7 監視

「とにかく私はアンタの事を一切信用していないわ!」


「テイク2じゃの」


 ひとしきり盛り上がった後、仕切り直し。


「だから暫くアンタの事を監視させてもらうわ!」


「あの、これワシが言うのもアレなんじゃが……そう堂々と来られると仮にワシがヤバい奴だったとしてもヤバい部分隠せると思うのじゃが……根本的にやり方間違えてないかの?」


「おーと出たーッ! 此処でユイちゃんの鋭い正論パンチ!」


「柚子。賑やかしいのは良いと思うのじゃが、赤坂さんは真面目な話をしている訳じゃし、此処はちょっと抑えた方が良いと思うのじゃ。TPOをわきまえるというか」


「oh……鋭い正論パンチ……」


「すまんのウチの柚子が……態々東京から来てるのに申し訳ないのじゃ……」


「あ、別に気にしてないから大丈夫よ。お気遣いありがとね……じゃない! しっかりしろ私、気が抜けてわよ惑わされるな……アンノウンは敵アンノウンは敵アンノウンは敵……よし! アンタは私の敵!」


 既にユイに陥落している疑惑が溢れ出ている赤坂は、胸を張ってユイの言葉に応える。


「それで私のやり方が間違っているかどうかって話だったわね。勿論間違ってないわ! 何せ私はエリートだから溢れ出る本性を正確に読み取る事が出来る!」


(……なら抜き打ちで来るなよって突っ込むのは野暮か)


 一々突っ込んでたら話も進まないし此処は黙っておこうと思って口を閉じた鉄平の隣で、ここぞとばかりに柚子がノリノリで赤坂を指差す。


「ならなんで抜き打ちで来るんすか! こっちも暇じゃないんすよ!」


(言ったよ……いやお前なら言うと思ったけども)


「……確かにその通りね。やっている事がちぐはぐだわ。ごめん」


(……認めんのかよ謝んのかよ。そんで柚子、お前はしてやったりみたいなドヤ顔浮かべんな!)


 腕を組み大勝利ご満悦といった表情を浮かべる柚子に内心苦笑した後、軌道修正の為に赤坂に声を掛ける。


「まあとにかく、今日一日ユイの監視をするんですよね?」


「ん? いやいや暫くって言ったでしょ。一週間位は見積もってるわ」


「……はい?」


 思わず素でそんな声が出る。


「あの、赤坂さん。俺達明日の朝までがシフトで、そこから48時間は何事も無ければ休みなんですよ」


「まあ特別な事が無ければウィザードはそうね」


「つまりそれ以降は此処に居ないんですよ。プライベートです、プライベート」


「そうね。一週間一日中張り付かせて貰うわ!」


「えぇ……」


「ホテルに寝に帰ってる時以外はずっと監視してるから覚悟しなさいアンノウン」


「あ、そこは帰るんじゃな」


「まあ流石に知らない男の家で寝泊まりはできねえだろ」


「いやそれ以上に睡眠時とかも監視するのは流石にプライバシーが無さすぎるというかモラルが無いというか……あなた達が嫌じゃない? 越えちゃ行けない一線ってあるでしょ」


「……配慮して貰ってる側が言うのアレですけどそろそろ言わせてください。赤坂さん監査員向いてないですよ」


 流石に我慢できなくなった。

 この人良くも悪くも滅茶苦茶である。

 多分悪い人ではないと思うのだが。


「は? 私エリートだから最強の監査できるんだけど! 四級の癖に馬鹿にすんな!」


「伊月ちゃん五級の時ジェノサイドボックスと戦えるだけの実力あったっすか?」


「……ッ! くそぅッ!」


「あと杉浦さん滅茶苦茶料理うまいっす!」


「くそおおおおおおおおおッ!」


「いやそれウィザード関係ねえだろ」


「……空いた時間で調理師免許取ってやる。負けたくないぃ……ッ」


「えぇ……」


「……元気出すのじゃ赤坂さん。一級ウィザードな上に、こういう仕事を一人で任せられるってきっと凄い事だと思うのじゃ」


「ありがとぉ……私の仲間アンタしかいないぃ……いやアンタ敵だ! 危ない危ない!」


 ……とにかく。

 そんなエリートウィザード赤坂伊月による、最強の監査が始まったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る