは必要なさそうね」


「まあマジで一般人襲うタイプだったり……それこそSランク以上のヤバイのが複数体いたかもしれないって考えたら、その辺は呼んどいて正解っすね。今回が色々と結果オーライだっただけで」


「色々と、ね」


 気を失って伸びているディルバインを見下ろして、赤坂は鉄平と柚子に問いかける。


「で、コイツはどうするつもり?」


「とりあえず捕まえて話聞くって感じっすかね……流石に伊月ちゃんも、何をしでかすか分からないから此処で殺せとは言わないっすよね?」


「……情報云々もそうだけど、そもそもコイツはアンノウンじゃなく人間だしね。この状態で安易にそんな事はできないでしょ。それにアンタ達の方から聞こえてきた音声から察するに、あんまり純粋に敵って感じの人じゃない気がするし。訳あり……みたいな」


「ユイちゃんも実質人間みたいなものだし、よっぽど味方味方してるんすから、その理屈でセーフならユイちゃんも色々とセーフって事にならないっすかね?」


「……ッ! うっさい! こんな時に揚げ足取るみたいな事言うんじゃないわよ!」


(……それを揚げ足取りだと思う位には、ユイの事を実質人間で味方みたいな存在だと考えてはくれているんだなこの人)


 それを指摘すれば話が再び拗れそうだから、今は指摘しないが。


「と、とにかく拘束するわよ!」


「じゃあ私がやるっす」


「ちなみに拘束ってどうすんの? 縄とか手錠とか持ってねえだろ俺達」


 元々対人相手に戦っていない事もあり、その辺のノウハウが自分達には無い。

 少なくとも鉄平には。


「まあアレっすよ。両手近づけてそれっぽい形の結界作れば即席手錠の完成っす」


「結界万能説じゃん」


 まあこの場合結界が万能というよりは、柚子が万能な訳だが。


「でも両手拘束したところで魔術とか使われたら結局あんまり意味ないんすよね」


「そういや魔術使う奴がなんかやらかした時って、どういう風に拘束しとくもんなんだ? 流石に一人や二人位良くない事した奴居るだろ」


「ああ、その時は一時的に魔術の使用を制限するような薬品を定期的に飲ませ続けるっす」


「へぇ……じゃあディルバインも一旦拘束して、その薬品飲ませんの?」


「いや今持ち合わせて無いっすよそんなの。そもそもこのディルバインとかいう人にそれ使ったところで、そもそも使ってる力が魔術じゃないっぽいっすから、意味ない気がするんすよね……何とかすべきはこっちっすか」


 そう言って柚子はガントレットを指さすがすぐに頷けない。


「そりゃそうだけどさ、最初言葉通じて無かっただろ? これで翻訳とかしてたらもう会話通じねえぞ」


「どうっすか? 馬鹿な私らと違ってエリートは異世界語分かったりしないんすか?」


「いやそれ分かったら私色々とヤバい奴でしょ」


「成程、伊月ちゃんも分かんないっすよね……私達と同類っす」


「いやちょっと待って、それなんかやだ」


『まあ最悪ワシが通訳すれば良いと思うのじゃが』


「あ、それ良いな。なんかいざとなったらユイが通訳してくれるらしいぞ」


「あ、そうか。異世界から来ているから異世界語が分かるんだ。その手が有ったか」


「……アンノウンの通訳とか信じられない。適当な事を言うかもしれないって主張するタイミングじゃないんすか今の」


「……ッ! う、うっさい!」


 と、そうこう話していると、静かに男の声が聞こえた。


「……その必要は無いよ。僕らの間の言語を調整している機器はまた別だ。だから没収するつもりなら持っていってもらって構わない」


 ディルバインがゆっくりと体を起こした。

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