ex 追走者達
「こ、これ相当マズい事になるかもしれないっすね」
「かもしれないじゃない。なっているんだ既に。大事件だ」
「そうっすよねぇ……うわぁ、マジ最悪っすよぉ!」
黒いスーツに身を包んだ異界管理局北陸第一支部所属の準一級ウィザードの女子高生、ポニーテールがトレードマークの風間柚子は頭を抱えてそう叫ぶ。
「風間、時間帯考えろ。静かにな」
「あ、すんません」
上司であり部隊長の三十代前半の男性、一級ウィザードの篠原に謝罪しつつも、目の前の何かが突き刺さっていた形跡のあるアスファルトに改めて注意を向ける。
この場所に異世界から転移されてくる物品が……彼女達ウィザードの中でアンノウンと呼ばれている何かが出現していた事は支部に設置された観測機で確認済だった。
危険度を表すグレードはSSS。
よりにもよってこれまで観測されて来た中でも最悪な脅威の一つとして分類されるそんな代物が、ダンジョンという隔離所の外に出現してしまった訳だが……この場所にはもう残っていない。
……そして反応も消えた。
「しかし一体どうなってんすか……最高クラスのアンノウンっすよ。まさか民間人が破壊したとは思えないし……だとしたら観測機に反応しない位に力を隠したって事っすかね」
「だとしてもあれだけの強い反応を隠せるものか? 普通に考えれば無茶なものだが」
「でも常識を超えた挙動をするのがアンノウンっす」
「何せ違う世界から来ているからな……頼んだぞ、お前が頼りだ。神童と呼ばれて来た力を此処で発揮してくれ」
「やれるだけやってみるっすよ」
言いながらアスファルトに空いた穴に手を触れる。
異界管理局に設置された観測機では一定以上の反応のあるアンノウンしか検知できない。故に地に足を付けた捜査というものが現場のウィザードには求められる。
その為に市民から情報提供を募るし……専門の技能も駆使する。
だがそれでも目の前に有った筈の何かの所在は掴めない。
もしそれを探せる可能性がある者が居るのなら……この支部においては彼女に他ならない。
(……反応が薄すぎる。辿れるっすかねこれ……)
異界管理局におけるウィザードの等級において準一級は上から三番目。
上澄み中の上澄み。
その階級に僅か16歳で到達する程の才能の持ち主が風間柚子だ。
諸々の都合上一級には上がれていないが、既にその実力はその域に……否、その先に到達しているかもしれないと評される程の天才。
彼女ならば……可能性がある。
「皆、すまないが一旦二人一組で足を使って探してくれ! 風間が辿れれば情報を回すからよろしく頼む!」
篠原の指示でひとまず探知を風間に任せたウィザード達が走り去っていく。
「……皆が見付けてくれると話早いんすけどね」
「望み薄だろう。現れたのがシンプルな化物ならともかくアンノウンだ。自分の意思を持って動くタイプでなければ民間人に寄生して好き勝手動く訳で。屋内に普通の人間とその持ち物として拠点を組まれてたら、一軒一軒虱潰しに調べなければならなくなる。潜伏先の家に近付いたら反応が……なんて単純に行ってくれるとも思わないからな」
「そうっすね。だとしたらほんと私だけが頼りって訳っすね」
「ああ。お世辞でもなんでもなく捜査も戦闘もお前が俺達の要だよ。だから頼むぞ」
「はい! そこまで言ってくれるならマジで頑張るっすよ私!」
「そこまで言わなくても頑張ってくれ……」
「もっと頑張るって意味っす! っしゃあ、やったるっすよ!」
「風間、だから夜なのにうるさいぞ」
「すみません。あ、でも篠原さんもさっき皆に大声で指示出してなかったっすか?」
「人の事を言える立場じゃなかったな」
「そうっすよ、どんな立場で私に注意してんすか」
「まあ一応……上司の立場か」
「……確かに。それ言われたら反応できねえっすね」
そんな軽口を叩きながら、より深くアンノウンの痕跡を辿っていく。
神童と呼ばれた魔術の才能を、最大限に生かして。
──────
今回までが一章で次回からが二章となります。
実質的にプロローグのような章でした。
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