6 お酒は二十歳になってから 上
五月上旬。ゴールデンウィークも空け、五月病が蔓延する頃。
「見付けたあああああああッ!」
『やれ! 鉄平!』
「おう!」
特に五月病を発症する事無く新しい環境に適応した鉄平は、深夜の公園にて冗談のように高い殺傷能力を持つダガーナイフ程の刀身を振り下ろした。
そしてその刃、ユイの刀身はカメレオンのように周囲に溶け込んだ二十センチ程度の人形のような何かを消し飛ばす。
「やったか?」
『それやってないフラグなのじゃ』
「そう思える辺りほんと馴染んだな……でも流石にやってるだろこれは。単純な物理攻撃と内側からぶっ壊す力の両方で壊した筈だから」
そうユイとやり取りをしてから、鉄平は耳元に手を触れて言う。
「えーっと、こちら杉浦。アンノウン発見したんで破壊しました。反応は……完全に消えてる? ……良かった。合流します」
そして手を耳元から話して鉄平は言う。
「今ので片付いたみたいだぞ」
『やったのじゃ!』
そして元の形態に戻ったユイが掌を向けてくる。
「お手柄じゃな!」
「おう!」
そしてハイタッチ。
これで深夜の仕事も一段落だ。
……そう、仕事だ。
この日、管理課が打ち漏らしたアンノウンが市街地に出現した。
危険度を表すグレードはDランク。
ユイや先月のジェノサイドボックスと比較すれば遥かに危険度は落ちるが、それはあくまで管理局が観測した力の度合いでの判断に過ぎず、低出力で洒落にならない程危険なアンノウンという事もあり得る。
そしてそうでなかったとしても、基本どこかしらの異世界が悪意を持って送り込んでくる危険物だ。
いずれにせよ基本的には破壊しなければならない。
その為に今日が出勤日だった鉄平とユイも出て来た。
……ジェノサイドボックスとは別ベクトルで大変だったが。
「いやーマジで見つかって良かったな」
「終わらんといつまで経っても管理局に帰れんし仮眠できなくなるからの。ただでさえこの時間帯眠いのに長引くとしんどいのじゃ」
今回のアンノウンは反応が薄い上に、こちらの探知にジャミングを掛けてきていた。
結果この辺り近辺に居る事しか分からなかった上に、結果的に相対して初めて分かったが、周囲に溶け込む厄介な奴で。
つまりシンプルに捜索が大変で、壊すよりも探す方に手間がかかる物凄い面倒くさい敵だ。
そんな敵との戦いを、夜の12時近くまで数時間行っていた訳だ。
「まあ休みの日に呼び出されるよりは良いがの」
「それはそう。とりあえずお疲れ、ユイ」
「鉄平もお疲れじゃ」
「まあ仕事終わった感出してるけど、仮眠挟んで明日の朝まで仕事なんだけどな」
ウィザードの実働部隊の勤務体系は、余程の事が無ければ消防士の三交代制に近い形になる。
先月ユイがこの世界に現れた時のような余程の事があれば休日だろうが全員出てきて、結果しばらく帳尻合わせに勤務体系が滅茶苦茶になる事はあるが、基本はそんな感じで。
だから鉄平とユイも今日は家には帰れず、このまま他のウィザードと共に管理局に戻る事になる。
「しかし鉄平、これだけ動き回った割には元気そうじゃな?」
「まあ今日はな。なにせ明日になればちょっとテンションが上がる事があるからよ。それ考えると元気湧くわ」
「ん? ああ、そうじゃったな。いや、もしかしたら明日じゃなく今日じゃないかの?」
そう言ってユイはポケットから、マイスマホを取り出す。
「11時59分。あ、日付変わった……誕生日おめでとうじゃ、鉄平」
「ありがと」
5月10日。
杉浦鉄平、二十歳の誕生日である。
(……これで解禁だ)
そう、解禁。
ずっと手が届かなかった物に手が届く。
(これで俺は酒が飲める!)
それが楽しみで今日一日頑張っていた。
別に今までそこまで酒に興味があった訳ではない。
故にルールを破ってまで飲むといった事はしなかった訳だが、合法的に飲める年齢が近付いてくれば話は変わってくる。
具体的にはここ一週間、滅茶苦茶酒が買える日を楽しみにしていた。
つまり今日の夜、色々と決行だ。
(もう我慢する事はねえ。やるぞ)
最強の誕生日が始まる。
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