14 放てるだけの最善策を

 かつて大勢の死者を出した程の化物の情報は、あらゆるメディアを通じて一般人にも知れ渡る。

 だから当然、生半可な攻撃では傷が付かない程に強固な肉体を持つという事は知っていた。


 だけどその体が再生するなんて事は知らない。


(……新型ッ!? ふざけんなマジかよ!?)


 もしも。

 もしも三年前と同じだけの強さの化物が再生能力を携えているのだとすれば、きっとそれ以上が無い程に最悪な事だ。

 此処で倒しきれなければ。

 この化物が外に出るような事があればその時は、冗談抜きで世界が滅んでもおかしくない。


「ユイ! なんか良い感じの力出せ!」


 そう叫びながら前へと踏み出した。

 必死だった必死だった必死だった必死だった。


 今の自分達が死なない為や、このショッピングモール内に居る人達を死なせない為や、三年前の事を起こさない為や、そんなもっともらしい理由は全部消し飛んで。


 本能的に。とにかく何が何でもこの化物を殺さなければならないと、そう思った。


『使え鉄平!』


 そしてユイがこの状況に最も適していると判断した攻撃方法を脳に流し込んでくれて……後はそれに身を委ねる。


「っらあああああああッ!」


 そうして振るった剣は黒い巨体を切り裂かない。

 まるで鈍器のように叩き付けられる。


『どうじゃ!?』


 胴体に叩き付けられたユイの刀身。

 そこからその衝撃が満遍なく、黒い巨体を内側から破壊するように伝わっていく。


 どのみち切り裂いても抉れるのは一か所だけ。

 それならばこの一撃で、本体が再生できない形で壊れてくれることを祈る。


 そして分かりやすい形での破壊は後の二人に託す。


「閉じろ!」


 鉄平の攻撃で僅かに後ずさったジェノサイドボックスに向けて柚子がそう叫ぶと、ジェノサイドボックスの周囲に結界が展開される。

 そして。


「炸裂!」


 そう呟いた瞬間、結界内で爆発が発生。

 先の鉄平の一撃で大きなダメージを負っていたであろうジェノサイドボックスの肉体を木っ端微塵にし、文字通り消し飛ばす。


「やった!」


「終わってねえ駄目押しだ!」


 ふら付きながらも距離を詰めて来た神崎が、鉄平達の正面に壁状の結界を展開した後に、ジェノサイドボックスの肉体が先程まで有った何も無い場所目掛けてハルバードを振り下ろす。

 当然、何かに当たったような様子は無い。

 それでも、事前に張られた結界に大きなヒビが入った。


 衝撃波。


 おそらく昨日の戦いで鉄平がウィザードから喰らった最初の一撃と同系統の攻撃。

 振り下ろした地点以外にも攻撃が及ぶ、まだいるかもしれない何かに対して振るえる、おそらく神崎が瞬時に放てる中で最も有効な一撃。

 そして。


「……手応えありだ」


 その一撃はまだその場に残っていたであろうジェノサイドボックスの肉体を確かに捉えた。


 ……だが、その表情は険しい。


「……正攻法じゃ駄目か」


 そう呟く神崎の視線の先にあるのは、黒く染まった床。


(そうだ……まだ終わってない)


 床を染めた黒い影のような何かが、この建物内がまだジェノサイドボックスの影響化にある事を意味している。

 つまり……何も終わっていない。

 振り出しだ。


『おい鉄平! あれ……ッ!』


「分かってる……マジかよ」


 視界の先。こちらから少し離れた所の床から生えるように上って来る。

 無傷の、更に50センチ程大きくなった巨体。


 ジェノサイドボックスが。

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