8 一つの結末を知る者
「何もわかんえええええええええッ!」
夕方、技術開発課近くにある自販機付近のベンチにて、赤坂がそう言って頭を抱えている所を目撃した。
午後はユイと別行動だった事もあり、自身のタスクを終わらせユイの元に向かってきたわけで、今に至るまでの事は分からないが……収獲無しと言った所だろう。
当然だ。望む物はそこに無い。
無いからこそ、色々な事が前向きに進んだ今があるのだ。
「ああそうじゃ。松戸さんから二人で何か飲めってジュース代貰っとるんじゃった。赤坂さんは何飲む?」
「……要らないわ」
「あの、ワシに不信感持って行動するのは当然の事だし止めろとは言うつもり無いのじゃが、ワシ以外の好意は受け取っても罰は当たらないと思うぞ」
「……コーヒー。なんか甘い奴で」
「了解じゃ。というかアレじゃな。やっぱり砂糖入ってる方が絶対美味しいのじゃ。ブラックコーヒーだけはほんと意分らんのじゃ」
「どうも、ブラックコーヒー大好き君です」
「うお、鉄平。いつの間に」
「今来た」
「お疲れ様じゃ」
「おうよ」
言いながら赤坂の前に立つ。
「で、どうでした? まあ分からねえって声聞こえたんだけど」
「……じゃあ聞かないでよ、煽ってんの?」
「いやそんなつもりはないですけど」
「でもまだ数時間だから! 私の真価は此処から発揮するから」
「はい赤坂さん。コーヒーじゃ」
「ありがとユイ」
赤坂はユイから受け取った缶コーヒーのプルタブを空けた所で、はっとした表情を浮かべる。
「あ、ありがとうじゃない……そ、そうこれは松戸さんに向けて言ったの」
「いや思いっきりユイの名前呼んでたじゃないですか」
「というかワシ初めて名前で呼ばれたのじゃ」
「……ッ」
赤坂はバツが悪そうに視線を反らす。
その姿からは一応の敵対心のような物は感じられたが……悪意のような物は見受けられない。
(というかそれ……最初からずっとじゃねえか?)
思い返してみれば、最初の段階から微塵も感じられなかったような気がする。
……実際そうだから、あの場でああいう馬鹿みたいな空気になったのだろうと思う。
本当に強く拒絶していたら、きっと本人の気質とは関係なくああはならない。
近い感じになったとしても、最初の頃の杏がそうだったように距離感や壁のような物が表に出てくるだろう。
そこにはきっと、本人の気質は介在しない。
これだけ感情が表に出てくるタイプの人間なら尚更だ。
だとすれば……そもそもの前提が変わってしまう気がした。
「赤坂さん……本当にユイが危険だと思って監査に来たんですか?」
思わず投げかけたその問いに赤坂は答える。
「何? 全然成果出てない私を煽ってるの?」
「いや、そういう訳じゃないです。ただ……赤坂さんはあまりに軽すぎる。本気でヘイト向けてたらそうはならないでしょ」
「なってるでしょ!」
「いやそういう反応がまさにそうでしょ」
軽く溜め息を吐いてから鉄平は問い掛ける。
「実際のところ、赤坂さんは何考えて此処に来たんですか」
そんな根本的な問い。
それにしばらく黙り混みはしたものの、やがて赤坂は言葉を紡ぐ。
「……最初に言ったでしょ。本性を暴くためよ」
「今もそんな感じですか?」
「そうよ、何も変わらない」
そう言い切った後、赤坂は言う。
「感情論に身を任せているようなアンタ達とは違うの」
そう言って缶コーヒーを一口飲んでから彼女は言う。
「……なんたって私はその先の破滅をこの目で見てるんだから」
その先の破滅。
それを聞いて、見慣れた人物の姿が脳裏に浮かんだ。
浮かぶくらいには、この二ヶ月弱で断片的ながらも色々な事を知ってきたつもりだ。
「あ、いたいた。久しぶり伊月ちゃん」
そしてその人物の声が耳に届く。
「杏先輩……」
かつて東京本部で起きた、友好的な存在を装ったアンノウンによる人の善意を踏みにじるような事件。
その当事者である風間杏がこちらに歩み寄ってきた。
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