18 生温い戦い方を
双方出方を疑うのではなく、三人同時に動いた。
鉄平と柚子を撃ち抜くように、付き出された両腕から浮かび上がってきた銃口が弾丸を射出する。
対する鉄平はその射線を潜り抜け距離を詰め、一方の柚子はバックステップを踏み距離を取りながら恐らくその銃撃を回避した。
……そう、基本接近しての徒手空拳が戦闘スタイルの柚子だが、まずは下がる。
相手がアンノウンで無い以上、可能であればやっておきたいプロセスがある。
打ち合わせはしていないが、やっているのはきっとそういう事だ。
だからその前提で鉄平も動く。
「行くぞ!」
一気にディルバインの正面まで躍り出た鉄平は勢いよくユイを振り抜く。
とはいえ一撃で相手を沈めるような全力攻撃ではない。勢いは良いが言わば出方を探る様なジャブ。
それをいかなる攻撃にも対応できるだけの耐性を維持する余力を残した状態で放った。
「なんだ、先程の戦いよりも攻撃が柔いじゃないか」
言いながら軽くバックステップをして躱したディルバインは、キーボードを打ち込むように右腕のガントレットを左手でタップする。
すると次の瞬間には、刃渡り三十センチ程度の光のブレードが握られていた。
「先程殺さないようにと言っていたな。それを甘えだとは言わない。そういう選択を命のやり取りの場で取れる事もまた強さだ。だが申し訳ないけど、僕はその強さに付け込むよ」
そして再び距離を詰めた鉄平の剣撃を、光のブレードで受け止める。
「こちらは全力で行かせてもらうぞ!」
そしてそこから、ユイの速度について来れるだけのスペックを持つディルバインとの攻防が始まった。
どちらかが剣を振るい、どちらかが受け止める。
一進一退の攻防。
それを行いながら、鉄平は気付く。
……気付き、考えるだけの余裕があった。
(悪くない……だけど動きが素人だ)
鉄平も人の事は言えない。
だがそれでも本当に素人だった頃と比べれば、その技量に天と地程の差がある。
だからこそディルバインの動きをみると、ジェノサイドボックスと戦った時の自分を思い出す。
あの頃の自分も目の前のディルバインも、手にした強大な力とある程度の身体能力で一定以上の力を得られていただけに過ぎない。
ではその力を過信して前に出て来たのか。きっとそれは違う。
少し前にディルバイン自身が、勝算が薄いと言っていたから。相手を欺く為に弱者のフリをするような人間ではなさそうな事は、流石に分かっているから。
だから、そこに過信は無い。
あったのはきっと、勇気だ。
(こんな動きで俺達二人相手に……下手したらもっと増えるかもしれねえのに前に出てきたんだ。すげえよアンタ!)
負ける訳にはいかないが、それでも賞賛に値する。
きっとディルバインなりに強い信念が有って、拙いながらも武器を手にしたのだ。
……やはり情報云々以前に。こちらが人殺しをしたくないとか以前に。
目の前の男を死なせるような戦いはしたくないと、そう思った。
敵ではある。
敵ではあるが……それでも。
だからこそ、此処までの攻撃は多少危険を伴ってでも軽い物に留めていた。
そこから最低限やっても良い範囲を探る為に動いていたであろう柚子の準備が終わるのを待っていた。
「閉じろ」
柚子がそう言った瞬間、ディルバインの周囲に結界が展開される。
最初に鉄平とユイがウィザードと戦った時に柚子に張られた結界と同じ。
そう、同じだ。
あの時鉄平達に向けてくれた良くも悪くも生温いやり方を、今度はディルバインにぶつけるのだ。
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