13 一閃
「ユイ、一応確認しとくぞ」
ジェノサイドボックスが居るであろう二階本屋周辺に向けて走る中で、鉄平はユイに問いかける。
「この先に居るのは人を大勢ぶっ殺すような化物だ。それに対して俺はお前の力を振るう。俺はそれを悪い事だとは思わねえけど……嫌な気持ちになるようなら言ってくれ」
三年前に出現したジェノサイドボックスの姿は、ニュース映像で確認した限り化物だ。杉浦鉄平が培ってきた倫理観に当てはめても、アレを破壊する事に対する嫌悪感のような物は湧かない。
動物の駆除だとかそういうのとはまるで違う。
だがそれはあくまで、杉浦鉄平の場合の話だ。
ユイにそれが当て嵌められるかどうかは分からない。
自分の力を使って何かの命を奪う。何かを壊す。
こんな状況で問うべき事では無いのかもしれないが、武器のアンノウンである彼女が今後真っ当に生きていく上で、その辺の取捨選択はきっと自分が思っている以上に大切にしていかなければならない事だろうから。
だからこその問い。
それに対してユイは答える。
『大丈夫じゃ。倒さないと色々とマズいのじゃろ? 遠慮なくワシの力を使ってくれ。相手が誰であれ必要なら致し方ないじゃろうから』
「分かった」
『…………その辺を配慮してくれるのは、素直にありがとうなのじゃ』
「今後も聞いてくからな。今日のも嫌な事あったらちゃんと言えよ」
『了解じゃ』
そんなやり取りを隣で聞いていた柚子が言う。
「ユイちゃんの返答は分かんないっすけど……アレっすね。良い感じの保護者してるっすね」
「そりゃどうも」
『鉄平が保護者……ワシ完全に子供扱いじゃぁ』
(いや子供じゃん)
そんなやり取りをしている内に、随分と距離を詰めた。
そして到達し、視界に映る。
「……ッ!」
現時点で全長三メートル程の黒い人型の化物、ジェノサイドボックス。
そして。
「ちょ、マジっすか!?」
「神崎さん!」
ジェノサイドボックスに殴り飛ばされ、血塗れでこちらに弾き飛ばされてくる神崎の姿が。
(すぐに手当て……いや、それよりも!)
血の気が引いたがそれでも。
何よりもまず、目の前の化物を排除しない事には始まらない。
「ユイ! お前の力振るうぞ! 良いな!」
『叩き切るのじゃ!』
「突っ込むっすよ! 私が合わせるっす!」
「ぶっ壊してやる!」
次の瞬間、柚子と同時に全力で前へと踏み込んだ。
叩き切る。
その意思だけを正面の化物へと向けて。
そしてこちらに向けられた手から射出された黒い鉛玉のような球体を体を反らし回避し、枝分かれするように振るわれた腕を掻い潜って間合いを詰め、そして振るう。
「っらあああああああああああああああッ!」
巨体の白く変色した脇腹を抉り取るように、短い刀身で一閃した。
そしてそれとほぼ同時。
「吹き飛べ!」
柚子の叫びと共に激しい衝突音が耳に響いた。
追撃の為に体勢を立て直し振り返ると、そこには拳を振るった柚子と頭を消し飛ばされたジェノサイドボックスが居た。
効いている。満身創痍もいいところだ。
(刺す……トドメを!)
そして早急に神崎の応急処置を。
そう考えて踏み出そうとしたところで、ジェノサイドボックスの奥から、血塗れの神崎が全力疾走でこちらに走ってきているのが見えた。
そして床に落ちているハルバードを拾い上げながら叫んだ。
「二人共手を止めるな! ぶち込めるだけの攻撃をぶち込んで跡形もなく消し飛ばせ!」
そして必死の形相で神崎は叫ぶ。
「最新型だ! コイツの体、再生するぞ!」
そんな最悪な情報を。
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