14 導き出した最善策

 とにかく、あの場に居た全員が勝者でいられるように。

 か細い糸を手繰り寄せて到達できた今を壊してしまわないように。

 自分達は昨日の事よりも、これからの事を話していかなければならない。


 その為にも一応篠原に問いかける。


「篠原さん、少し確認したい事が有るんですけどいいですか」


「なんですか?」


「あの時篠原さんの言葉で他のウィザードが止まった。今もこうして代表して俺と話してる。それってつまり、此処のお偉いさんみたいな認識で良いんですかね」


 これから建設的な話をしていく為に、その辺は確認しておかなければならないと思った。


「お偉いさん……いや、そんな大層な者では……」


「いや、お偉いさんじゃぞ」


 謙遜する篠原の代わりにユイが答える。


「篠原はワシらが戦っていたウィザードの部隊の隊長らしい。あと此処の幹部の一人じゃ」


「普通にお偉いさんだ……ていうかユイ」


 色々と踏み込んだ話ができる相手だとは分かったが、その前にユイに言っておく事が出来た。


「なんじゃ?」


「篠原じゃなく、篠原さんな。目上の人だし、今此処の人達に色々世話になってるだろ。その辺はしっかりしような」


「あ、うん。分かったのじゃ」


 素直にそう頷いたユイは言う。


「じゃあ改めてじゃが、篠原さんは此処のお偉いさんじゃ」


(よし、それで良い。喋り方自体は癖強いから無理にとは言わないけど、その辺はしっかりしていこうな、うん)


 そう考え内心で頷く鉄平にユイは言う。


「……あれ、でもちょっと待つのじゃ。目上の人でお世話になっている相手の名前を呼ぶときはさんを付ける。という事は……鉄平、さん?」


「あ、いや、俺は良い俺は良い! なんか今更変えられてもしっくりこないから! なんというかこう、臨機応変に行こうぜ!」


「よ、よし! なんか良く分からんが分かったのじゃ」


「なら良し、この話終わり!」


 そう言って鉄平は軽く柏手を打ってから落ち着いて篠原に言う。


「それで篠原さんがお偉いさんなら、色々と話しておきたい事が有るんです」


「強引に空気戻しましたね……で、なんでしょう」


「俺達は……というかユイは今後どうなります?」


「……丁度、その辺りの話をしていかなければならないと思ってました」


 篠原は軽く咳ばらいをしてから続ける。


「現状、私達がユイさんやあなたに危害を加えたりするつもりはありません」


「まあだからワシがこうして生きている訳じゃからの」


「そうだな。だけど、普通に考えて無害だから好きにしてくださいなんて事にはならないですよね」


「いや、なるじゃろ。ワシ無害認定されたから生きてる訳じゃし」


「すみませんが、そんな簡単には行きません」


「行かんのか!? めっちゃ無害じゃよ今のワシ!?」


 少しショックを受けたような表情を浮かべるユイに少し同情しながら、篠原の言葉を待つと、少し言いにくそうな雰囲気で彼は答える。


「それは分かってますよ。ただあくまで危害を加えない事にしたのは私達、異界管理局北陸第一支部のウィザードだけです。故にウィザードの一般論から外れた状況にあるユイさんは、今だ安全が完全に保証されている訳ではないのです」


「俺達にとって篠原さん達は味方って考えて良いんでしょうけど……味方の味方は敵って事ですよね」


「ええ。我々があなた方の味方をしているのはあくまでイレギュラーですから、現時点では極々少数派ですよ。……で、此処までは杉浦さんも察していたと思いますので、そろそろ此処から先の話をしましょうか」


「ええ、お願いします」


 言いながら頷く鉄平と、軽く頭を抱えるユイを一瞥してから篠原は言う。


「今必要なのはユイさんを殺さずに生かしている事を少しでも外部のウィザード達に納得させる為の説得材料です。そして確実に効力を発揮するかは分かりませんが、一つ提案を用意してあります」


「提案、ですか?」


「ええ」


 そして彼は鉄平に告げる。


「杉浦さん。我々の仲間に……ウィザードになりませんか?」


「……へ?」


 そんな、大胆な提案を。

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