11 勝ち取った物

 瞼を開いて視界に映った天井は、少なくとも慣れ親しんだ自宅のそれでは無かった。


(どこだ此処……)


 ゆっくりと体を起こしながら周囲を見渡すが、やはり身に覚えが何も無い場所だ。

 だが全身に走った痛みと、ベットの隣に置かれた椅子に座ってベットを枕にしているユイの姿を見て、直前の記憶が徐々に蘇っていき、色々と状況を察する事が出来た。


(……なるほど、マジで止まってくれたんだ)


 そうなるに至った経緯は分からない。

 分からないがそれでも事実として、ユイが生きている。

 だったら難しい事は一人で深く考えずに、後で直接聞き出そうと思った。


 ユイが生きていて、共にどこかに運ばれたのだとすれば、その答えを知っている人物とはまた接触する事になるだろうから。


 だから今はとにかく。


「……良かった、本当に」


 ユイが無事生き残ってくれた事を喜ぼうと思った。

 何よりもまずはそれだ。


 と、そこで鉄平の言葉が耳に届いたのかもしれない。


「……ん」


 ユイが静かな吐息を漏らし、ゆっくりと体を起こした。

 起こして、目を擦りながら徐々に意識を覚醒させていき……やがてこちらの意識が戻っている事に気付いたのか、大きく目を見開いた。


「て、鉄平! 良かった! 目を覚ましたのじゃ!」


 そう言ってユイは、身を乗り出してこちらに抱き着いて来る。


「良かったのじゃ! 本当に良かったのじゃ!」


「ちょ、ユイ! 痛い痛い! ストップストップストップストップゥッ!」


「あ、ごめん……普通に怪我人じゃったな」


 我に返ったようにそう言ってユイは体を放し、再び椅子にちょこんと座る。

 その瞳には涙が浮かんでいて、本当に心配を掛けたんだなという事が分かった。


「でも本当に良かったのじゃ。鉄平丸一日近く寝てたから」


「マジでそんなに寝てたのか俺」


「うん。じゃからほら、柚子が頭を抱えてたぞ。マズいやり過ぎたかもしれないっす! って」


 物真似をするように頭を抱えるユイだが、元ネタを知らない。


「柚子……誰だそれ」


「ああ、そうか分かる訳がないの。ほら、鉄平を思いっきりぶん殴ったポニーテールの女がおったじゃろ? あ奴の名前が風間柚子じゃ。鉄平的にはぶん殴られて印象最悪かもしれんが結構良い奴じゃ」


「ああ、アイツかぁ」


 改めて思い返すが、正直思い出したくない。

 なんというか、この世の終わりみたいな痛さだった。

 おそらくアドレナリンがじゃぶじゃぶしてたから立てていただけで、ほんとエグい一撃だった。

 丸一日意識が戻って来ないのも頷ける。


 まあそれはともかく。


「つーかその感じだと、悪いようにはなって無さそうだな」


 今こうしてユイを監視するような誰かが居る訳でもなくて、そして悪くない関係も築けていそうだ。


「そうじゃの。ワシが此処におるのも捕らえられたとかそういう事ではなく、保護って感じみたいじゃからの。色々と聞きたい事を教えてくれたし、碌に答えられる事は無かったが、聞かれた事に答える事もした。そういう事が穏やかな空気でできる位には、良い扱いをしてもらってる」


「そっか、良かった。感謝しないとな……多分こうなってくれたのは普通の事じゃ無い筈だし」


 その事に改めて安堵すると共に、今は考えないと決めていたのにやはり引っ掛かる。


(ウィザードの人達は、なんで此処まで手の平を返したように良くしてくれているんだ?)


 読めない。向うの行動があまりにも。

 ……まあそこに悪意が無いであろう事は流石に分かるから、正直分からないままでも別に構わないのだけれど。

 ああ、そうだ。別に構わない。


「感謝と言えば改めて言っておかなければな。鉄平……ワシの為に戦ってくれてありがとう」


「どういたしまして」


 ひとまず十分すぎる位に得た物はあったと。

 そう思う事ができたから。

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