2 女の子家に連れて帰った
『なあお主! お主何かやったのか!? こんなのおかしいじゃろ!? 説明せい!』
「いや説明して欲しいの俺の方なんだけど。何お前どうなってんの?」
『それこっちのセリフじゃ!』
「いやどう考えても俺のセリフだろ!」
良く分からないが、互いが良く分かっていない事だけは分かった。
と、互いの理解が追い付く前に状況だけが進展していく。
『あ!? ちょ、マズイ! 力が維持できん! 段々弱く! な、なんで!? こ、このままでは……っ!』
「え、何? 良く分からんけど大丈夫?」
『大丈夫な訳があるか! え、やだやだやだ! ひゃあああああああッ!』
焦りまくりで妙な声が脳内に響いた次の瞬間だった。
「えぇ……マジかぁ……」
掴んでいたグリップが人の手の感触に変わり……聞こえてきていた声相応のビジュアルが視界に映っていた。
「ああぁ……ワシのえれがんとなフォームがこんな貧相な体にぃ……」
白いドレスを着た中学生……いや、小学生程の白髪ショートの女の子の姿が視界に映っていた。
座り込む姿は物凄く貧弱そうで……危険性の欠片も感じられない、そんな姿。
「どうしてくれるんじゃこれぇッ!」
「いや知らんけど……」
勢いよく立ち上がって涙目で訴えてくる剣の女の子(仮称)に対してそんな事しか言えない。
そもそも気を使って何か言ってやるべきかも分からない。
(訳分かんねえけど……多分この見た目と言動に騙されちゃいけねえんだよな)
本人が初手から自白していた事を鵜呑みにするなら、目の前の女の子はこちらの体を乗っ取ろうとしていた。
つまり触れてきた相手の自我を奪うタイプの、寄生虫のようなタイプの化物、及び道具という事になる。
この手の状況を自らで解決しようとせず、ウィザードを呼ぶことが義務付けられている理由がこれだ。
そして現状どういう訳か乗っ取りは失敗しているようだが、実行しようとしたという事実の有無がきっと大切だ。
(とにかくさっさと異界管理局に連絡を……)
そう考え再び通報を試みようとしていた時だった。
「本当に参ったぞこれ、完全に詰んでる気がするのじゃ……が?」
握っていた手が強く引っ張られた。
正確に言えば全身の力が抜けたようにふら付き出した彼女が、その場で崩れ落ちるように体調を崩したのだ。
「……あ……これ駄目な奴じゃ」
「ど、どうかしたのか?」
思わずそう問い掛けながら、一旦その場に寝かせた所で彼女は言う。
「本来はお主の生体エネルギーを糧にできる筈だったのじゃが……カスみたいな力しか流れ込んでこんのじゃ……これでは今の形態でも持たないのう…………やだなぁ……」
「……」
そうなる理屈はイマイチ理解できないが、何やらウィザードを呼ぶ前から既に虫の息のようだ。
つまりこのまま放置しようがウィザードを呼ぼうが、きっと自分にも周囲にも大きな影響が出る事は無い。
余程のイレギュラーが無ければ、これで終わりだ。
……イレギュラーが無ければ。
(……駄目だ。これは流石に駄目だ)
軽く深呼吸して、それから彼女を抱きかかえて走り出した。
「……何をしておる人間」
「良いから喋るな余計な体力持ってかれるぞ」
「……自分がやっておる事がどういう事か、分かっておるのか?」
「何度も言わせんなマジで黙ってろ!」
結論だけを言えば、彼女の存在そのものがイレギュラーだった。
どこからどう見ても人間の容姿で、しかも子供だ。
イレギュラーな要素はただそれだけ。
19年間積み重ねてきた倫理観が、何もせずに衰弱させる事も、呼ぶべき人達を呼んで処理をする事も拒んだのだ。
社会的な責任を果たす事を拒ませたのだ。
だから抱えて走り出した。
他の誰かに通報されるリスクを極力抑える為に。
(病院……いや、駄目だ。人じゃねえもん見せてまともな答えが帰って来るかよ。って事はとにかく家か。一旦それだ)
繋いで良いのかも分からない命を繋ぐために。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます